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マーケター必須科目「人間理解」に必要なn1分析は3つのポイントを抑えれば良し

先日からMarketing Nativeさんで書評連載を始めました。書評と言っても、本を読んで感じたことや思ったことをツラツラと紀貫之しただけで、どちらかと言えば自分の気付きポイント列挙になってしまいました。

連載第一回にあえて堀栄三の『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』を選んだ理由は「そろそろマーケティング界隈の"データ分析"に対する誤解を解いていきたい」と考えたからです。

「データ」と言っても、データの範囲はGAやサチコや媒体の管理画面に掲載されている定量データだけではありません。デプスインタビュー、口コミ、他にソーシャルリスニングなど様々な定性データがあります。

「分析」と言っても、統計学や機械学習、データサイエンスだけが分析ではありません。顧客の解像度が荒いから高める、答えが無い問題に自分が納得できる意思決定を下す、仮説を立てるために案を作るなども分析です。

つまり、GoogleのBigQueryを使ってSQLを書くだけがデータ分析と考えるのは、サイコロの一面だけで物事を判断しているような気がするのです。

ソーシャルリスニングを通じてn1の顧客の解像度を高めたり、見つからないサービスのヒントを探すのも、データ分析の1つの姿です。そして、それらはマーケターが普段から業務で実践していることです。

つまり「人間理解」もデータ分析だと思うのです。

私たちマーケターは普段から「データ分析」をしているのに、なぜか「データ分析」では無いと考えている。それが冒頭に述べた「誤解」です。そのような状況下で、顧客の解像度を高めたり、ビジネスのヒントを探したりする仕事を社内でなんと説明されているのでしょうか?

「ユーザーのコメントなんか読んで売上が増えるんですか?」

「マーケターの自己満足じゃないですか?」

ソーシャルリスニングや口コミ分析にはこんな批判が聞こえてきますが、本当何も見えていないなぁ…と私は思います。一方で「ちゃんとマーケターが説明しろや」とも思います。

消費者がサービスを利用することでお金が発生するのなら、その消費者がどんな人かを徹底して理解するのは至極当然なことではないでしょうか。長い付き合いになる友人について何も知らず過ごせるでしょうか? 顧客は友人ではない、なんて詭弁は勘弁してください。言い方を変えると、顧客に目を向けないでどうやって商品・サービスを作り、コミュニケーションを通じて知ってもらい、使って貰い、使い続けて貰えるでしょうか

もちろん全員について知ることは難しいでしょう。それでも1人1人の解像度を高めていけば「なるほど、こういう感情になるのか」と勘所を掴めます。

ちなみに解像度を高めるのに、別にソーシャルリスニングである必要はありません。口コミ分析でもデプスインタビューでも訪問調査でも良いのです。

ただ、ソーシャルリスニングはいつでも手軽に始められて、デプスや訪問調査と違い「集団の会話を邪魔にならない程度で覗かせて頂いている感覚」でまったく雑味が無く、なによりも無償で済むのでn1を見る「訓練」「練習」にもってこいなのです。私自身、常日頃から意識して実践するようにしています。

私の場合、3つのポイントを意識しているのですが、今回は自分の納得度を高めるためnoteを通じて言語化しようと思います。


①重要なのは「背景」

自著「なぜつい買ってしまうのか?」で紹介したインサイト4観点を意識してソーシャルリスニングするようにしています。

シーンとは、隠れた心理が感じられた状況を指しています。
源泉とは、隠れた心理が感じられたキッカケとなること・ものを指しています。
背景とは、隠れた心理の背景にある生活価値観を指しています。
情緒とは、実際に感じられた心理(情緒価値)を指しています。
どんな状況で、何をキッカケに、どんな生活価値観を持っている人が、どう思ったのか。この4つの要素がインサイトには欠かせません。

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つまり、シーン、源泉、背景、情緒に紐付けて読むのです。全てを埋めるのは難しかったとしても、なるべく洞察してでも空白を埋めるようにします。

ちなみにシーン、源泉、背景は「ファクト」「客観」で、情緒は「オピニオン」「主観」です。どちらも欠けてはいけません。「事実」と「感情」の両方を抑えているからインサイトがより見えるようになります

この4つのうち、いずれも欠けてはいけないのですが、何がもっとも重要かと問われれば「背景」すなわち「どんな生活価値観か」だと答えます。

どんな行動にも、その人の価値観が反映されます。積み重ねた時間軸の判断基準が価値観だとするならば、生活価値観を知ればその人の歴史を(一部であったとしても)知れたとも言えるでしょう。「背景」が分かれば「なぜそんな行動をするのか?」のヒントになります。

ソーシャルリスニングの核心とは「行動」を見るのではなく「人間」を見ることだと私は考えます。だから「背景」の解像度を高めるのが何よりも重要です。

「背景」は「PEST」(Politics、Economy、Society、Technology)のような世相や多くの人に共通する事項でも良いですし、或いは超個人的なものでも構いません。が、なるべく「PEST」に寄せたい。なぜなら超個人的な背景は汎用性に欠けるからです。かりにn1からインサイトを見つけたとしても、それが他の人に当て嵌まる可能性が低いのです。

以前行ったデプスインタビューだと「家訓」が背景にあると分かりました。大河ドラマの1ヶ月目のような、幼少期の主人公を両親が厳しく指導する際に言い聞かせるセリフです。悪く言えば家系・家柄の○○すべき症候群に囚われているのです。家訓の内容自体は汎用性に欠けますが、家訓に縛られているという背景は汎用性が高いです。

他のデプスインタビューだと、ベタなところだと「家庭内別居」が背景にあると分かりました。家庭内だと理解されない・理解しようとも思わないから「共感」を職場や友人関係に求めるのです。人間って、すごいって言ってもらいたい生き物なんですよねぇ。これは汎用性が高い。

一事が万事このような感じで、「行動」に目を向けるのでは無く「背景」に目を向けることで「理解できない行動」「辻褄が合わない行動」の理由を紐解くことができるようになります。


②抽象度を高めて落とす

「自社の商材はソーシャルリスニングできるほどコメントが多くない」「あまり感想について書かれない」なんて声も聞きます。

もちろん、商品・サービスに対して言及があるのが一番良いのですが、ソーシャルリスニングはあくまで「n1を見る訓練」「1人1人の解像度を高める」が目的です。商品・サービスの利用シーンに対する言及より、商品・サービスを利用する顧客の解像度が高まる方が大事ではないでしょうか。

私の場合、商品・サービスが提供するベネフィット(特に情緒的ベネフィット)に目を向けて、同じようなベネフィットを提供している商品・サービスにも目を向けます。ちょっと分かりづらいかもしれませんが、こちら。

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我が家では「ハレの日」は必ずエビスを飲むのですが、「エビスビール」に対してのみソーシャルリスニングするのではなくレイヤーを上げるべきだと思うのです。

例えば、私はエビスビールを飲むことで「極上の1人時間」「勢の極み」を味わっているのですが、同じようにソーシャルリスニングを通じて「極上の1人時間」「勢の極み」を体験している人を見に行けば良いのです。

「こういう体験をしていると、こういう言葉が出てくるのか」

「エビスビールを飲んで、こういう情緒になっているだろうか」

行動ではなく人間を。商品・サービスではなくベネフィットを。それだけで見るべき範囲は大きく拡大していきますし、得られるヒントの量も格段に変わっていきます。

重要なのは、顧客も非顧客も区分せずに耳を傾ける点です。広く人間を見に行きましょう。もちろん、ソーシャルリスニングだと顧客かどうかを見極めるのは難しいって問題もありますけどね。


③徹底して言語化する

私は「言葉」の力を信じています。言葉にすることで「存在していたのに無かったもの」が「存在する」ようになるからです。加齢臭、美魔女、インスタ映え、女子力、草食系男子、おひとりさま、イクメン、スーパーフード、下流社会、リア充、公園デビュー、ブラック企業、自撮り、終活…。以下の書籍から学びました。

言語化とは、ソーシャルリスニングを通じて覗き見た人間への理解を言葉に置換するものであり、言葉にしない限りは「見た」とは言えません。

そうして出来た言葉は、コンテンツや営業資料、コピー、クリエイティブに活かされます。これこそがマーケティングの1つではないでしょうか。

iOS14対応により、ビッグデータを活用して個人をターゲティングしCVRを高める世界は「終焉」が約束されています。誰もが「これからはクリエイティブだ」と言うのですが、じゃあどうやって「クリエイティブ力」が向上されるのか、その解なり手法なりが聞こえてこないのですが、私自身はn1分析だとこの時点で声をあげたい。

以前に書いたnoteの通り、n1分析の極意は「顧客の解像度を極限まで高めて様々なヒントを得る」だけではなく、行動の理由・根拠を突き止めて「この消費者の行動には普遍的な価値があるのでは?」と考える点にあります。すなわちCVRが高くなりそうな消費者のインサイトを発掘する手法の1つとしてn1分析がある…というポジショントークです。

余談ですが、松本のようなチンピラヤクザが「N1じゃなくn1じゃないか」と言っている話は西口さんの耳に届いているようですね。あとは、もう時間が解決するのではないでしょうか。


まとめと余談

先日、日経電子版「マネーのまなび(まねび)」に登壇して、データ経済について語ってまいりました。

動画でも触れているのですが、データ分析に求められるスキルの最上位は洞察力であり、統計学とか機械学習とかはStep3ぐらいだと考えています。

①重要なのは「背景」
②抽象度を高めて落とす
③徹底して言語化する

このプロセスも、データ分析の1つです。特に②③なんかは洞察力そのものと言っても過言ではありません。

見方を変えれば、私たちマーケターが実践している「人間理解」も、データ分析の世界で行われているプロセスに準拠すれば、さらに精度が高まるかもしれません。「横の世界」を知ることは、とても大事です。

余談ですが、今回紹介したソーシャルリスニングについて、機械化ができないか挑戦中です。もし完成したらご報告する次第です。(営業モード)

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松本健太郎
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