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スタートアップCEOはファイナンスをCFOに”丸投げ”してはいけない理由

どんなに優秀な人材・仲間が集まっていても、どんなに素晴らしいビジネスモデルや特許、競合優位性を持っていても、銀行残高のお金が尽きたら、社員に給与も払えない、取引先に支払いもできない、そこで完全なる「ゲームオーバー」…。いわば「スタートアップの死」である。
それがスタートアップという企業形態の悲しい事実である。
だから、スタートアップ起業をする人、つまりCEOは、ファイナンスをCFOに丸投げしては絶対ダメだと思う。今日はそれを書いてみたい。

※スキじゃなくてもスキもらえると、泣いて喜びます~!!

新しい資本主義の実現に向け、スタートアップ育成に力を入れる政府

政府は「成長と分配」の好循環を目指す「新しい資本主義」の実行計画案にて「スタートアップ育成5か年計画」を年末までに策定するそうだ。

岸田文雄首相は1日、新設するスタートアップ担当相を山際大志郎経済財政・再生相が兼務する人事を発令した。スタートアップ企業を5年で10倍に増やす政府の目標に向けた5カ年計画の策定を主導する。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0110K0R00C22A8000000/

不自然で無理ゲーな企業形態、それがスタートアップ

そもそもスタートアップとは、どのような企業なのか、というところから紹介したい。
”起業して間もない会社だ”という向きもあるが実は定義に創業時期の要件はない。
スタートアップとはわずか数年間で数千億円の価値評価がつくことや、数十年で世界を変革するような事業をすることを目指し急成長する企業のことを指す。米国のGAFAM(Googleやアマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトなどの総称)や中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)などは全て、かつてのスタートアップであり現在は世界の時価総額ランキングの上位に名を連ねている。
しかし、起業すれば誰でもGAFAMやBATのようになれるのか。…当然のこととして、そんなことはない厳しい世界である。
当社(WAmazing)もスタートアップであるが、自身でやってみると、これが非常に不自然で難易度が高い、言葉を選ばずに言えば、ヘンテコで希少な企業形態であることを痛感する。数年間で数千億円の企業価値評価に達するためには、ものすごい勢いで事業と組織を拡大させなくてはいけない。
そのためには営業利益を再投資して地道に事業拡大をしていたのではとても間に合わない。(涙)
かといって、まだ事業が育っていずキャッシュフローが生まれていない段階の企業も多く、この状態では銀行借り入れ(デット・ファイナンス)は無理である。スタートアップは多産多死の世界。数十億と資金調達した企業すら、ある日、倒産を迎えることもある。超低金利時代に、銀行も1%とかそこらの金利で、そんな高いリスクを取るわけにはいかないのだ。
かくしてスタートアップ起業家たちは、エクイティ・ファイナンスという自らの株式と引き換えに巨額の資金をベンチャーキャピタルなどから調達し、資金を元手に人材を採用し組織を急拡大し赤字を垂れ流しながらも成長拡大路線という名の「引き返せない道」を猛ダッシュすることになる。

スタートアップ起業とは崖の上から飛び降りながら飛行機をつくる仕事

米国のキャリアSNS運営企業リンクトインの創業者リード・ホフマン氏は「スタートアップとは崖の上から飛び降りながら飛行機をつくるようなものだ」と言った。銀行残高のキャッシュが尽きたら終わりであるが、これは飛行機が地面に激突する瞬間であり倒産を意味する。墜落前に新たな資金調達ができれば地面までの距離が延びる。
事業が軌道にのれば、その組み立てた飛行機で大空に舞い上がることができる。正気の沙汰とも思えないが、人生の縮図とも言える。
今、もしそのスタートアップがつぶれていないのならば、そのスタートアップは死んでいない。ならば、精一杯をするだけだ。「生きている」を謳歌しよう!

しかし、生きている間も、刻一刻と地面は近づいてくる。私たちは落下しているのだ。激突して死ぬ前に素晴らしい価値ある事業を作り上げるか、資金調達をして墜落までの時間を稼がなくてはならない。
ファイナンスは命綱であり、かつ、スタートアップの成功にとって、非常に重要なことだとわかっていただけるのではないか。

ファイナンスは命綱である

ここで、1つの問いである。
「あなたが仮に墜落したら死んでしまう状態だとして、命綱を他人に預けますか?」という問いである。スタートアップCEOが、ファイナンスをCFOに”丸投げ”するというのは、それと同義である。
エクイティ・ファイナンスの知識は、世の中の99.9%の人は死ぬまで一切使わない、不要な知識であるから学校では教えてくれない。しかし、スタートアップをやり、外部資金調達をするならば、絶対、勉強しなくては「死に至る」かもしれないので、特にCEOなら必死に勉強する必要がある。幸い、日本のスタートアップ・エコシステムも、だいぶ大きくなってきたので知見を整理した良書なども出版されている。
本というのは時間コスパは悪いが、費用コスパは恐ろしく良い。
その道で最も詳しい人の知見が体系的にまとめられており、数千円で手に入るのだ。これを読まない手はない。私が起業家に「何かお勧めの本はありますか?」と聞かれたら、必ず推薦しているのは以下の3冊だ。

磯崎さんは、この前にも黄色い表紙の本と赤い表紙の本を出していて、私は6年前、WAmazingを創業する前に、この「黄色本」「赤色本」を読んだ。今回、改訂されて「青色本」が出たので、これもすぐ予約して発売日初日に入手した。それぐらいスタートアップ・ファイナンスの手法は日進月歩なので、学び続ける必要がある。
磯崎さんの本は、読み物としての面白さもあるし、エクイティファイナンスの本質、スタートアップ経営の本質を知ることもできるので、とにかく買って、わからない単語はググって調べながらも、何度でも読みましょう。

こちらは、より入門的に、事業計画の作り方なども含めて書いてある。読み物としての面白さはあまりないが、教科書的な存在として有用だと思う。
私も、もちろん購入して読んだ。

そして最後に、朝倉さんの本。こちらはPL脳からの脱却を説き、BS脳になると、どんな風に企業は成長できるのか、ということをわかりやすく説明している。漫画も交えてかみ砕いて説明しているし、漫画に登場する人たちはスタートアップではなく、より一般的な中小企業の人たちなので、より理解がしやすいだろう。おすすめである。
朝倉さんはWAmazingの経営アドバイザーでもある。もう7年前ぐらいだろうか…私は初めて朝倉さんと対面で会う機会があり、そのずいぶん前から「なんと頭の良い人だろう」と憧れていたので、「はじめまして!ファンなんです!」とご挨拶させてもらった。そしてWAmazingを起業する時、お願いして経営アドバイザーになってもらったのだ。

ファイナンスはスタートアップ起業の成否をわける

ファイナンスは命綱なだけではない。スタートアップ起業が成功するかどうか、そんな運命も握っているのだ。日本で一番成功したスタートアップ企業は今のところ「メルカリ」だろう。上場時時価総額は約6000億円だった。1000億以上の企業価値を持つ未上場企業を「ユニコーン企業」と呼ぶわけだから、なんと、メルカリの上場は、「ユニコーン6頭だての馬車」である。すごい!ひひーん!!
しかし実は「メルカリ」はフリマアプリの第一人者ではない。
日本での初めてのフリマアプリは、株式会社Fablicが運営していた「フリル」というアプリである。2012年7月27日にiOS向けアプリケーションがリリースされ、それが日本国内では初めてのフリマアプリだった。株式会社Fablicを創業した堀井さん(CEO)は、「最初から資金調達をしなかったのは売上あがっていたので、資金調達の必要性をあまり感じなかったということと、ファイナンスして赤字ほってでも、どんどん売上を伸ばすというのには、初めての起業だったからこそ、恐怖感もあった。」と後に語っている。
…そして約1年後の、2013年7月に「メルカリ」がiOS向け、Android向けに同じフリマアプリを出すのである。「メルカリ」はCEOは山田さん、CFOは小泉さん、と2人とも起業が初めてではない、いわゆる「連続起業家(シリアルアントレプレナー)」であった。エクイティファイナンスという、スタートアップのゲームルールを知り尽くしていたのである。
そこから「フリル」と「メルカリ」は競合サービスとして戦うことになるが、先行してサービスをしていたフリルは楽天にM&AExitとなり、メルカリはユニコーン6頭だての馬車でIPOすることになる。
EXITには貴賤なし、であり、M&AがIPOに比べて劣るということはない。どちらも立派なEXITである。しかし時価総額から見るとやはりこの勝負はメルカリに軍配が上がったと言わざるを得ない。
その成否を分けたのは、やはり「ファイナンス」であった。

スタートアップの成否に責任を持つのは、やはりCEOである。だから、やはりCEOはファイナンスをCFOに丸投げしてはならない。

スタートアップ起業家はとにかくファイナンスを勉強しよう

繰り返しになるが特に「エクイティ・ファイナンス」の知識は世の中の人の99.9%にとって関係のない話だから、学校では教えてくれない。だから、最初に知らない、わからない、のは当たり前である。
だから、起業家は勉強しなくてはならない。「私、そんなの習ったことないからぁ」という言い訳が通じるのは中学生までである。私も中学生時代にテストに習った範囲外の問題が出た時は先生に「せんせぇー!!これ、習ってませ~ん!!」とナメた文句を言っていた。もっといえば大学時代、竹中平蔵先生の「マクロ経済」は「C」を取ったし「企業と会計」も「C」だった。
(私の出身大学、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの環境情報学部と総合政策学部では成績はA,B,C,Dの四段階。つまり「C」というのは「授業には出てたみたいだけど、全然わかってないね?ちみ??」というのを意味する。ちなみに「D」は単位を落としたということである。)
だから、今、起業する人が、今「わからない」のは全くもって問題ではない。大切なのは「今から」だ、「ここからの未来」だ。
そんな気持ちを込めて以下コラムを書いた。

私は新卒から18年以上、大企業の会社員だったのでファイナンス知識はゼロだった。資金調達前の企業価値をプレバリュー、調達後をポストバリューと呼ぶが起業当初、私は「右も左もわからない」をもじって「前(プレ)も後ろ(ポスト)もわからない」という冗談を思いついて一人悦に入っていたほどだ。本を読み、わからない単語は検索し、セミナーでは最前列に座って登壇者の一言一句をメモに取り見返して復習し、生の情報を起業家仲間と飲みの場で交換しながら過去3回の資金調達をした。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC201ML0Q2A720C2000000/

スタートアップの資金調達は二極化が進んでいる

冒頭の政府がスタートアップの数を10倍に増やすというニュースにさらに追加ニュースが出た。

スタートアップの数を10倍に増やすというのではなく、スタートアップ企業への投資額を5年に10倍に増やすということだった。これは朗報だ。単に中小零細企業が量産されても日本経済へのインパクトは少ない。政府が生み出したいのは、米国のGAFAMのような、中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のような企業なのだろう。それにはファイナンスの力が必要だ。
では、投資額が10倍になれば、起業家の資金調達はラクになるのだろうか。
答えは「否」。
最近の傾向ではスタートアップの資金調達が二極化している。

NewsPicksオリジナル記事「【意外】スタートアップ投資、堅調な理由を徹底分析」より

資金調達総額は緑色の棒グラフで、右肩上がりで増え続けている。(2022年はまだ上半期のみの数値なので、倍にすると2021年を超える)
しかし資金調達ができたスタートアップの企業数のほうは2018年をピークに、右肩下がりになっている。
これは、どういうことかと言うと、「資金調達ができない企業は頑張っても調達できなくなってきている。資金調達できる企業に流れ込む資金が大規模化している」ということだ。スタートアップ企業選別の時代だ。

おわりに

よく経営者は孤独、だと言われる。スタートアップ企業はヘンテコな無理ゲー形態だから、なおさらだ。
だからこそ、私は仲間が欲しい。崖から飛び降りながら飛行機を組み立てる仲間が欲しいのだ。スタートアップ起業家には是非ファイナンスを勉強して、一緒にビジョン達成を目指して切磋琢磨する仲間になってほしい。ただそれだけが、5000文字オーバーのnoteを書く理由です。w
(今回も長くてすみません…)



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