世界の中銀総裁を悩ませるインフレ統計
ユーロ圏の総合インフレ率は2月の2.6%から3月には2.4%に低下し、2021年7月以来の低さとなったことからも、ディスインフレ傾向がしっかり定着していることを裏付けていると言えるであろう。食品価格上昇率、エネルギー価格上昇率、コア・インフレ率のすべてが予想を若干下回り、インフレ圧力は全般的に低下した。また、進展は広範な国に及んでおり、ドイツ、フランス、イタリア、スペインで総合インフレ率がコンセンサス予想を下回った。コア統合消費者物価指数(HICP)上昇率(国レベルではまだ発表されていない)は、上記のユーロ圏主要4ヵ国で減速したとみられる。
唯一、サービス価格上昇率は再び粘着性を見せ、5ヵ月連続で4.0%の横ばいとなったと言う点はある。額面通りに受け取れば、ECBにとって懸念すべきことに違いない。しかし、サービス価格上昇率を巡る状況はいくつかの要因によって不透明になっていることは指摘できるであろう。第一に、今年はイースターが例年より1週間ほど早いため、他の条件がすべて同じであれば、3月の前年同月比のサービス価格上昇率は最大0.2%ポイント押し上げられている可能性が高いこと。第二に、例年の1月の価格改定は、保険、医療、教育などのサービス業で予想よりも大幅であったことがあげられる。これは基調的なインフレ圧力を示唆しているが、来年1月までにこれらのセクターでさらに価格が引き上げられる余地は限定的で、その結果、サービス価格上昇率は今後数ヵ月で鈍化するはずである。第三に、ユーロ圏のサービス価格上昇率は、ドイツでレストランでの食事にかかる付加価値税(VAT)が(1月に7%から19%に)大幅に引き上げられたため、最大0.07%ポイント押し上げられたと推定されること、もある。
以上から総合すると、ユーロ圏のコア・インフレ率は今後も緩やかな減速が続く見通しで、平均コア・インフレ率は今年が2.5%、2025年が2.2%になると予想する。
こうした物価動向を見るだけでも、ECBの利下げサイクルの開始が4月でなかったことは当然であった。巷間言われている通り、6月が依然として最も有力であることもECBの声明にある通りである。しかしながら、経済統計を見ている限り、今回のインフレ統計は7月以降の適切な利下げペースについて議論の余地を残していると言えるのではないか。それはこれからのインフレ動向次第だ。
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