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パナ早期退職問題から見える「辞めさせ下手な日本さん」

期待する人材まで流出してしまった早期退職制度

解雇することがなく、雇用が保証されていることが特徴だった日本型経営の崩壊が言われるようになって、早30年が経つ。バブルの崩壊以降、悪化する業績のために集団解雇をリストラと呼び、雇用保障がなくなったことから従業員がキャリアのために転職することも珍しくはなくなった。近年では欧米のように、必ずしも業績が悪化しなくても、事業戦略や事業ポートフォリオの変更のために人員を入れ替える目的で早期退職を募ることも増えてきた。

今回のパナソニックが行った大量の早期退職者募集は、後者のものだ。コロナの影響もあって業績は楽観視できる状態にないが、かといって悲観的になるほどのものでもなかった。低収益体質からの脱却に向けた事業戦略の切り替えのために早期退職を募るものであり、社内に向けた資料でもリストラではないことが強調されていた

しかし、結果として、早期退職制度を利用した多くの従業員に、新しい事業戦略を構築する上で必要な人材の流出も含まれていた。今年の6月に新社長としてスタートを切ることになった楠見 雄規氏にとっては、苦いスタートとなってしまった。

早期退職は初めてではない

今年就任したばかりの楠見氏にとっては、早期退職の陣頭指揮を執ることは初めてのことだったかもしれない。しかし、この30年間でパナソニックが整理解雇や早期退職、事業閉鎖をすることは特段珍しいニュースではなくなっている。楠見氏の古巣であるテレビ事業部も、2013年にはプラズマテレビ事業を撤退し、今年3月末には国内生産から撤退している。

楠見氏の前任である津賀一宏前社長の足跡を追うと、不採算事業の売却と撤退に苦しんできた在職9年間であったことがわかる。2012年に就任以後、13年にはプラズマテレビ、スマートフォン事業から撤退し、ヘルスケア事業を米投資会社KKRに売却している。2017年にはデジタルカメラをはじめとした不採算の6事業を対象にリストラを行った。2019年は液晶パネルの生産ラインや半導体事業の撤退を決定した。そして、2021年には太陽電池からの生産撤退も行っている。おおよそ、2年に1度は事業再編やリストラを慣行してきたイメージだ。

表現が悪いかもしれないが、これまで事業撤退やリストラ、早期退職を繰り返してきたパナソニックが「期待していた人材まで流出してしまった」と嘆いたのは驚かされた。90年代ならまだしも、これまでの経験からノウハウが蓄積されてこなかったのだろうか。しかし、終身雇用の崩壊が謳われるようになって30年、同じように解雇の問題でトラブルを抱える組織は跡と絶たない。

人材の入口と出口を同時に設計していない

自社が保有する人材の能力を余すことなく利活用するための取り組みをタレント・マネジメントと呼ぶが、その中で重要なことは、「限られた資源の中で事業戦略の遂行に最も適したスキルや能力を有した人材が蓄積されているかどうか」である。企業が抱えることができる従業員の総数には限界がある。限界はほとんどのケースで総額人件費とほぼ同義だ。その限界人数を「採用可能人数(ヘッドカウント)」と呼び、この人数の中で従業員個人の持つ経験やスキルに応じて配属や能力開発をしたり、採用の要件定義を決める。日本企業はこの作業を人事部主導で行うことが多く、職務の要件定義を曖昧にする傾向があるのに対して、欧米企業(というより日本以外)はこの作業を分散して現場に権限委譲し、職務の要件定義を明確に定めるという違いがある。

この作業で、日本企業と欧米企業の大きな違いとして、事業戦略や人事戦略に削ぐ合わなくなったり、外部環境の変化に対応できずに専門性が陳腐化した人材を入れ替えるための解雇の仕組みを予め設計しているかどうかがある。例えば、良く知られる人事評価のナインボックスでは、最低評価の10%を常に入れ替えるようになっていた。また、Netflixはカルチャーデックにも記載されているように、最高のチームを維持するために積極的で手厚い解雇を推奨している。

このように解雇制度を予め設計する背景には、企業にとって必要な人材像は一定ではないためだ。それは従業員の専門性やスキル、能力といった比較的測定が容易な要素であることもあるし、仕事への取り組む姿勢や価値観といった認知的能力であることもある。例えば、PwCの調査によると、CEOの5人中4人が「自社で働く人々の業務上必須スキルの不足・欠如に不安がある」と回答し、スキルギャップ解消のためのアップスキリング・リスキリングに投資している現状が示されている。事業戦略と将来の構想に応じて、従業員は学び続け、新たなスキルを身に着け続けることが期待されている。その変化に対応できない時には、新しい人材を採用するために肩を叩かれる。

しかし、多くの日本企業では解雇制度を予め設計していない。そのため、期待している人材の流出を覚悟で、パナソニックのように早期退職制度を用いている。日本はもちろんのこと、世界中の国々で制定されている労働法は、企業が都合よく、特に落ち度のない従業員の首をすげ替えることを良しとしていない。会社都合の解雇に合理性か、十分な退職パッケージを準備することは世界標準だ。そのため、合理性を確保するために予め解雇制度を丁寧に作りこんでおく必要がある。尚、日本の法制度でも外資系企業では解雇制度を設計しているため、日本企業でもやろうと思ってやれないわけではない。

だが、パナソニックの例はまだ良い方だ。期待していた人材まで流出してしまったことは悲劇かもしれないが、パナソニックほどの企業なら新たに採用することもできる。しかし、中には追い出し部屋や社内でいじめを行い、望ましくない従業員を追い出そうとする企業もある。また、早期退職制度の結果、期待している人材がこぞって応募し、本来は退職して欲しかった、いわゆる「働かないおじさん」が会社に残ってしまうというケースもある。これらのケースだと、早期退職を募ったことは逆効果だ。

「日本企業は雇用を守るべし」という、伝統と美徳を尊重することは悪いことではない。しかし、そのために競争力を失い、事業継続が困難になっては元も子もない。終身雇用と雇用保障を重視するといいつつ、整理解雇や早期退職を30年も繰り返してきたのだから、そろそろ日本企業も採用や他の人事制度と連動させた解雇制度を設計するタイミングに来ているのかもしれない。

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