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人生も、マーケティングも、迷ったときは「変化が大きい方」を選ぶ

20年ほど前の話である。

ある日リクルーティング企業のコンサルタントからメールが届いた。ある企業のあるポジションに応募しないか、という誘いだった。

その当時、筆者は新卒の頃から行きたかった会社に3度目のチャレンジでようやく入り、成果も出だした頃だった。いわゆる部下はいなかったが、プロジェクトリーダーとしての日々は忙しくも楽しく、今考えても充実していた。

一方で

・将来的にはこんな仕事がしたい(具体的にはいずれ流通のマーケティング部門の責任者になり、そのチェーンのお客様の購買経験をスクラッチから設計したいと思っていた)

とか、

・そのためにはこんな経験を積まなければ(具体的にはマーケティング視点から店頭作りに関わることや、自分自身のチーム、それも大きなチームを持って人のマネジメントの経験を積む、などであった)

などという課題意識が芽生えてきてもいた。
コンサルタント氏が提示してくれたポジションは、まさに「こんな経験」ができそうなものだった。ので筆者は、とりあえずやってみよう、くらいの軽い気持ちで応募し、面接に進んだ。

面接などでの相性もよく、程なくして内定が出た。
年収も20%くらい上がる模様。
筆者を採用したい、というシグナルを出してくれているように、当時は感じた。

自分自身で相当迷った後、転職しようと決めて、上司に辞意を伝えるための時間をもらった。

すると上司は、待遇もチームもできるだけのことをするから、翻意できないか、と打診してくれた。

一度決まったはずの意思が揺らぎ、また迷いモードになった。
なにしろ、学生の頃からずっと憧れ、入りたかった会社である。今回の転職で得られることのうち、ここでもかなりのことが達成できるのなら、その方が良いのでないか?

悩み悩んだ筆者は、新卒の頃からお世話になっている広告代理店の方に相談してみた。駆け出しの筆者に対して、彼は50すぎのベテランで、まさに人生の佳き先輩として、仕事や遊び多岐にわたり、いろいろなことを教えていただいていた。

「迷っているなら、変化の振れ幅が大きい方を選んだ方がいいよ」

これが彼のアドバイスだった。
筆者は衝撃を受け、これを受ける形で、転職することを選択し、そしてこの言葉は以降の人生訓となった。

行動経済学で扱われるバイアスの一つに、現状維持がある。
これは、見慣れた環境や、使い慣れたモノに馴染みの感覚が発生し、合理性を超えてそれらを維持しようとしてしまう傾向のことで、人が人である限りは、無考え・直感的に判断していると、このバイアスにより最善の選択ができなくなることがままある。現状を形作るのに、時間や資金などのリソースが投入されていると、その投資を回収したい気持ちから変化を拒みたくなることもある。サンクコストに拘泥していまう、というやつだ。

当時筆者は、まだ行動経済学を知らなかったが、先輩のこのアドバイスは、これらの自分の中にバイアスが存在することに気づかせてくれた。そしてそれらに立ち向かう技術を筆者に与えてもくれた。

さらに。

これは多分に精神論的なことであり、論理的な根拠を示すのは難しいが、転職にしろ、その他の意思決定にしろ、人の前に現れる選択肢というのは、その人が持っている実力の合わせ鏡なのではないだろうか?

チームマネジメントの経験のない人に「社長をやってみませんか」という誘いはまずかからないだろうし、マーケティングをやった経験のない人にマーケティング責任者への就任を請うこともまずない。

であるならば、せめて現れた選択肢のうちで、最も振れ幅は大きいものを選び、経験の幅を広げる、ということを積極的にやっていかないと、限られた人生の中で自分の可能性を最大化することはおぼつかないように思われる。

そのような考え方から「迷ったときは、変化が大きい方を選ぶ」は、自身の拠り所にするだけではなく、他者からアドバイスを求められた時、頻繁に送る言葉として、筆者の中で生き続けている。

また、筆者が仕事とするマーケティング業務の中でも、このアドバイスは活きている。
マーケティングの仕事のうち、重要なものの一つに、顧客コミュニケーションの設計・実施がある。これにあたっては、コミュニケーションのアイデアや表現に工夫を凝らし、インパクトを持った形でメディアやSNSの中で話題となることにより、広く、効率よくお客様に伝えていく、ということが求められる。

マーケティング部門責任者は、このアイデア・表現作りの意思決定者である。そして決定する局面では、得てして3つくらいのアイデアが並べられ、どれかを選択するようなやり方がされることが多い。

この時に、無意識・何の気なしに選ぶと、
・自社の成功事例の踏襲・焼き直し
・そこまではいかないが、どこかで見たことがあり、馴染みがあるもの
をつい選んでしまいがちになる。

また見たことがあるアプローチは、ネガティブチェック・ストレステストを経ていることが多く、安心して採択できる。

が、いうまでもなく、2番煎じなアイデアにはインパクトなどない。インパクトの源泉は「こうくるか!」という驚きであるからだ。一度見たことあるものによりもたらされる驚きは限定的だ。

ので、筆者はアイデアを創るとき、選ぶときは、お客様に一番驚いていただける選択肢に辿り着くために、「このアイデアは自社・競合の既存施策から、どれくらい違っているか」という見方で臨むことが多い。

アイデアを選ぶ局面が多い方には、ぜひこの問いを自問自答されることをお勧めする次第である。

念のために。上記は、マーケティングコミュニケーションでは、闇雲に何でもかんでも変えた方がいい、ということではない。
変えない要素も設定してこそ、初めて効率の良い(一目見てXXのメッセージだとわかる、とか)のコミュニケーションが作れる、という側面も当然あり、変えた方がいいことと、変えない方がいいことは存在する。

それを詳細していくとかなりの紙面を割くので本稿からは割愛するが、ご興味の向きはメッセージなどで筆者にご連絡ください。

以上、今回はCOMEMOのお題に乗っかって、自分の「仕事の心がけ」を記してみた。
読者各位は、どのような心がけをしておられるだろうか?


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