未婚化や少子化にまつわる嘘の数々に惑わされてはいけない

「わかりやすく伝える」ことと「嘘を言う」ことは当然違う。しかし、現実社会において、天下の報道機関であっても、「わかりやすく伝えようとするあまり、結果として嘘を言う」場合がある。無意識にやってる場合もあるが、かなり意図的にやる悪質な場合もある。

未婚化や少子化のニュースなどでは、結構後者の悪質な恣意的データ使いも多くみられる。その大本は「未婚化や少子化は改善されなければいけない悪の現象である」という社会規範なのか道徳なのかよくわからないものによって。

僕が、もう何千回言ったかわからないが、「結婚したい未婚が9割なんて報道は大嘘」なんてのもその中のひとつに入る。

結婚意欲9割なんていうのは嘘。そもそも設問が「結婚するつもり」か「一生独身」という二者択一の質問なので9割近くが前者を選ぶのは当たり前。出生動向基本調査はより詳細な結婚意欲を聞いている結果があるのに、わざわざ出さずに、この二択の結果しか出さないのは悪意を感じるわです。

ファクトを言えば、結婚前向き度は男女とも4-5割程度で、それは30年間変わらない。それについてはこちらの記事をどうぞ。

しかし、最近、新聞などではさすがにファクトを認識して嘘はやばいと感じたのか、以前ほど「結婚したい未婚が9割」なんてことを書く記事は減った。

こちらの日経の記事では、自ら調査を行い、「結婚したいはせいぜい4-5割」という当たり前のファクトを記事化しましたね。とてもいいことです。事実に反する嘘はいけません。

それ以外にも、未婚化や少子化に関しては、いろんなフェイク情報が蔓延しています。そういう情報しか接していないとそれがファクトであると信じ込んでしまう。それは、1930年代に欧州で起きた過ちの元でもあります。

たとえば、悪い事例として出して申し訳ないが、こんな記事。2020年10月の古い記事ですが…。

NewsPicksには過去にお世話になったこともあるので、なんだかんだ言いたくはありませんが、この記事はあまりに酷い。結論ありきの恣意的なデータ使いにもほどがあると思います。

何点か例をあげると、前述した「結婚したいが9割」の嘘も堂々と掲載されていることに加えて、

非正規が多いから未婚化になった

→これも嘘です。非正規男性の未婚率が高いことを非婚化の原因にするのはそもそも間違い。非正規未婚率が高いのはその通りだが、絶対数が正規と全然違う。非正規雇用の男性が全員未婚でも、こんなに全体の未婚率を押し上げるほどのボリュームはない。非婚化の要因はむしろ正規の未婚化です。

未婚化のニュースに限らず、「非正規が増えた」という言説はちゃんと見た方がいい。非正規4割とかいうのは、高齢者も既婚のパート女性も学生も含めての数字であり、結婚適齢期の男女の数字ではそもそもない。ちなみに、労働力調査によれば、25-34歳男性の非正規率は13.9%でしかない。


結婚している女性が産む子どもの数が減っている

→これも大嘘。出生動向基本調査による結婚完結出生児数とは、結婚継続15-19年の夫婦しか見てない。一体今どれだけ離婚率があると思っていますか?そしてどれだけシングルマザーが増えていると思いますか?離婚しない夫婦の数値だけを取り上げるなんてまったく無意味。見るのであれば、発生結婚出生数継続結婚出生数を見るべき。

そもそも大前提として、1970年代のベビーブーム時代と現代でも一人の母親が産んでいる子どもの数の比率は変わらない。少子化は、母親が子どもを産んでいないのではなく、そもそも子を産む母親の絶対数が減っているからです。それを僕は「少母化」と言っています。こちらの記事を読んでください。

他にもいろいろありますが、キリがないのでやめておきます。相変わらずの「フランスを見習え」論なんかももういいです。フランスだろうが、北欧だろうが、いずれ2040-2050年の間に先進国の出生率は全部1.5以下になります。それは政策ごときで解決する問題ではない。

出産に対する金銭的なインセンティブを与えて一時期的に出生率が上向く場合もあるでしょう。しかし、人口転換メカニズムに基づけば、本質的には、「乳幼児死亡率が下がれば出生数は必ず減る」のです。

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それについてはこちらの記事に書きました、出羽守のみなさんが大好きな北欧だって出生率はダダ下がりです(記事にグラフあり。ご確認ください)。

もっといえば、あの共産党支配の中国でさえ、出生数は増えない。出生どころか、中国では日本よりも先に結婚滅亡が起きているという事実。

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この10年で、中国では、日本以上の婚姻数激減に加え、離婚数が2倍以上になっています。特殊離婚率換算で中国の離婚はほぼ5割。結婚しても半分が離婚している。結婚が作られず壊されるまさに滅亡状態といえる。これでは出生も増える道理がない。

そういう事情もあってか、拙著「超ソロ社会」が遂に中国で発売されることになりました。男余り3000万人の中国です。全員が買っていただけたらすごいことですw


「ファクトはわかったよ。じゃあ、結婚したいけどできない人間はどうすればいいんだ」という声もあがります。そうした不安をついて、マッチングサービス事業者がここぞとばかりに広告やPRをしていますが、残念ながらああいうサービスで婚姻率が劇的にあがることは間違いなくありません。

マッチングアプリでおいしい目を見てるのは、恋愛強者の男だけです。恋愛強者の男たちに、恋愛弱者の女たちはいいように転がされて、ヤリ逃げされるのがオチです。マッチングアプリなら既婚男だって独身になりすましが可能ですしね。そもそも恋愛強者の女は、そんなもの使わずとも間に合っています。

じゃあ、恋愛弱者の男は?身も蓋もない言い方をすれば、恋愛弱者の男がマッチングされる可能性はほぼありません。弱者の課金によって、強者男が弱者女とセックスする支援をしているだけです。そんな不都合な真実もこちらで記事化しています。


現実はいつも残酷なものです

しかし、だからといって絶望の未来しかないわけではありません。マッチングアプリでも結婚相談所でも、現状ではどうしても男の場合は年収、女の場合は年齢などで条件が制限されてしまいます。

年収と年齢が結婚するわけじゃないのに、おかしいですね。

最近では、AI婚活なるものも流行りらしいですが、もっと本質的なことをお坊さんが教えてくれています。

これは至言です。そしてその通りです。

価値観が合う人とか、よく言いますが、それよりもむしろ、「だめだなあ」と思うところが似ているからこそ互いに寛容になれるのであって、この煩悩によるマッチングは目鱗の話ではないでしょうか。勘違いしていますが、結婚とは、プラスを褒め合う関係性ではなく、マイナスを許し合える関係性です。互いに自己の主張を正しいと押し付け、相手の義務違反をなじりあう夫婦など長続きするわけがありません。

マッチングアプリも結婚相談所も、年収や年齢とか、良く思われたいがために書いた嘘の趣味なんかより、こうした煩悩が一緒同士をマッチングする仕組みを活用した方が、成約率はあがるのでは?

そんな坊さんの言葉にエビデンスがあるのか?というご指摘もあるかもしれませんが、夫婦1000組を調査していますが、夫婦はビッグ5という診断でいえば、性格的に似た者同士のカップルが圧倒的に多い。似たもの同士だから惹かれ合うのか、結婚したから似るのか、は判断つかない部分がありますが、似ているのなら煩悩も似ているのではないですかね?

なんだかんだ言っても、坊さんの言葉が一番刺さったりするのもまた人間なのだ、とも思います。

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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。