為替だけでは変えられない
2月の米貿易赤字が9年4か月ぶりの高水準になったとのことです。安倍首相の訪米前にしてタイミングの悪い数字にも思えます。実は米国の貿易赤字はこの1年余りで拡大傾向にありますがこれはトランプ大統領が感じているような(?)他国による(為替も含めた)不公正な貿易条件によるものではなく、完全雇用間近と目される好調な国内経済環境に伴う家計部門の旺盛な消費投資意欲が原因と推測されます(実際、貯蓄率は大きく下がりました)。足元では原油が値を戻していることも寄与があるでしょう。
しかし、トランプ大統領の基本認識が変わることは今後もないでしょう。「失われた中間層」に保護主義をアピールするというパンチは実際に効いたわけで2020年に向けての基本戦略となります。まずは韓国が強いられたような数量ベースでの調整(輸出入に係る割当や非関税障壁の撤廃など)を迫られそうですが、この点はまず昨年のトランプ訪日の際に防衛装備品の購入増という形で話が進んでいます。しかし、その後の鉄鋼アルミ関税における日本への口ぶりを見る限り、そのカードがいつまでも有効と考えるのは危なそうです。
過去、米国の保護主義に当てられた局面は何度かありました。しかし、85年のプラザ合意後も、95年の自動車摩擦後の超円高も、それだけをもって貿易赤字水準が劇的に下がり、トランプ大統領が望むような(?)赤字の消滅に至ったことはありませんでした。為替だけで収支を調整させるのは無理であり、かなえられる効用は「米国の溜飲を下げる」程度のものだったように思います。しかし、日本に残した爪痕は甚大だったことは周知の通りです。プラザ合意なかりせばバブルの生成と崩壊はなかったでしょうし、自動車摩擦を受けた超円高がなければ日本企業の海外進出(結果としての産業空洞化)も抑制されたかもしれません。
未だ先行きが見通しにくい同問題ですが、円相場ひいては日本経済にとって目先の金融政策などよりも圧倒的に重要なテーマであると思います。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO29076660W8A400C1EA1000/