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お世話になっております。メタバースクリエイターズ若宮でございます。

今日は「大局の細部」というお話を書きたいと思います。

経営者として仕事をしていると、物事を大きく捉えることが大事だなーと思うことがあります。一方で、クリエイターと一緒に仕事をする中で、細部へのこだわりが大事だと感じる部分もあります。

大きく考えるのか、細部にもこだわるのか。一見矛盾しそうなこの2つのマインドセットについて考えたことを少し言語化してみます。

「神は細部に宿る」

まず、建築家・ミース・ファン・デル・ローエの言葉

神は細部に宿る

を取り上げましょう。(ミース・ファン・デル・ローエは、近代建築の巨匠であり、今僕たちが都市で見るモダンなガラス張りのビルは彼の発明です)

(彼が実際にこの言葉を発したかどうかは議論がありますが)この言葉は、細かい部分まで丁寧に仕上げる仕事の重要性を示しています。


たとえば窓枠と壁のつなぎ目まで丁寧に仕上げられ納まっているか。そうした細部の仕上がりが、全体の完成度を表します。日本の工芸品も「細部」をとても大事にしますが、本当に質の高い仕事は細部まで手を抜かないものですよね。ファッションとかでも、おしゃれ上級者は靴下やベルトなど(普通の人が手を抜きがちな)見えない部分にまで気を使っているものです。


クリエイターと一緒に仕事をしていると、彼らが(普通の人は差にほとんど気づかないような)細部にまでこだわるのをしばしば目の当たりにします。その偏愛的もしくは偏執狂的と言っていいようなこだわりが、クリエイターの仕事を「普通」ではないものにし、感動を生み出します。


「ちっちゃいことは気にするな」

次に、人力舎・ゆってぃの言葉

ちっちゃい事は気にするな、それワカチコワカチコ

を取り上げましょう。(ゆってぃは、スーパーアイドルであり、ほとんど全身が銀色をした長髪のおじさんです)

(「ワカチコ」とは「若さ・力・根性」を意味するという説もありますが)この言葉は、逆に細かいことを気にしないことの重要性を示しています。


僕のような昭和世代の男性は、まさに「小さいことを気にするな」と育てられてきました。「豪放磊落」でいることが「男らしさ」だとされ、しばしば雑さや粗暴さは美徳とされました。(未だに男子ノリで「無茶苦茶するのがかっこいい」みたいなのはある気がします)

逆に、細かいことを気にするのは「女々しい」とされ、あまりいいことでは無かった。

しかし先ほどの「神は細部に宿る」から考えると、雑さはクオリティの低さに繋がってしまうのではないでしょうか。


いささか旧来の価値観だとはいえ、「小さいことは気にするな」と言われ、豪放磊落が美徳とされたことにはそれなりの理由があるはずです。

たとえばあまり細かいことにとらわれると、大きなチャレンジができなくなる、みたいなことはあります。スタートアップでは、失敗やトラブルが日常茶飯事です。そんな時に、あまり小さなことを気にしすぎてしまうと前に進めません。

小事にくよくよするのではなく、大きな視点を持ち「大局観」を意識することが大切です。売上が下がっている、チームの関係がうまくいかない、資金調達が断られた、などなど、スタートアップの経営者は心配事が毎日のように生まれます。しかしそういう困難も、視座を高くして10年後、20年後の未来から考えれば大したことではないですし、トラブルもいずれ乗り越えて笑い話になるものです。


また、経営層の「マイクロマネジメント」が組織の邪魔になってしまうことも多い気がします。小さいことまで管理するとチームワークのスピードが落ちたりチームが育たなかったりしますし、小さい部分しか見えずに視野が狭くなってしまう罠もあります。経営者はあまり小さいことにこだわらず、俯瞰して大きな視点から経営を考えることが重要でしょう。

「小事」を離れ、「大局」の「細部」を大事にしよう

「神は細部に宿る」と「ちっちゃいことは気にするな」は一見矛盾しているようにも思えます。これはどう考えればよいでしょうか。

これ、よく考えると、実は矛盾していないことに気づきます。2つを合わせて考えた時に大事なのは「小事は気にしない」ということで、その点においては両者は矛盾せずに成り立つ。

ポイントは「細部」と「小事」はちがう、ということです。細部まで手を抜かないことはたしかに重要だけれども、それは「小事にかかずらう」ということではありません

「小事」で気をもみすぎず、視野を狭めず、大きな視点でものごとをみる事が大切です。

そして「大事」にも「細部」はある大局観を持ちながらも細部にこだわること、このバランスが大事なのではないでしょうか。そしてせっかくこだわるなら、小事の細部ではなく、大事の細部にこだわる方がいいはずです。

僕は企業の新規事業のアドバイザーをすることも多いのですが、その時よく「入り口と出口」という話をします。事業の始まりには、「N=1」と言われるような個別具体的なニーズを手触り感を持ってしっかりと掴むことが必要です。


しかし、始まりの個別のニーズだけに集中しすぎてしまうと視野が狭くなり、事業全体の広がりが生まれない。出口である5年後、10年後の展望はできるだけ大きく描くのも大事です。

「入口」と「出口」では近さがちがうので解像度は当たり前ですが違います。入口側では「憑依」するくらいの「高解像度のニーズ理解」が重要です。一方、「出口」は(どうせ未来は分からないのですから)解像度は低くなっても「広がり」を目一杯考える。「細部」と「大局感」の両方が必要です。

ぼやっとした「大局」だけで入口の「細部」がないのは、「いつか伝説的なロックスターになる」といいながら今できることをしない「口だけの夢追い人」のようなもので、大口を叩く割には行動をしません。

それよりは小さくても今できることから一生懸命やるほうがいい。まずは地元のライブハウスで、観に来た数人を感動させよう。しかし着実に「今」を積み重ねるのはいいことですが、身の丈に合ったことばかりやっていては地元のライブハウスをいつまでも出られないかもしれない。それでは「堅実な小物」になってしまいます。どこかで大勝負も必要なのです。


事業でも入口を「細部」から始めるのはよいですが、そこからスコープを広げられなければ、社会的なインパクトも小さなものに留まってしまいます。そういう意味では、「小さな入口」は「小さな出口」のためのものではなく、「大きな出口」のための一歩目の「細部」だとも言えます。入口で見つけたニーズを「大局の細部」にするか「小事」に終わらせるかはその後の展望次第なのです。


良い仕事をするには「細部」はたしかに大事です。しかしそこだけにかかずらうと視野が狭くなってしまう。大きな視点から大局を捉え、その上でその要所となる部分の細部にもこだわる。これこそが「いい仕事」の秘訣なのではと思っています。


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