なわばり・ビル・そして宇宙 〜「働く」が無重力化する日
いつもお世話になっております、uni'que若宮です。
昨年11月のこと、同じくCOMEMOのKOLをされている横石崇さんが主催する、”働き方のフジロック”こと『Tokyo Work Design Week』に登壇させていただいた際に、これからの働き方は無重力化する、という話を少ししたのですが、2019年の働くをスタートするにあたり、今日はこのあたりについてちょっと書きたいと思います。
「闘争」としての「働く」
先日、NHKの『人間ってナンだ?超AI入門』という番組で、東京大学大学院特任准教授の松尾豊さんが「人間の本質は”闘争”ではないか」とおっしゃっていました。たしかに、人間は(人間だけでなく動物が、かもしれませんが)これまでずっと「闘争」してきた。
「働く」ということも、基本的には生存のための「闘争」の歴史だったと言えるのかもしれません。
では、なにを巡って「闘争」してきたのか?
パラダイム①「なわばり」 〜「広さ」をめぐる「斥力」の時代
「働く」を生きるための闘争だと考えた時、一番はじめの闘争は「なわばりterritory」に関するものだったでしょう。より多くの食料と安定した居住地を得るため、ひとは闘争を続けてきました。良い狩り場を得るため領地や水域について争い、またより多くの実りを得るために他の動物を排斥し、野生の地を開墾し、自分たちの「なわばり」を拡大してきました。
「地主」が大きな力をもったように、このパラダイムでは「広さ」こそが資産の大きさでした。人と人、そして国と国は領地を巡ってぶつかり合い、その範囲を広げようとしてきた。
そしてこの時代の闘争は相手を押しのけようとする力同士の闘争でしたから、その原理は「斥力」だったということもできるでしょうか。
広さを目指し、斥力によって争うことで「なわばり」を拡大しようとしてきたのが前近代の「働く」のモデルです。
しかし、言うまでもなく、領地は”有限”です。「広さ」の奪い合いをしているうちに、地表には空地が無くなってきてしまいました。人類の数は増加し続け、一人あたりの「なわばり」はやがて限界を迎えます。そして近代技術とともに人間は新たな”次元”へと闘争を開始します。
パラダイム②「ビル」 〜「高さ」をめぐる「重力」の時代
人口が増加し、「なわばり」が飽和した後、人間は2次元平面から3次元方向へと拡大を図ります。同じ面積でも多重化することができれば価値を拡大していけるからです。こうして「ビルbuilding」が登場し、「高さ」の闘争がはじまります。
企業は事業の拡大とともにこぞって大きなビルを建て、世界経済の中心であったニューヨークが「摩天楼skyscraper」の代名詞となったように、資産価値の高い人が集まる都会は高層ビルにあふれていきます。
このように近代的な働き方を「ビル」をアナロジーとしたパラダイムとして考えた時、特徴として指摘しておきたいことが2つあります。
一つは、「高いほうが偉い」という価値基準です。「上層部」「昇進」などというように、近代に大型化した組織では特に「高さ」はある種のステータスとなり、高い位置にある方が偉い、という価値基準が強くなります。効率性や利便性を考えると上階であることには実は大した合理性もなく、むしろ地表での領地争いに敗れたものから上方に押し出されたと考えれば地表から遠いほど僻地だととることができなくもないはずなのですが、神に近づかんとしてバベルをつくったように、ひとは「高さ」を追い求めてしまうようです。(「社長室」は大体最上階にあり、またタワーマンションでは最上階ほど資産価値が高い)
そして「高さ」を求める闘争とは「重力」との闘いを意味します。
この「重力」により、「ビル」型のパラダイムにおける働き方のもう一つの特徴が現れます。それは「規格」です。ビルはちょうど積み木のように、規格化されたパーツを積み重ねていくことによって高さを実現します。この時「重力」により、上層の重さは下層にのしかかりますから、安定的に上層を支えるためには下層ほど規格化されたブロックの方が都合良いのです。ブロックを高く積み上げるゲームをしてみるとすぐ気づくように、高さを目指す時に下層がいびつなブロックだとすぐ倒れてしまいます。
「ビル」のパラダイムでは、ひとびとは重力に抗い「高さ」を目指して争い、下層ほどその「重力」に押しつぶされることになります。そしてその重力に耐えるために規格化された部品を必要とするのです。
しかしこのような「高さ」を目指した闘争も、バベルの塔がついに完成しなかったようにその限界を迎えているのではないでしょうか。ビルは一定以上に高くなり重くなると、変化に対する順応性が下がるところがあります。そして例えば地震・台風などの天災やテロなどの不測の事態が起こった時、高層ビルはその脆弱性を顕わにするのです。
これまで企業は、上場できるような「大企業」を目指し、ある種巨大なskyscraperになろうと闘争してきたように思います。しかしVUCAの時代と言われる不確実性と変化の時代には高層ビルが有利ばかりとも限らないでしょう。すでに終身雇用は崩壊しはじめており、環境は安定的ではありません。ビルの上階を目指して駆け上がり続けた人は、上層階にいたために避難がおくれてしまうかもしれないのです。
では、人はこれからどのように働いていくことになるのでしょうか?
僕は、一つの方向性として、働くことはこのような重力から自由になるのではないか、と思っています。いまや民間の日本人も月旅行に行ける時代になりました。人はこれから重力圏を出て、宇宙に浮かぶ星のように働いていくのではないでしょうか。
パラダイム③「宇宙」 〜関係をめぐる「引力」の時代
前職DeNAの行動指針の中に「surface of sphere球の表面積」というのがあり、僕はこれが大好きでした。球を回しながら見ると「前面に来た点」が見る人にとっての頂点となります。ピラミッドのように固定化した頂点があるのではなく、お客様と接した点がその球を代表する頂点だよ、だから社員のだれもが会社の代表だと思って行動しようね、そういう考え方です。素敵ですよね。
宇宙の星々を想像してみましょう。それらは無重力空間に浮かんでいて、どちらが上ということはありません。地表では「重力」という一方向の力に支配され、故に「高さ」という一つの価値の軸があったわけですが、星の原理はもはや「重力」ではありませんし、その軸も一つではありません。
では宇宙の力の原理はなにか?
ニュートンが重力から万有引力へと概念を拡張したとおり、星の間に働く力は「引力」です。そして僕は「重力」と比較して「引力」には
1.積み重ねない
2.規格化しない
3.双方向である
という3つの特徴があると思っています。
1.「引力」は積み重ねない
突然ですが、ここで2008年と2018年の10年間での時価総額ランキングを観てみましょう。
2008年にはエネルギーやインフラ業が上位なのに対し、2018年のランキングはいわゆるGAFAMがTOP5となっており、産業構造の変化を感じます。
さてこの両者を比較すると、時価総額はこの10年でおよそ4倍も増大しているのに気づきます。時価総額というのは企業の価値ですから、価値が4倍に増加したことになります。では企業はより大きく、高いビルになったのでしょうか?
次に従業員数を見てみましょう。すると驚いたことに、価値は4倍に増加しているにもかかわらず、従業員数は4分の1に減少しているのです。
テクノロジーで業務が効率化され生産性があがったということもあるでしょうが、従業員数が4分の1にも減っていることはそれだけでは説明がつかないように思います。(僕はこの変化は、企業が「星」化していることの現れだと考えています)
この中でも、特に「時価総額/人」の倍率が高いのは、フェイスブック(20億円/人)とグーグル(9億円/人)です。そしてこの二社の特徴は、ユーザーがコンテンツをつくる、UGCのプラットフォーマーでもある、ということなのです。
たとえばInstagramは、facebookが買収した時、たった13人しか従業員がいないのに、800億円の価値がつきました。この時、IGの「時価総額/人」は一人50億円以上だったことになります。そして今IGは従業員500人以上に成長し、時価総額は10兆円以上と言われています。ざっと計算すると「時価総額/人」はなんと200億円にもなります。
また、未上場ながらAirbnbの時価総額は3兆円以上と言われています。こちらも従業員数はまだ数千人にもかかわらず、従業員16万人以上いるホテル業界の巨人・ヒルトンの時価総額をすでに上回っているのです。
お分かりでしょうか?
これらの企業では企業価値を、従業員だけではなくユーザーが創出しているのです。
インスタグラマーやユーチューバーは、facebookやgoogleの従業員ではありません。しかし確実にその企業の価値を高めています。Airbnbのオーナーもしかり。これらの企業は、かつての「ビル」のモデルのように沢山のブロックを積み重ねて大きく、高くなるのではなく、それ自体は小さいままでもユーザーを惹きつける引力によって、大きな価値を生み出しているのです。
このように、企業外の人をも多く巻き込み、関係と影響力を生み出すことのできる企業が大きな価値をもつようになったのです。「関係人口」という言葉が言われたり、エストニアのような政府が出てきたのも、こうしたパラダイムシフトの一つの現れかもしれません。
2.「引力」は規格化しない
「重力」は「ビル」のパラダイムで見たように固定化した一方向の軸であり、ひとはブロックのように積み重なり、その重みを「規格化」によって支えることで価値を拡大してきました。しかし「引力」の世界ではこのような一つの軸はありません。星々は、たくさんの他の星々と引力によって結び付けられつつも、「ビル」のように積み重なるのではなく、それぞれ独立して浮かんでいます。
「重力」のためにビルの下層が「規格化」されたのとは対象的に、「引力」によって結びつく星は、色も大きさもそれぞれ様々でどれ一つとして同じものはないのです。
たとえ、太陽の引力の支配下にあって巡っているように見える惑星たちであっても、大きさや質量はそれぞれ異なりますし、大きい順や重い順に並んでいるわけでもありません。それぞれがそれぞれ他の星々との引力のバランスを保ち、太陽とも適度な距離を保ってそれぞれの生を送っているのです。
3.「引力」は双方向である
そして最後に、「引力」というのは一方向ではなく、必ず双方向の力だということも強調しておきたいと思います。太陽に引っ張られているように見える地球も、同じ力で太陽を引っ張っている。そして太陽系の他の惑星も、それぞれ太陽を引っ張っている。
もし太陽系の惑星が一つ破壊されてしまうと、太陽も、また他の太陽系の惑星もそのままではいられないのです。
これまでは「B to C」などと言われるように、企業が消費者に対し価値を提供する、と一方向的に考えられていました。あるいは「働く」ということで言えば、企業が従業員を採用し給料を与えて食わせている、というような考え方もあったかもしれません。ブラック企業やパワハラ、セクハラが可能だったのも一方向的な重力があったからです。ですが「宇宙」のパラダイムにおいてはその価値は一方向ではなく双方向になります。すでに転職は当たり前化し人材の流動性はあがっていますが、企業の労働力は今後複業やフリーランス、という形で囲いを取られ、ますます上下関係ではなく、対等で相互の依存関係になっていくはずです。
「宇宙」の引力が相互的なように、ユーザーが企業の価値をつくっているし、企業は従業員を惹きつける魅力がなければ事業ができなくなってくるのではないでしょうか。
「宇宙」時代の働き方と組織
このように引力で動く「宇宙」時代の働き方と組織というのはどういうものであるべきでしょうか?
それは集積的ではなく、より分散的で、もはや従業員とユーザーと境界も溶けてくる、ある種のコミュニティのようなものであり、
規格化せずばらばらな個性を活かすものであり、
そして、採る/受かるというような一方向的で非対称な関係ではなくなって行くと思います。
この時、(そして来るAI時代において)「働く」はもはや「闘争」ではなくなるかもしれません。重力から自由になり、星として浮かぶ宇宙空間には上も下もありませんし、勝ち負けの唯一絶対的な軸もないのです。そしてこれはある種、インターネットがなしたことでもあります。色んな切り口で瞬時に「並べ替え」や「絞り込み」ができ、ハイパーリンクにより順序もスキップしてつながることができる。かつて「広さ」から「高さ」へと次元を拡張した人間は、今度は「仮想世界」というリゾーム的な多次元へとその活動の次元を増やしたということもできるかもしれません。
これからの「働く」は、重力なく、それぞれがそれぞれを惹きつけ合いながら、バランスを保ちつつ巡る、そういう、星々が巡るような働き方になっていくのではないか、そして企業の組織もそういうものにシフトしていくべきなのではないか、というお話でした。
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(書き始めたらめっちゃ長くなってしまいました。最後までお読みいただいた方、ありがとうございました)