「経験したことのない規模」の台風10号が刻々と近づいています。
本日(9月6日)夕方から開催された関係閣僚会議で安倍首相が、「直ちに命を守る行動をとってほしい」と呼び掛けるなど、今夜から明日にかけてどのような被害が出るかが心配されています。
電力会社はこの事態に、どのような備えを行っているのでしょうか。昨年千葉県を襲った台風15号で長期の停電が発生した経験からか、いくつかのメディアから電力設備の備えについて問い合わせを頂いたこともあり、電力会社がどのように自然災害に備えているのか整理してみたいと思います。

<事前準備/関係機関との連携>

台風の直撃を受けると想定される九州電力(正式には、九州電力㈱九州電力送配電㈱)は、台風9号のさ中ではありましたが、先週から既に災害体制の整備を始めていたとのこと。予想進路や勢力、過去の被害実績等にもとづいて、復旧要員や復旧資機材等を事前に配備しています。どのような被害が発生するかは、台風が来てみなければわからないのですが、それから動いたのでは時間がかかりすぎるので、事前にある程度予想して要員や資機材を配備するわけです。
 また、災害復旧時に非常に重要なのが関係機関や自治体との連携です。昨年の千葉の停電でもそうでしたが、倒木で道路が塞がれてしまった場合、基本的にその倒木を撤去したりして通行を確保するのは道路管理者の仕事です。電力会社だけで設備を復旧しようとしてもできませんので、自衛隊や海上保安本部や多くの自治体、西日本高速道路株式会社と協定を結んでいます。
 こうした公的機関やインフラ会社だけでなく、ローソンやイオンといった小売り事業者の方たちとも協力体制を構築しているそうです。昨年の千葉の停電の時には、木更津のイオンモールが、全国の電力会社の方たちの拠点として活用されていましたが、それと同じような協定だと思われます。
 近年の自然災害激甚化を受けて、今年の6月、「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」という、やたらに長い名前の法律が参議院で可決、成立しました。その法案の柱の一つが、激甚化する自然災害へのレジリエンスを高めることでした。広域災害が起これば電力間で応援することは、長年行われてきたことで、電力会社にとっては特に目新しさはありません。ただ、事前に「災害時連携計画」を作り、法的にやるべきこととして明確化したことで、より応援がスムーズに行われるようになったものと期待しています。

実は、電力設備の仕様は電力によって地域特性(雪が多い、風が強いなど)が違うので、会社によって多少個性があります。先ほどご紹介した「災害時連携計画」では、電力間で電源車を含む資機材や復旧工事にかかる要員などを応援しあって復旧迅速化を図ることにしていますが、その前提として復旧のやり方は、時間のかかる本復旧ではなく、仮復旧を行うことを統一の方針とした。仮復旧のやり方を明確化したマニュアルを整備したことに加え、各電力で電線サイズが違うのでどのサイズでも工事できるような工具(具体的には間接活線工具の頭の部分でどの電線サイズでもリーチできるアタッチ面とあお開発)なども開発したそうです。
実は電力設備の仕様や作業運用の流れなどは各社によってそれぞれ多少の個性があるのですが、設備仕様のマニュアルなども整備されましたので、応援要員の方たちがよりスムーズに作業に入れるようになったのではないかという期待もあります。
 さらに、電力会社と自治体との連携や役割分担などもわかりやすくなりました。できたばかりの法律ですので、どこまで従前からの変化が感じられるかは後の検証ですが、こうした備えが少しでも被害軽減に役立つことを祈ります。

<自然災害に耐えうる設備形成>

 そもそも電気設備はどの程度自然災害に耐えられるように設計されているのでしょうか。実は電気設備には耐えるべき風速などの技術基準が定められていて、風速40m/秒(10分間最大平均風速)に耐えるというのが基本です(「電気設備に関する技術基準を定める省令」では、氷雪の多い地方における着氷を考慮した荷重や、人家等で風の遮へい効果を期待できる場合など、細かく場合分けされていますが)。ただ、過去の台風等による被害実績や地形条件等を勘案して、地域によって個別に基準を設定して、より強靭な設備形成をしています。例えば送電設備は、電気設備技術基準に定める、風速40m/sの風圧荷重が基本ですが、過去に九州に襲来して鉄塔損壊等の大きな被害をもたらした台風の勢力をもとに鉄塔個別に設計するそうで、大隅半島北部ならびに薩摩半島北部では風速45m/秒、大隅半島南部ならびに薩摩半島南部では風速50m/秒、奄美大島など北緯30°以南では風速55m/秒といったように、基準を変えているそうです。配電設備も同様で、地域によって風圧荷重を変えているほか、市街地外で直線路が連続する場合、約5径間ごとに電線路と直角方向に支線を設けたり(要は、一直線の電線・電柱だと倒れると一気にドミノ倒しのようになりかねないので、電柱5区間ごとに、直角方向に支える線を電柱と地面との間に張って強度を高める)するなどの施工がなされています。
 昨年の千葉の停電の直後、よく聞かれたのが電線を地中化すればよいではないか、というご指摘です。確かに地中化すれば電柱が飛来物によって倒されたり、電線が断線するということは避けられます。しかしながら、電線を地中化した場合、地面にところどころ変圧器を置きます。(時々道路脇に、灰色の鉄製の箱のようなものがありますが、それです)。浸水被害が発生するとこうした設備が被害を受け停電に至る可能性もありますし、いかんせん、地中化はコストがかかります。特に地方で人口減少が進む地域では、電線を地中化に要する投資回収は困難です。そこに過剰な投資をするのではなく、分散型資源(例えば太陽光発電や蓄電池)などをうまく使って、社会のレジリエンスを高められないか、かつ、脱炭素化も進められないか、といった検討を電力、通信、ガス、といったインフラ事業者を中心にさまざまな業態の参加を得て進める動きもあります(スマートレジリエンスネットワーク)。まだこちらも始まったばかりで、実は今月14日に設立記念シンポジウムが開催され、私も基調講演をさせていただく予定です。これからの活動ではありますが、過剰な(回収が難しい)投資を極力避けながら、社会としての災害対応力を高め、かつ、脱炭素化も進めようという取り組みが、民間主導で始まっているのです。

<停電の早期解消に向けた取組み>

 このように強靭な設備形成に努めたとしても、 今回のような強烈な台風に襲われれば、多かれ少なかれ被害は発生するでしょう。その際の復旧作業をいかに迅速にするかが重要です。停電ゼロを目指せばあまりに大きな設備投資が必要になりますので、停電しても早期に復旧する、を目指すことが重要であるわけです。配電線の復旧作業の進捗について、一元的に管理するシステムを活用したり、復旧時間を少しでも短縮するため、例えば折れた電柱はあえて建て替えをせず、電柱補強板によって仮復旧してしまう、といった運用も図られています。一旦仮復旧をして、そのあと本復旧をするのは、二度手間にはなりますが、電柱を建て替えてから復旧するのでは停電時間が長期化してしまうからです。

<お住いの地域が停電したら>

大規模災害発生時の停電情報や復旧見込み等については、下記で確認することができます。また、停電した場合には広報車を出すこともあります。 

・行政政区(市区町村)毎の停電状況(停電戸数、停電率)、復旧見込み等 【PC版】https://www.kyuden.co.jp/td_index.html            【携帯版】http://kyuden.jp/tdmb_index.html 

 ・Twitter https://twitter.com/Kyuden_official     Facebook https://facebook.com/kyuden.jp 

 なお、先ほど見たところ、自動応答システム「チャットボット」の運用もスタートしていました。コールセンターに問い合わせしても、人員も限られており電話がつながりにくいという状況も発生するかもしれません。その際には、SNSなどのツールも活用して、状況を把握していただければと思います。  

https://www.kyuden.co.jp/td_press_2020_200831b.html 

https://www.kyuden.co.jp/td_functions_office_index.html


この原稿を書いている時点では、鹿児島県を中心に7万件以上の停電が発生しているとのこと。不安な夜を過ごしておられることと思いますが、少しでも被害が小さくなるよう、自治体の方や自衛隊の方、電力会社だけではなくインフラ設備に関わる方など、いろいろな方が尽力されています。落ち着いて行動して、身の安全を守ってくださいね。
心よりご無事をお祈りしています。


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