必ずしも転職する必要は無いよ、というお話
Querie.meにて下記のようなご質問を頂きました。
私からの回答としては「特に現状に不満がないなら不要です」というものなのですが、人材業界の転職を煽る広告戦略も活況であるため、なんとなく焦りを感じてしまうというのも分からなくはありません。今回は転職をするべきかどうかの意思決定について焦点を当ててお話をしていきます。
なぜ「転職をしなければいけないような気がする」のか
まず転職をしなければいけないような気がする理由について、その背景情報を整理していきます。
第二新卒紹介事業による「取りあえず3年」に対する煽り
第二新卒の定義はエンジニアバブル下では20代だったのですが、現在は卒業後1-2年を指すことが多いです。
世の中には第二新卒専門の転職エージェントが数多く存在します。フリーターを選択した方を正社員化する機能もありますが、それだけだと売上が限定的なため、普通に転職した方について第二新卒枠で転職して貰う必要があります。「まずは3年」「石の上にも3年」を守られてしまうと第二新卒ではなくなってしまうため、「3年を待たなくても転職してOK」と謳う必要があります。
人材事業による転職潜在層に対する煽り
第二新卒に限らず、中途人材紹介の多くは成果報酬型であるため、人材の流動化が進むほど商機に繋がります。
そのため、下記のようなアプローチが生まれます。
転職で年収100万円アップ
フルリモートワークがしたければ転職
人間関係が嫌なら転職
転職でキャリアアップ
3年で転職、転石苔むさず
キャリアの健康診断みたいなもので人材紹介会社に登録
これらに対して下記のような現状があります。
転職で年収100万円アップ
レアケース
現職が相場より低い場合は上がる
入社後の評価が厳しく、ボーナスで下がる(トラブルになりやすい)
フルリモートワークがしたければ転職
訴求要素がないスタートアップには存在
いつまでフルリモートできるかは言ってない
人間関係が嫌なら転職
次の組織が人が良い保証はない
会社の雰囲気は1-3ヶ月で悪化できる
まずは現職で異動を考えるべき
転職でキャリアアップ
何故社内の人を差し置いて、実績のない人に任せるのかを考えよう
3年で転職、転石苔むさず
何回も転職させると都度人材紹介フィーが入る
キャリアの健康診断みたいなもので人材紹介会社に登録
何を言ってるんだ
心ない人材紹介の場合、回転数を上げることにご執心なので、全く個人のキャリアに寄り添っていないところが多く見られます。
どこにも転職できなくなった、味のしなくなった人材は「そっと」しておかれます。こういう話をすると、そこまで転職を繰り返した人材なので業界で責任取れば?とも言われるのですが、本当に非正規に誘導していたりするので何とも言えません。本当にキャリアに困った人に向き合える人材紹介会社が一社でも増えて欲しいものです。(そういうトライを4月から実施してみます。)
本当に転職をした方が良い人は「早期退職が求められた際に行く当てに困る人」
差し迫って転職する必要があるパターンがこちらです。役職定年が言い渡されたり、早期退職が求められたりした際に、転職先が見つかりにくい人です。
近年日本国内でもレイオフや整理解雇の話が増加していますし、私の周りでも確認されています。また、日系大企業については株価高騰と物価上昇を踏まえて基本給の見直しが入っていますが、セットで早期退職を募ることで雇用人員の適正化を進めているという話が出ています。
早期退職などは退職パッケージを提示しつつ募集するわけですが、申込期限が短いため次の転職先を見つける暇はありません。時折お会いするのですが「退職パッケージが魅力的だったので飛びついたものの、まったく転職が見つからないまま数カ月〜1年が経過」という方が居られます。こうした事態は回避したいところです。
目安として、毎日の業務が定型で代り映えしないと感じたら黄色信号です。給与の方がアウトプットより高くなる40代中盤以上で早期退職などの対象になりやすいです。
平穏なうちに整理しておくと楽なポイント
セーフティーネットのような顔をして非正規雇用が待ち受けているのが現在の社会です。日頃から次のようなキャリアに向けた備えを意識しておくことをお勧めします。
信頼のおけるキャリアアドバイザーやメンターと仲良くなっておく
顔を見るなり自社で転職を進めるような人は論外ですが、市況感をアドバイスしてくれる方と繋がっておくことは役立ちます。
いくらあったら足りるのかという希望給与の試算
エンジニアバブル下では外資IT、コンサル、スタートアップ、大手SaaSがこぞって提示給与を吊り上げたため、オークションのようなことになっていました。
2024年3月現在はそのような事象が発生していないので、多くの場合は微増、据え置き、微減、大幅減のいずれかの着地になります。
稀に給与が良いポジションもありますが、「無茶苦茶炎上しているPJにアサインされる一人PMO」のようなものが出てきます。男塾のような超展開な話が時折入荷します。
健やかな転職先に給与増で入社できるケースが少ないため、「どの程度あれば暮らせるか」という保守的な試算はしておくと良いでしょう。家族と話し合っておくのもお勧めです。
何のために働くのかという言語化
エンジニアバブル下において、転職序盤では会社選びの軸について「事業の方向性です!」「社会貢献です!」と言っていた人たちも、現年収1.25倍を提示された頃合いから、「提示年収」で意思決定するようになっていました。
今はそのような高額提示はほぼありません。そのため(整理解雇のような差し迫った状態ではない)平穏な際の転職は背中を押される要素が少なく、意思決定がしにくくなりました。
時間をかけて転職活動をする割には「現職で良いか」と戻っていく方が多いです。現職残留は別に良いのですが、予め「何のために働くのか」を言語化し、優先順位をつけておくとスムーズです。
同様に、「どうしても苦痛を感じる業務」も言語化しておくと、健やかに働くことができる環境を探しやすいのでお勧めです。
自社に異動の余白はあるかどうかの確認
やりたいことができた、人間関係が厳しいというような状態の場合、無理に転職をしなくても、人間関係や業務の適正などは異動で解決ができることが多いです。自社に異動ができるような余白があるかは確認しましょう。
シード期スタートアップにはまず無いです。本題からはズレますがこの点からも企業選びで迷ったら大きな会社に行った方が良いです。
将来的なリファラルを狙い、社内外に人脈を作り、認知を進める
ここのところ痛感していることではあるのですが、日々中途採用に向き合っていたり、人材業界に能動的にコミットしているような人でない限りは「どうすれば転職の時により満足のいく立ち回りができるのか」ということに興味は持たないものです。緊急性の高い整理解雇や早期退職になったときに慌ててTVCMで見た人材紹介に登録するものですね。
しかし残念ながら現状の人材紹介会社は下記のような傾向が強いところが多いです。
年収レンジが400-500万円に納まる20代のジュニア層
年収レンジが800万円以上が期待できる決定単価の高いシニア層
決まりにくければ「そっとする」
転職の理想形はリファラルです。いつでも声がかかるように友人知人の輪を育てつつ、自身が何屋でありどういった話題であれば依頼して良さそうなのかをその輪の中で拡げておく必要があります。長期的な施策にはなりますが、いざというときに育てておきましょう。私も弊社の取引の8割程度が友人知人紹介経由で受注しています。