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いつの間にかお金がない?「ステルス消費」の正体

日本テレビ「NEWS ZERO」で紹介された、ある人の食費4万円というものが話題になりました。

番組では石井さん(仮名、33歳、男性)が、平均月間労働時間300時間(月残業時間約120時間)にも関わらず手取り23万で、時給換算すると最低賃金を下回る収入しかない状況が紹介されていましたが、話題になったのは石井さんの食費です。

「月4万円の食費が贅沢だ」「無駄使いしすぎだ」「もっと切りつめられる」というのです。

いやいや…。

月4万円ってことは、1日当たり1300円しかないんです。仮に、朝パン300円、昼立ち食い蕎麦400円、夜弁当500円、1日ペットボトル2本で300円。これだけでもう1500円でオーバーです。一滴の酒も飲めません。

酒のことは置いておいても、夏場なら、飲料は1日2㍑飲まないと熱中症になると言われています。批判をする人は、食費とは食事のことだけと考えているのでしょうか?

僕は、実際に世の男性たちがどれくらい一日消費しているかを追跡調査をしたことがあります。そこでわかったのはもとにかく男たちは食費の何にいくら使ったのかをほとんど覚えていないということ。しかも、一番記憶にないのが自販機での飲料購入代です。

本人的には2本くらいしか買っていないつもりでも平均で4本買っています。記憶の倍購入しているのです。すごい人になると、1日10本以上ペットボトル飲料を買うおじさんもいました。財布の中の小銭がいつの間にかなくなっているのはそういうことです。

平均4本ということは、1日600円使っています。つまり、飲料だけで1日600円、月にして1万8千円もの記憶にない消費をしているということです。これが「記憶にない消費=ステルス消費」です。

もちろん、「飲料を自販機で買うのは無駄なんだ。自宅で麦茶作って水筒持参しなさい」という声があるのもわかりますが、独身の一人暮らしならそんなことはしません。「500mlを4本も買うなら、最初から2㍑ペットボトルを買えばいいじゃん」というツッコミも聞こえてきますが、そもそも本人は2㍑以上飲んでいるつもりがないのですから、そのご指摘も無意味なのです。

では、世の中のソロ男・ソロ女の一か月の食費はどれくらいなんでしょうか?2018年の家計調査(勤労単身世帯者)から割り出しました。

ご覧の通り、男性は4万円どころか月5万円くらいは食費にかかっています。むしろ女性の1日1000円という食費は大丈夫か?と心配になります。多分、自炊などで節約されているんでしょう。

同時にエンゲル係数も出してありますが、簡単に言えば単身男のエンゲル係数は3割です。消費のうちの3割は飲み食いに使うのです。ちなみに、二人以上の世帯(家族)のエンゲル係数は24%(2018年)くらいです。

10年間の長期推移(59歳まで全年齢対象)を見てもほぼ同じです。逆に言えば、10年間の給料据え置きとデフレ状態を如実に表しているとも言えますが。

単身男に限れば、食費のうちの半分は外食費です。月当たり2万円以上の外食費というのは、実額で一家族分を上回ります(一家族外食費は月1万5千円くらい)。つまり、ソロ男は一人で平均家族人数3.4人分以上の外食費を使っているということです。このデータは拙著「ソロエコノミーの襲来」にも書いていますが、講演などでお話をすると驚かれます。率ではなく額で、ソロ男の外食費は家族を凌駕しているとはあまり皆さん想像していないようです。

ファミレスが一人席を作るのがおわかりでしょうか?一家族分以上ひとりで消費してくれるソロ男の方が優良顧客なのです。


話を元に戻すと、「食費4万円は贅沢だ」と批判している人の中には、「そもそも外食や単価の高いコンビニで買うのが間違いだ、自炊すればいいだけ」という人もいるかもしれません。でもそれこそ、価値観の問題で、「持家か賃貸か論争」がいつまでも平行線なのと同じです。

「自分は自炊して食費を節約しているのだから、外食している奴が間違っている、そういう奴等は許せない」という思考で攻撃しているのだとするなら、それはもはや正しさという名の暴力だと思います。あなたの正しさは、誰にとっても正しいとは限りません。

食にこだわりがない人ほど、外食やコンビニで済ませる傾向があります。そうすると、月4万円なんていつの間にか消えています。世のお父さんの月々の小遣い代が3万円台というのがありますが、3万円台では飲みにも行けないと嘆いているわけで、それもそのはず立ち食い蕎麦と飲料代で3万円は終わります。

特に男性の皆さんは、一度月の出費というものを把握してみた方がいいと思います。思いのほか多い「ステルス消費」にびっくりするのではないでしょうか?

「知らぬが仏」かもしれないですが。

いずれにしても、月3万円の小遣いのお父さんも、月4万円の食費にならざるをえない独身男も、もう少しお金が使えるような景気になってほしいですよね。

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。