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年間200回のイベント現場がつちかった「俯瞰」~場づくりや仕事の流れをつくる3つの視点~

 Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。イベントやコミュニティの現場が大好きです。

 今回のCOMEMO編集部のお題は「現場主義」です。上のリンクに出てくる一流経営者の方にはほど遠いですが、私自身、仕事をする中で「現場」から得られたことは、意思決定の軸になっています。

 場づくりを仕事とする私にとっての「現場」は主に「イベント」や「コミュニティ」です。人の流れをとらえ、感情をとらえ、場を形にするための無数の経験を積んできました。

 古巣の「東京カルチャーカルチャー」に所属して場づくりのイロハを叩き込まれていたときは、多いときで、年間200本以上のイベントにアテンドして、裏方仕事をしてきました。毎回異なる立て付けのイベントを形にするので、無数のバリエーションや、様々なトラブルも経験し、もまれながら「場をかたちにする方法」を体得していった気がします。

 こちらの記事でも(古くてすみません…)挙げられているように、ナースを100人集めてみたり、肉とビールを飲み食いしながらやせる体操をしたり、本当に統一感なく「面白い!」と思えるコンテンツを形にする日々だったのですが、これだけバラエティ豊かな「現場」を形にしていくと、様々な場づくりを俯瞰で見られるようになります。

 よく、他人のイベントやワークショップ、コミュニティづくりの助言を求められることがあるのですが、その度に「なんでちょっとの説明で解像度高く状況理解できるのですか?」「そんな隅々まで考えて場をつくっているのですか?」「言語化力半端ないですね」などなどのリアクションを受けたりします。それは、現場をこなしたがゆえに得られた「場づくりの俯瞰」が備わったからだと思うのです。

 というわけで当記事ではその「場づくりの俯瞰」からみる、いい現場をつくる3つの視点を紹介したいと思います。どうぞご笑覧下さい。

俯瞰1:目の前だけにとらわれない

 現場に慣れていない場づくりの人と、場づくりのプロの大きな差は「目の前のことにとらわれすぎているのかどうか」で判別がつきます。

 たとえばステージでトークが進行する中でも、機材の動き方はどうなっているか、飲食のロジスティクスはどうなっているか、この先の進行を考えてどんな準備が必要か……などなど、同時並行で今起きていることと、これから起きること(そして終わったこと)を整理して、リアルタイムでチューニングしていく必要があります。

 慣れていないと、ステージばかりに目がいってしまい、裏方のことがおろそかになってしまうということもよくあります。

 あるいは、場にいる全体のことを考えた対応をした際も、特定の来場者の方のクレームにつながるということもありえます。分かりやすい例でいうと、冷暖房の温度に関しては、感じ方に個体差も大きく、陣取る場所によっても体感温度は大きく変わります。Aさんが寒いと言っても、隣にいるBさんは「暑い」と実は思っているかもしれないですよね。目の前の人の意見ばかりにとらわれていると、全体の最適解を見誤りがちになる一例です。

 場というものは、単一の因子だけで成り立つものではありません。様々な要素が絡み合って成り立っています。その全体像を把握しつつ、ちょっと引いた目線で現状がどうなっているかをとらえる必要があるのです。

俯瞰2:3歩先を予測する

 場においてある出来事が起きたときに、その出来事の影響度合いを察知し、改善を促したり、コントロールしたりすることも大事な俯瞰の要素です。

 例えば、リハーサルをしているときに、ワイヤレスマイクの音声が不安定だったとします。慣れていないと「まあ、聞こえているからいいか」とそのままにしたり「電池を変えておけば大丈夫だろう」と最低限の対処をしたりするのですが(ちなみに登壇者側として本番前にワイヤレスの電池を必ず変えてくれる主催者に出会うと、イベントへの安心感が20%くらいアップします!)それでは3歩先を見据えた対応にはなっていないんですよね。

 リハーサルでワイヤレスマイクが入りづらいということは、近所のイベント会場で、周波数帯が重なっているワイヤレスマイクを使われている可能性があります。そうなるとイベント中、同じようなトラブルが再発するリスクは高いという判断になります。そういう際は、有線のマイクを用意して、いつでも出せるようにスタンバイしておけば、リスクヘッジになります。

 しかし進行表をよく確認したときに「ワイヤレスマイクを持って出演者が客席を回って話しかける」という演出があったらどうでしょう。これを見逃していると、コーナーがまるまるなくなってしまうリスクも出てきます。

 事前にこれも察知しておいて段取りを組んでおくと「有線のマイクに切り替わった場合は、コーナーの企画を差し替える」もしくは「お客さんをステージにあげる演出に変える」という変更が臨機応変にきくようになります。

 文字におこすと「そんな単純なことでトラブルになるのか?」と思うかもしれませんが、大体の現場のトラブルは「見込みの甘さ」や「単純な見落とし」によっておきます。ある小さな想定外の事象に出くわしたときに「この3歩先にどんなことが起こりうるか」を脳内シミュレーションする癖をつけると、トラブルへの対応力は格段に上がりますし、安定感ある場の進行につながってきます。

俯瞰3:映像から逆算する

 場を企画するときに大事なのは「つくりたい絵から逆算してプロセスを作り出す」ことです。

 慣れていない人は「この人のトークで20分、この告知で10分、次のゲストのトークで20分……」と言った風に、要素の積み上げ積み上げで進行を企画しますが、俯瞰を持っている人は「こういう場をつくる!」というゴールをまず考えて、そこに向かうプロセスを設計できます。

 例えば、伊藤園さんと開催している「茶ッカソン」というコミュニティイベントを企画するときに自分が真っ先に思い浮かべた絵は「お~いお茶を飲みながら真剣な顔で喧々諤々ディスカッションをしている参加者たちの姿」ですし、「渋谷ナース酒場」というイベントを企画したときに思い浮かべた絵は「ナース服をきた看護師たちがビールジョッキを片手に乾杯して談笑している」姿でした。

 この絵を実現するために、どんな準備や人集めが必要だろうか。その場でどんなことが起きるとその絵が実現できるだろうか。そのような発想で、イベントや場の流れを決めていきます。

 もちろん、なんとなくやってみて、結果的に「みんなが盛り上がっている絵」が実現することもあるでしょう。しかし、偶発的にそれが実現しても、再現ができません。きちんと狙いをもって、流れを計算してみてこそ、複数回繰り返しやってみても場が盛り上がる「型」が生まれてくるのです。

 ちなみに「メディアからの取材を受けたい」「話題をつくりたい」というモチベーションが強めの場合は、この「絵」が他には存在しないもので、いわゆる「映える」ものであるほど、実際に話題になる確率が上がります。

3つの俯瞰はあらゆる仕事の「流れづくり」に通ずる

 これらの「3つの俯瞰」は、普段の仕事においても役に立ちます。たいていの仕事は場づくり同様に生もので、複数の要素が複雑に同時進行で絡み合いますし、些細な見落としや、見込みの甘さで面倒な事案は発生します。また、「こういう景色を実現したい」というイメージから逆算していくことで、どのようなプロセスを踏んでいくのか、どんな人を巻き込むのかといった、企画の詳細が立体的に見えてくるのです。

 現場での経験を重ねると、ある一点を見たときに「周辺はこうなっているのではないか」という想像力が働くようになります。また、目の前の事象をみたときに「この先、こういうことが起きるのではないか」という未来予測が立つようになります。

 仕事において大事なのは「きっとこうなる」という仮説を意識しながら、狙いをもってプロセスを組み立てることです。狙いをもって行動すれば、うまくいったときはその行動を繰り返せば成功確率が上がることを学習できますし、うまくいかなかったときは、なぜうまくいかなかったかを検証しながら、行動の改善につなげることができます。逆に、意識しないまま、目の前の仕事に追われていると、結局なにも学習できず、能力も上がっていかないわけです。

 ちなみに、この俯瞰を鍛える上で場づくりの仕事が自分にとってよかったのは「逃げ場がない」ことでした。目の前の参加者と対峙しながら、本気のトライアンドエラーを年間200回も繰り返せたことで、自分の、仕事をする上での力は磨かれたのだと振り返ると思います。

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#日経COMEMO #現場主義で得られたこと

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