日本は暑くなっているし、それ以上に寒くなくなっている
「暑い」という定性情報を定量的に表現する
東京は、毎日暑いですね。外出するのも億劫になる暑さ。夜もむせ返るような熱気が続いて、犬を連れて散歩にも行けない。こんなに暑いなら12月には東京も50度超えているんじゃないですか? それはない? そうですか。
熱帯夜が続くので、夜もクーラーは付けっ放し。大阪で暮らす実家にも「夜こそ気を付けなあかんで」と伝えています。おかんは「昔はこんなに暑く無かった」「電気代かさんで大変」「地球温暖化が憎い」と言ってました。
…ところで「昔はこんなに暑く無かった」と言う50代~70代が多いみたいですが、それって本当でしょうか? 暑い寒いは思っている以上に「肌感覚」です。(じゃないと「コンビニのおでん9月に売れる説」は成立しない)
「昔はこんなに暑く無かった」のなら、単純に過去遡れるだけの気温データを入手して、折れ線グラフで表現すれば良いでしょう。そこで、気象庁から過去データをDLして「昔はこんなに暑く無かった」のか調べてみました。(Webページはこちら)
東京(1878年1月~)は昔から暑かったか①
「気温」に関する過去の気象データとして、いくつかの選択肢が設けられています。以下、画面キャプチャした図です。
「気温」の分析は、大半が「月平均気温」が使われています。しかし「昔はこんなに暑く無かった」というのは「最高気温」の肌感を意味しているのではないでしょうか?
よって「日最高気温の月平均」「日最低気温の月平均」のデータを参考にして分析します。
1876年~2022年まで遡って、東京の「日最高気温の月平均」を入手し、気温の高い順に並べました。上位20件結果は以下の通りです。
確かに今(10年以内)も暑いけど、昔(10年以上前)も同じぐらい暑かった~。
ただ、「日最高気温の月平均」は、ある年における「瞬間最大風速」みたいなものです。10年の時間軸で見た「傾向」は、また違って見えるかもしれません。
そこで、「日最高気温の8月平均」に絞って、1876年~2022年まで147年間の推移を見てみましょう。
「日最高気温の8月平均」は上がったり下がったりする(乱高下が激しい)けど、10年分の移動平均線で見ると「昔(1980年代前半)はこんなに暑く無かった」と言えなくもないです。1~2度暑い。
「昔はこんなに暑く無かった」と言われたら「傾向としてはそうだけど、瞬間最大で見れば今も昔も変わらないよ」と返しましょう。恐らくは、ウザがられるでしょう。
東京(1878年1月~)は昔から暑かったか②
余談ですが、「日最高気温の月平均」ではなく、「月最高気温」で見ると傾向は変わるでしょうか。
やっぱり、昔(10年以上前)も同じぐらい暑かった~。ってか、39度って。
先ほどと同じように「8月最高気温」に絞って、1876年~2022年まで147年間の推移を見てみましょう。
「日最高気温の8月平均」と、傾向はほぼ同じでした。
日本(1898年1月~)は昔から暑かったか
暑くなっているのは東京だけでしょうか? 今度は、日本そのものを対象に「昔はこんなに暑く無かった」のか調べたいと考えます。
ただし日本は弓なりに長い国土で、南北3,000km、東西3,000kmの長さがあります。日本そのもの、って結構難しい。
「気温」は様々な要素の影響を受けます。北は北海道、南は沖縄県を同一視できるでしょうか? アスファルトとコンクリートの多い大都会の東京、森林と海に囲まれた田舎の島根を同一視できるでしょうか? 海抜0メートルが多い東京都江戸川区、市庁舎が標高801メートルにある長野県茅野市を同一視できるでしょうか?
実際、気象庁が発表している年平均気温は「全地点」ではなく「1898年以降観測を継続している気象観測所の中から、都市化による影響が小さく、特定の地域に偏らないように選定された15地点」を対象に「1991年~2020年の平均気温」を求め、その「平均値と地点の差分」(偏差)の平均値を1898年以降算出しています。気象庁のWebページから引用です。
「15地点の平均気温の平均」は「5月は20度」「11月は18度」と求まるはずですが、その数字が独り歩きしてしまう可能性があります。「我が村はそんなに寒くない」とか「我が街はそんなに暑くない」とか。
そこで地点別に偏差を求め、その平均を求めることで「この100年でざっくりと言えば1.3度上昇しているよ」と表現しているのです。
気象庁は、このデータをもってして「日本は暑くなっている」と言っているわけですね。
計算式はそのまま公開されているので、同じロジックで15地点の「日最高気温の月平均」から「日本の日最高気温の月平均偏差」を求め、60か月移動平均線でグラフを描画してみました。
気象庁が提示しているグラフに比べて、直線の傾きは若干緩やかになりました。
詳細を見てみると、「日本の年平均気温偏差」からも読み取れますが1950年代後半~1960年代前半にかけて、急激な温暖化が進行しています。しかし、それから20年間は寒冷化の時代でした。(今とは真逆です)
1980年代後半を基準に考えると、わずか40年弱で1.5度も最高気温月平均が上昇していることになります。特に2010年代から一気に降り切れています。
このグラフを基準に考えると、確かに「昔はこんなに暑く無かった」と言っても良いかもしれません。ただし、基準年を1950年代か、60年代か、70年代にするかで、捉え方は大きく違うはずです。
日本(1898年1月~)は寒くなくなっている
気象庁が提示しているグラフに比べて、なぜ直線の傾きは若干緩やかになったのでしょうか。ヒントは「平均気温」の算出方法にあります。Webサイト上でこのように記載されています。
仮に、24時間のうち12時間は「寒い」、12時間は「暑い」に分類されるとしましょう。24時間の「平均」より「暑い」の方が直線の傾きが緩やかなら、もちろん「寒い」の方が直線の傾きが急になるはずです。
ということで、同じロジックで15地点の「日最低気温の月平均」から「日本の日最低気温の月平均偏差」を求め、60か月移動平均線でグラフを描画してみました。「最高気温」との「傾向」の違いが分かるように、そちらも描写します。
100年スパンで長期的に見ると、「暑くなっている」よりも「寒く無くなっている」という表現が正しそうです。
1980年代後半からの上昇具合は、最低気温、最高気温同じぐらい(わずかこの10年で0.5度上昇)ですが、直近数年はより最高気温が高まっていると言えそうです。
温暖化とは「暑い」と「寒く無い」
「地球温暖化」=「世界が暑くなっている」と表現するのは、少し短絡的かもしれません。最高気温も高まっているし、それ以上に最低気温も高まっています。つまり「暑くなっている」し、それ以上に「寒く無くなっている」のです。
私は生物学者、あるいは海洋学者では無いので、1日当たりの寒暖差が小さくなる影響をどう評価するべきか、その解を持ち合わせていません。無いのかもしれないし、大いにあるのかもしれません。ここから先は、声を届けるメディアの出番だと筆者は考えています。
筆者は「地球温暖化」について、データから推察するに「冷ます力が弱くなっている説」を掲げています。太陽によって地球は熱せられますが、その熱は必ず逃げます。火で熱したフライパンも、火を止めれば熱がいずれ逃げるように。その原理と一緒だと考えます(いわゆる放射冷却効果)。
ところが、温室効果ガスが熱の放射を邪魔して、熱が逃げなくなっているのが現状です(最低気温の上昇)。すると今度は「既に少しだけ熱したフライパン」を火で熱するので、早く熱くなります。さらに暑くなるかもしれません(最高気温の上昇)。
どうすれば地球は冷めるのか? いろんな学説があるようですが、解明にはいたっていません。
冒頭に、私は「こんなに暑いなら12月には東京も50度超えているんじゃないですか?」と提示しました。数百年先、「冷ます力」を失った地球において「無くはない地球の姿」なんじゃないかなとは思っています。知らんけど。