飲食業への就職はやはりお勧めできません
たまに就活生向けに、各業界の話をしていますが、今日は「飲食業」です。
はっきり言いますが、飲食業への就職はお勧めしません。
飲食業ですが、皆さん既にブラックだという印象を持っているのではないでしょうか?
休みが少ないとか給料が安いとか、ふんわりとしたイメージがある一方で、その詳細までは知らない人が大半だと思います。
今回はその実態に迫っていきます。
まず賃金ですが、明らかに他の業界と比べて水準が低いことが分かっています。
厚労省の調査だと平成30年度における「宿泊業・飲食サービス業」の月の平均給与は15万3000円で、これは調査対象であった17の業界区分の中で、ダントツの最下位でした。
全ての業界を合わせた平均が37万2000円で、情報通信業や金融業など近年顕著に伸びた分野では平均が50万円を超えている中で、15万円という数字はかなり低いです。
この理由には、飲食業における採用のハードルが他の業界と比べて低く設定されているということがあります。
例えば製造やITといった業界の大手では、総合職・エンジニア職共に大卒以上の学歴を要求され、学歴フィルターがなかったとしても、同等以上の専門知識が必要になってきます。
これは産業全体の構造を考えたときに、いわゆるモノやサービスの設計や開発をしている川上側では専門性の高い業務を行っている分、採用のハードルが高く、給料も高くなる一方で、それらを販売する過程で川下の顧客に近づけば近づくほど専門性がなくなるため、どんどんハードルも給料も下がっていきます。
基本的に飲食業界では、どこも現場からキャリアがスタートします。
入社後は数年に渡って現場での経験を積むことがほとんどのため、専門知識の必要性が他の業界と比べても小さく、初任給も高い必要がないんです。
死ぬほど働いて、多くの昇格を繰り返して新メニュー開発や出店計画などの本部業務を行っている部門まで行けば別ですが、そこにたどり着くまでには相当の昇格が必要になり、それまでは昇給の金額も小さいため、かなりきつい業界であることは事実でしょう。
給与の低さにも繋がってくるのが、飲食業界の営業利益率の低さです。
この営業利益率というキーワードは、就職や転職をするときに誰もが注意すべき数値なので、非常に重要です。
営業利益率とは、企業の売上高に対して売上原価といわゆる販管費を差し引いた営業利益の売上高に対する割合をいいます。
例えば皆さんが持っているようなスマホを販売している企業を考えると、そのスマホが何台売れたかで売上高がほぼ決まりますよね。
しかし、売上高の全てが企業の利益になるわけではありません。
スマホを作るにあたって素材や部品を仕入れているため、それらを買うための原材料費がかかってきます。
スマホを作るために働いている人への人件費も当然かかります。
この他にも輸送費や賃料、広告費など様々な費用がかかっていて、それら全てを売上高から引いて残ったものが営業利益となり、その比率が営業利益率となります。
つまり営業利益率は、その企業が本業でどれだけ稼ぐ力があるのかということを表す指標になっているんです。
この営業利益率が飲食業界は、他の業界よりも圧倒的に低いという特徴があります。
例えば2019年のサイゼリヤの営業利益率は6.1%、鳥貴族は3.3%となっています。
これでも実は飲食業界の中では高いほうで、ある業界動向の調査によると、2019年の営業利益率のランキングで飲食業界全体ではわずかに1.2%となっていて、136業界中の117位になっているんです。
つまり飲食業界は、他の業界より儲ける力がないということです。
理由は非常にシンプルで、業界の利益構造にあります。
街を歩けばいたるところに飲食店が並んでいることから分かるように、飲食業界は競争が特に激しい業界です。
そのため各企業はどのようにして、その競争に勝つかをいつも考えていますが、これだけ店舗が飽和している中で顧客に選んでもらうための一番の決め手は、どうしても味よりも安さになってしまいます。
これをよく表したデータが、去年の鳥貴族です。
実は鳥貴族は社員の給料を確保するために、2017年に一律280円という値段設定を298円に値上げしました。
たった18円と思うかもしれませんが、この結果鳥貴族の2018年度の既存店舗の売上高が前年度比で6.2%もマイナスになり、黒字予想が一転して赤字になってしまいました。
このように値段に敏感な顧客を獲得するために、飲食業界は原材料費や人件費が払えるギリギリまで値段を下げて、営業利益率を低くしています。
こうなるとこれ以上安さを追及するためには、原材料費を削るか人件費を削るかしかなくなり、味を変えないためにも給料を低くするしかないとなり、しわ寄せが社員の給与水準の低さに繋がっているんです。
このような業界に就職、もしくは転職するのであれば、私なら今伸びている業界や企業に行くことを選びます。
あと気になる点としては、やはり飲食業界の高い離職率が挙げられます。
先ほど厚生労働省の調査を紹介しましたが、同じ平成30年の調査で離職率についても調査がされています。
その結果を見ると、月の平均給与と同じ17の業界区分の中で、「宿泊業・飲食サービス業」が26.9%と最も離職率が高かったのです。
これには今まで話してきた給与水準の低さに加えて、他の業界と比較してもきつい労働条件が挙げられます。
その1つが残業時間です。
転職サイトの調査によると、80ある業種の分類で、外食・レストラン産業が月に平均32.6時間でトップ10に入っています。
しかもただ残業が多いだけではなく、飲食業界は年間休日数が少ないです。
顧客を獲得するために年中無休の店舗が多いことや、急なバイトの欠勤などは、多くの場合社員である店舗スタッフが穴埋めをしなければならないため、本来休日であった日まで駆り出されることも多々あります。
この結果同じ転職サイトの調査で、外食・レストラン産業の年間休日数は、80業種中なんと79位だったんです。
確かに近年は、働き方改革は進んでもいるかもしれませんが、しかしここで考えたいのが、単に働き方改革をしたとしても、飲食業界の人材難は解消しても収益構造の問題は解消できないということです。
働き方改革によって労働時間が短くなった一方で、それでも以前からの売上高を維持するためには、これまで以上に生産効率を上げていく必要があります。
言い換えると、働き方改革によって利益を伸ばすためには、どれだけ企業がモノやサービスに付加価値を付けることができるかが課題になってくるということです。
この視点で考えたときに、飲食業界における労働時間の短縮は、売上高と利益をもろに削るものと言って他なりません。
前の項目で説明した通り、飲食業界の営業利益率は1.2%と、数ある業界の中でもトップクラスに低く、付加価値が付きにくいものです。
それでも売上高と利益を確保している企業は、営業時間を出来るだけ確保することで客数と回転率を維持している訳です。
これが削られるとなれば、飲食業界にとっては単純に客数と回転数を減らすことになってしまうので、客を入れてなんぼの業界における働き方改革は、売上と利益の面では限りなくミスマッチと言えます。
以上議論してきた通り、飲食業界は様々な面で厳しいと言わざるを得ない点が客観的な数字から分かっているので、私からはお勧めしません。
じゃあ飲食関係の企業で今後未来のある企業はないのかということですが、もし今飲食業界に興味がある人には、飲食業界に加えて見てほしい事業領域があります。
それが「フードテック」と呼ばれる事業です。
フードテックは食とテクノロジーをかけ合わせることで、食糧不足や飢餓問題、さらには食の安全など食に関わる問題をテクノロジーで解決することを目指している事業領域です。
2014年以降、世界ではフードテックに対しての投資というのが爆増していて、2018年には世界で7500億円もの投資がありました。
日本でもフードテック業界は非常に加熱していて、農家と消費者を直接結ぶプラットフォームや、栄養価が最適化された総菜の定期便サービス、さらには自動調理システムなどの開発が進んでいて、今後この分野が注目されていくことは間違いないと思います。
今後皆さんが就職や転職する際の選択肢の1つとして、ぜひフードテックという分野を注目してみてください。