かめ

宇宙から届く、ウミガメのメッセージ

高校生のころ、文化祭の企画で「つまようじアート」に参加しました。発泡スチロールの土台に、色のついたつまようじを刺してつくるモザイク画です。各クラスに分割された土台が割り振られて、事前にひとり何十本かずつ指定の配置で刺していくのですが、自分が何を「描いている」のかそのときにはわかりません。文化祭当日、すべての土台を中庭に並べることで初めて何の絵か判明するという趣向でした。

まさに「全体像は遠くから見た方がよくわかる」を実感したわけですが、「地球の変化は宇宙から見た方がよくわかる」とまで言われたら、少し意外な気がしませんか?

社会を大きく変える先端技術の現場を取り上げる日経電子版の連載「Disruption 断絶の先に」、3月は「未知を追いかけて」というシリーズをお送りしています。第3回のテーマは人工衛星ビジネスです。

日本初の人工衛星が打ち上げられた1970年からちょうど半世紀。ウミガメにつけた発信機で海水温の情報を集めて変化を予測する、地表温度や降水量データからキウイ栽培に最適な場所を見つける、といった、人工衛星で集めた気象や地形のデータが地上のビジネスを大きく変えうる事例が紹介されています。

気候変動や自然災害は地球規模の問題です。地上の人間には大きすぎる地球も、宇宙からならまるっと見渡すことができます。全体をざっくり見るだけでなく高精細な画像も取得できるようになっていて、コストの低下も期待されています。モルガン・スタンレーは、世界の宇宙産業は2040年には1兆ドルまで成長すると予測しています。

興味深いのは、将来有望な分野である人工衛星ビジネスに関わる人たちの視点が、まるで宇宙から見ているように「地球規模」なこと。記事中でも「人類の文明活動を最適化する」「SGDsの取り組みに貢献できる」というようなスケールの大きな言葉が出てきます。

思えば、文化祭で完成したつまようじアートは、その年にメジャーリーグに挑戦し大活躍したイチロー選手の姿でした。既存の枠組みを超えるチャレンジには高い志が欠かせないことを、あのときすでに教えてくれていたのかもしれません。

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先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊すディスラプション(創造的破壊)。従来の延長線上ではなく、不連続な変化が起きつつある現場を取材し、経済や社会、暮らしに及ぼす影響を探ります。

(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 森下寛繁)