持ち合い株式の削減は、ビジネスパーソンにどんな影響をもたらすのか?〜株主の影響力と働き方〜
今年4月、東京株式市場で約60年ぶりの市場再編が実施されました。下記の記事にある通り、注目は海外からの投資マネーを呼び込むことを目的としたプライム市場の動向です。このプライム市場で企業が上場を維持するためには、その上場企業が自社の流通株式比率を上げる(または下げない)ことが必要です。そして、流通株式比率が低い企業の多くは、持ち合い株式比率が高い企業が散見されます。今回の市場再編は、骨抜きの改革と揶揄されることが多いものの、日本の上場企業の課題とされていた持ち合い株式の解消には一石を投じてくれそうです。今回は、持ちあい株式の削減は、私達ビジネスパーソンにどのような影響をもたらすのかを考察します!勤め先がどのように株式所有されているかも、ぜひ確認してみてください!
持ち合い株とはなにか?悪いことだけなのか?
持ち合い株とは、企業間で相互に株式を保有する形式を指し、企業同士の取引関係の強化や買収防衛を目的に保有されるケースが多いです。株主価値(企業価値)や株主価値の源泉である従業員の利益を守るには、経営者を監視することが必要です。しかし、あまりにも持ち合い株式比率が高いと、株主が経営者を監視することが難しくなり、企業価値の毀損に繋がり兼ねません。そうした理由から、日本でコーポレート・ガバナンスコード(≒経営者を監視する仕組み)が導入されてから、持ち合い株式は削減され続けています。
しかし、昔は持ち合い株は悪いことだけではありませんでした。日本は、間接金融がメインで発展してきたこともあり、銀行によるコーポレート・ガバナンスが主流でした。銀行が事業会社と持ち合い株を保有し合うことで、銀行が経営者を監視することで、日本の学術研究でも2000年代初頭までは企業価値の向上に寄与していたことが報告されています。しかし、バブル崩壊でこうした機能は停滞し、買収防衛や海外投資家からの脅威に晒されないための持ち合い株が主流となっていきました。こうした状況では、株主が適切に経営者にモノが言う事ができなくなります。また、日本に海外マネーを呼び込むにも、海外投資家も躊躇してしまいます。そこで、日本では持ち合い株の削減が、コーポレート・ガバナンスにおいても重要視されてきました。
持ち合い株における、海外の状況
実は、企業価値を毀損しかねない持ち合い株は、日本だけではなく新興国の株式市場で散見されます。例えば、韓国についてFT記事では痛烈に批判しています。巨大財閥企業サムスンでは、グループの保険・不動産・建設セクター間で持ち合い株の形式が取られているものの、サムスン電子の李会長が実質的に支配権を握っており、外国人投資家からの影響力を弱めているとしています。こうした現象は、下記の研究からも東アジア金融危機以降、ずっと続いていることが示唆されています。
ベトナムでは銀行と企業における持ち合い株式が今も主流であることや、その弊害についての研究も存在します。
中国でも、持ち合い株式が盛んであり、2008年のリーマンショック以降より盛んなことが先行研究で報告されています。。最近では、その傾向は収まっているものの、経営上の問題が起きた企業ほど持ち合い株の形式に参画する傾向があるようです。
イタリアでも、銀行と大手企業間で持ち合い株式の形式が散見され、特に収益性が低く、成長が鈍く、負債が多く、担保があり、現在の収入から負債を返済するのに苦労している企業と銀行間で散見されていました。ただし、イタリアではガバナンス改革が行われており、現在もそれが議論されていることをFT記事では報告しています。
株式持ちあいが解消されたら、私たちの生活にどのような影響が起きるのか?
世界の、特にアジア圏で散見される持ち合い株ですが、もしも健全な形で解消されたら何が起こるのでしょうか?当然、外国人株主による経営者への影響力が増すでしょう。The Economistでは、外国人投資家の多くが、女性役員の浸透、企業内でのジェンダーダイバーシティ、株主価値最大化のためにも従業員の柔軟な働き方を求めていることを報告しています。勤め先の企業で持ち合い株が解消されることは、こうした働き方改革を促す契機になるのかもしれません。
投資をしていない人からすると、東証の市場再編は遠い話のよう見えるかもしれません。しかし、これは働き方をより良く変化する契機になるのかも!?
ここまで読んでくださり、有り難うございます!
いつも応援有り難うございます!
崔 真淑(さいますみ)
*冒頭の冒頭の画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)より引用。無断転載はおやめくださいね♪
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