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日銀保有のロシア中銀資産~ロシア外貨準備の実際~

日銀保管のロシア中銀資産について

2月28日夕、日本政府がロシア中銀(CBR)との取引を制限する制裁を表明したことにあわせ、日本銀行とCBRの取引禁止の方針が表明されました:

後述するように、日銀がCBRから預かる円建て資産は相応の規模です。仮に、この政府決定がなかった(遅れた)場合、CBRから円建て資産の引き出し要求を受けても日銀は拒絶できなかった可能性があるので、政府は決定を急いだのではないかと推測されます。

同決定を受けた2月28日の日本経済新聞は日銀に預託されるCBR所有の資産に関し「2021年時点で4兆~5兆円規模」と報じています。その翌日の3月1日、松野博一官房長官は記者会見で、凍結対象となる円建て外貨準備が3.8兆円程度に上ると説明していました。筆者はお客様向けのレポートで事前に3.8兆円と執筆していたので、多くの照会を頂きました。

この3.8兆円という数字を求めるのは容易です。日銀が毎週発表する「営業毎旬報告」の負債サイドには「その他預金」という項目があり、注釈で「外国中央銀行等の預金」と明記されています。これが2月28日時点で25兆円あります。※試算した2月20日時点ではもう少しだけ多かったですが。

ここでロシアに目を移しましょう。2021年6月末時点でロシアの外貨準備は5853億ドル、このうち5.7%が円ということが判明しています

厳密には「円」という単独項目で発表されてはいないのですが、「その他」通貨の内訳としてCBRの報告書『ロシア中央銀行 外貨・金運用報告』で数字に言及があります。以下にリンクを貼っておきます(アクセスが多いかつセキュリティ?の関係か安定的に開けないことがままあります):

http://www.cbr.ru/Collection/Collection/File/39685/2022-01_res_en.pdf


つまり、333.6億ドル(≒5853億ドル×5.7%)がロシアの外貨準備における円建て資産ということになります。333.6億ドルは1ドル115円換算で約3.8兆円という計算です。日銀に預託された「外国中央銀行等の預金」が約25兆円ですから、CBR所有分(約3.8兆円)は日銀に預託された「外国中央銀行等の預金」の約15%という話になります。これがロシア単独であることを思えば、相応に大きいな、と筆者は感じました。

 

外貨準備の場所別内訳:「安全・無害」な中国や日本?

なお、『ロシア中央銀行 外貨・金運用報告』では「外貨および金の場所別内訳」という珍しいデータも公表されています。これはCBR保有の外貨建て資産に関し、取引相 手または証券発行体の登記場所で分別したデータである。これによると日本は10.0%で米国(6.6%)、英国(4.5%)、ドイツ(9.5%)よりも大きくなっています。一方、中国(13.8%)やフランス(12.2%)よりは小さくなっています。直感的に「ロシアにとって安全(無害)そうな場所」が好まれているという印象は抱かれます。これは「円に限らず外貨も含め日本に登記されているものが10.0%(約585億ドル≒約6.7兆円)存在する」という話です。それがどういった形でどこにあるのかはよく分かりません。日本国債などの形で証券会社にあるのでしょうか?

2017年9月以降からの変化を見ると、やはり「米国を避けて中国や日本へ」という資産の動きが透けて見えます。振り返ってみると、2017年9月時点では中国や日本に登記されていた外貨資産は概ねゼロ%である一方、米国が30%以上を占めていました。過去5年でCBRは明確な意図をもって米国を避け、中国にシフトしたというのはある程度事実なのでしょう。現在のような状況を見越して、少しずつ外貨準備の非ドル化を進めてきた、と考えるのが自然です。しかし、今のロシアの窮地を救うほど、こうしたリバランスは間に合わなかったというのも一方で事実と言えそうです。

 金融制裁、究極の目的はロシア国民の政権離反

なお、政府・日銀による制裁が発表された2月28日にはCBRが政策金利を従来の9.5%から20%へ大幅に引き上げるという動きもありました:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB286Y40Y2A220C2000000/

こうした大幅利上げは、通貨防衛に際してCBRが使える手段として決済ルート(端的には為替介入)が封じられているため、金利ルートしか使えなくなっていることの証左でしょう。しかし、これも無駄な抵抗と言わざるを得ません。既報の通り、ロシア国内では現金を求めてATMに列ができ、ロシアルーブルを現物や外貨に交換しようという動きが活発化していると言います:

金利が高いからと言って、この動きを考え直すロシア国民は多くないでしょう。「金融版の兵糧攻め」であるSWIFT遮断の結末は通貨危機と相場が決まっており、解除の見通しが立たない以上、金利水準に拘わらずロシアルーブルが買われる理由はありません

もちろん、貿易取引まで封じられているわけではないので外貨を稼ぐ手段がないわけではありません。しかし、送金や為替変動のリスクが膨れ上がっているロシア企業と取引に応じる企業は今後ますます減ってくるでしょう。ロシア国内への対内投資(資本取引)など期待すべくもありません。結果、当面の間、「ロシアルーブル買い・外貨売り」が発生する理由がありません。理屈ではなく需給がロシアルーブル安を肯定する状況なのです。SWIFT遮断が解除されるにはプーチン大統領が侵攻を止めるしかないように見えます。

今のような状況で利上げしても通貨安は止まらず、それゆえにインフレ高進は続き、逆に高金利によって国内の消費・投資意欲も毀損されるはずです。要するに、利上げは自傷行為にしかならず、ロシア国民が困窮するだけと言えます。このような状況だからこそ潤沢な外貨準備を用いた為替介入でロシアルーブル相場を支えるという決済ルートでの通貨防衛が奏功するはずですが、SWIFT遮断を筆頭に制裁の包囲網が築かれる中、身動きが取れません。

こうした状況を踏まえると、SWIFT遮断やこれに付随する一連の金融制裁の究極的な狙いはロシア国民のプーチン政権からの離反と言って差し支えないのかもしれません。その結果としてプーチン大統領に行動変容を強いるというのが西側陣営の本音ではないでしょうか。

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