遠隔テックの未来
withコロナ、カーボンニュートラル、SDGs。今、幾つもの大きな課題が人々に突きつけられている。ウィルスとの共存に留まらず、どんな人にも優しい、地球にも優しい「新たな生き方」が求められている。まさに、人々の叡智を結集して、バランスの良い解決策を生み出さなくてはならない状況だ。それには、様々な技術革新とそれらの正しい利用が必要なことは言うまでもないが、ここ数年私が最も注目しているのは遠隔テックだ。ネット環境さえあれば、どんな人でもあらゆるところに出没して、何らかの役割を担うことができるからだ。創意工夫次第で、一人ひとりにあった活躍の場を生み出すことができると思う。
今年6月に開業した東京・日本橋の「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」。国内外に住む50人が遠隔で、接客やバリスタの役割を担っている。これまで物理的な移動ができないことから仕事に就くことが中々難しかった人々が、遠隔テックとオリィ研究所代表の吉藤さんの圧倒的な熱量により、生き生きと働ける場を手に入れたのだ。「その場にいるかのように働ける」と、車椅子生活の三好さんが言うように、分身ロボットはカフェに自然と溶け込んでいて、とても優しい空間の一部となっているように感じる。分身ロボットと話したい、この空間をもう一度味わいたいと、リピートが絶えないのもわかる気がする。
この他にも、遠隔接客サービスを行なっているベンチャーも増えてきた。ユーサイドユーやタイムリープである。ユーサイドユーは全国の約80店舗に、接客知識のある専門人材を送り込んでいるようだ。タイムリープは、顔出し接客、アバター接客なども選べ、人材派遣先のニーズにきめ細かく応えている。人相手の作業であるからこそ、機械やロボットではなく、人が温かみを持って対応する遠隔人材が良いのだと思う。遠隔ならではのいい意味での割り切り、離れているからこその余裕や冷静な対応も実現できるのではと考えている。また、遠隔であれば、繁忙期には接客者の数を瞬時に増員するなど、柔軟な対応も実現することができるはずだ。
遠隔人材を現場作業に活用するトライアルも増えてきた。小売店での商品補充・陳列や倉庫での荷物の積み下ろしの実証実験が、ユーザー企業を巻き込んで進んでいる。遅延を無くす5G環境の整備が進んでいることも、これらの取り組みを後押ししている。ただ、こうした作業は、AIなどの技術革新が進めば、最終的には自動化に移行しても良い領域だと考えている。もちろん、遠隔作業に慣れてもらうためのウォーミングアップとして活用するならそれなりの意味があると思うが、もし遠隔人材の本来担うべき仕事は何かと問われれば、「創意工夫が効く付加価値作業」や「トラブルへの柔軟な対応」と答えるのは間違いない。
遠隔テックを仮想旅行に活用する例もある。この場合は、遠隔操作をする人が何らかの仕事を請け負って稼ぐのではなく、自らの遠隔操作で生み出す体験を自らで買うという消費者サイドの取り組みだ。結婚式への遠隔出席、美術館や各種施設などへの遠隔訪問など、応用先は広がっている。今はまだ人の歩みよりも遅いスピードでの移動だが、空中を移動する「ドローンタイプ」や、持ち歩ける「ぬいぐるみ⁈タイプ」が普及すれば、仮想旅行の楽しみは一層大きくなるのは間違いない。自分の分身やアバターになる様々な機材のシェアリングが生まれるのもそう遠くない未来ではないかと感じている。
まだまだ始まったばかりの遠隔テック。今のところは、人材不足への対応や移動コストの削減といった取り組みが数多く見受けられるが、今後はオリィ研究所のような新たな仕事の創出や、瞬間移動や神出鬼没といった遠隔人材ならではの能力を活かした取り組みがもっと生まれてくると思う。遠隔人材が街の至る所に設置した機材や、個々人のスマホに次々に憑依する。それにより、そこにいる人々を笑顔にし、街に賑わいを生む。賑わいづくりが遠隔人材の仕事になるイメージだ。逆に、街の人や観光客がその街の様子を遠隔人材に伝えてもいい。リアルに特産品を宅配便で送ってもいい。いつも街を見守ってくれている遠隔人材への感謝の気持ちだ。こんなやりとりに溢れている街はとても魅力的だと思う。既に必要な技術は世の中に十分に揃っている。あとは行動あるのみ。仲間と共に、こんな魅力的な街を量産できたら最高だ。