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どうしたらスローに生きられるか〜北海道東川町の奇跡から学ぶこと

2024年は、「どうしたらスローに生きられるか」を探求してきた一年でした。スローイノベーションを掲げ、100年先の価値をつくろうと、企業や行政に「スローの本質」を日々伝えてきました。京都の大学や虎ノ門の社会人大学院では、スローリーダーシップの授業で、「スローなビジネスパーソンの在り方」を育ててきました。でも、熱心にやればやるほど、自分の人生はどんどんファストの波に飲み込まれる感覚がありました。「スローに生きる」ためのチャレンジという視点で、この一年を振り返ります。

スローなライフスタイルの町

今年の夏に、はじめて東川町を訪れました。旭川空港には関西から直行便がないため、東京に出張したタイミングで、羽田からJALのマイルを使って移動し、帰りは札幌まで電車で移動してから、ANAのマイルを使って伊丹に戻りました。東川のまちづくりを学ぶとともに、自身にとってのスローライフをイメージすることを目的としたワーケーションでした。

ちょうど年末のタイミングで、次の記事が報じられました。「北海道の真ん中、大雪山国立公園旭岳を望む人口約8600人の町、東川町。自然に恵まれる一方で『鉄道、国道、上水道の3つの道がない』町が、移住者が増え続けていることで注目されて久しい」と伝えています。

この記事にもある通り、「東川はこの30年で人口が2割超増え、発展し続ける町として知られ」ています。

今回、私がワーケーション先で選んだのが、この記事にも登場する、清水さんの手作りロッジです。清水さんのご自宅の隣に建てられたロッジで、清水さんの仕事場にもなっています。2階のベッドルームをお借りし、1階のダイニングは清水さんが使うこともあるので、自然と会話が生まれます。

この記事の中で、清水さんは次のように語っています。まさに、ここで清水さんが語られていることが、わたし自身が感じたかった「スローの極意」だと思います。リターンの大きさではなく、プロセスの美しさ、人との関係、そして居心地の良さを大事にする心構えです。

「空間や環境まで考えながら家具をつくるのが理想だから、東川にいられるのはうれしい」と話すのは、デザイナーの清水徹さんだ。21年に東京から家族4人で越してきた。約20年前に仕事で初めて訪れたときから「雰囲気がいいなあと思っていた。通ううちに四季の美しさ、人間関係の風通しの良さ、役場の人たちが熱心に働くことも好きになった」。

先に示した日経記事より

スローなライフスタイルのパスタ食堂

清水さんと仕事仲間の遠藤さんと話をしていると、まちの魅力的な人の話に花が咲きます。そこで紹介していただいたのが、「東カワウソ」という近所の小さいお店。プロのカメラマンがイタリアで料理の写真を撮り続けてきたことで、パスタの本質探求家になってしまったという方。小さなお店で、不定休。朝起きられたら焼く、というシナモンロールの美味さ。店主の萬田さんが出されたパスタ本をここで買って帰ったのですが、「パスタの本質は具にあらず」と、「どれだけ美味しくパスタ麺を食べるか」に特化した本づくりに感動しました。

スローなライフスタイルの仕事

実は、このパスタ食堂「東カワウソ」、前述の清水さんが設計したものです。清水さんのブログに、東カワウソの建物の外観、内装が詳しく出ています。ほんとうに素敵な建物です。

そしてこのブログには、「自宅の近所に、いっしょに川を歩く友人である、カメラマンの萬田康文さんの自宅兼仕事場(飲食店舗=東カワウソ)の設計をさせていただきました。土地の取得から、資金計画、設計、施工まで、さまざまな幸運や偶然の巡り合わせを経て、昨年末にようやく完成しました」とあります。

東川に移住したクリエイティブ層の方々がゆっくりとつながり、お互いの価値観を理解したうえで、ゆっくりと仕事をしていることが伝わってきます。

スローなまちをつくるための、ファストな政策

スローなライフスタイル、それを実現するための仕事へのスローな向き合い方を体感することができ、「行政はどのように『スローなまちづくり』をしているのか」を知るために、町役場を訪ねました。

そこで学んだのが、意外にも東川町の「ファストな政策」でした。驚いたのが、「会社も社員も丸ごと受け入れる」戦略です。東川町は旭岳から流れてくる豊富な水があるにもかかわらず、酒造がなかったといいます。そこで、お酒造りの設備を公共事業で作り、日本中から酒造会社を公募しました。次の記事は、「創業140年を超える岐阜県発祥の酒蔵・三千桜酒造の6代目が、約1500キロ離れた北海道東川町に蔵もろとも引っ越したのは4年前」と紹介しています。

次の記事は、「北海道東川町は洋酒蒸留所と、産業ツーリズム拠点として生かす家具工場を新設する。ともに町が所有し民間が運営する公設民営施設とする予定で2024年度当初予算案にそれぞれ5億円超を計上した」と伝えています。

この記事の中に「産業ツーリズム拠点は町の主要産業である家具産業を強固なものとするための施設を目指す。廃業したさくら工芸の跡地を町が5000万円で取得しており、公募で選んだ旭川市のガージーカームワークスが本社を移転する。敷地面積約9600平方メートルの土地に約1000平方メートルの建物を新築する」とあるように、ハコモノづくりを産業ツーリズムと位置付けることで、したたかに発展を仕掛けています。

スローに生きる

東川町で学んだことは、「スローに生きるためにたいせつなこと」と、「スローを支える基盤をファストにつくる政策」の絶妙な組み合わせです。

従来のまちづくりは、人口増や企業誘致などのファストな政策が優先され、そこで得られた利潤を経済的に成り立たないスローな部分に再配分する、というものでした。この「ファストのちスロー」の考え方は、経済的に成長している時代は成立していましたが、成熟社会においてはスローの余裕は無くなる一方です。

それに対して、東川モデルは、あくまでも「スローに生きる」ことを目的とし、その価値観を活かした「ファストな政策」を手段として使います。スローの美しさだけでなく、スローのしたたかさを実感することができました。

自分自身の暮らしも、「スローに生きる」ことを目的とし、その価値観を活かした「ファストな手段」を使っていこう、そんな気づきのあった東川ワーケーションでした。

さぁ、2025年はスローに生きるぞ!!


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