定年後のキャリアの準備をいつ始めるか?
定年後の人生が30年以上ある
1990年代、100歳まで生きることは珍しく、長寿の良いこととされてきた。当時、100歳を超える双子姉妹のきんさんとぎんさんがメディアによく取り上げられていたのを覚えている人も多いだろう。それから20数年、100歳を超える高齢者の数は急増している。2020年には100歳以上の高齢者が8万人を突破したとニュースが流れたかと思えば、わずか2年後の2022年には9万人を超えてしまった。医療技術の発展と健康寿命の延伸を考えると、この人数はこれからも増えていくことだろう。
今、100歳を超える方々が働いていたときは、55歳定年から60歳定年に変わろうとしていた時代だ。そうすると、人生の約4割を老後として過ごしてきたことになる。
現在は、定年を65歳まで引き上げ、70歳まではこのまま伸びるだろうと言われている。また、定年後再雇用で働き続けるケースも増えてきた。そのような中、従業員ではなく、業務委託のフリーランスとしてシニア人材を活用しようという動きもみられる。
たとえ70歳まで働いたとしても、それから30年間も老後が待っているのは長い。55歳定年のころは70歳前後が平均寿命として考えられてきたし、10年前までは80歳前後が平均寿命だとおもって60歳定年だと思っていた。老後は長くても20年で、10~15年ほどで終わると思っていた。それが、30年以上、ときには40年という長い老後が現実味を帯びている。
キャリアデザインでシニアという枠は考えないほうが良い
いくら年金があるとはいえ、30年以上の老後を賄うには国の財政にも無理があるし、個人の貯蓄で賄うのも難しい。不動産所得があったとしても、退職時に立てた新築アパートも築年数がたつと価値が下落する。それに資産運用ができるほど収入に余裕がある家庭ばかりではない。
そうなってくると、年齢で一律で定年を決めるという考え方をもとにキャリアを考えることにリスクがあるとわかる。高齢化社会が進むと、働かない高齢者を養うための原資がどこにもなくなる。つまり、年齢に関係なく、働けるのであれば働き続けることが期待されるようになる。
そういうと年をとっても若者と交じって働き続けなくてはならず、厳しいようにも聞こえるが、そうではない。年齢に関係なく、自らの市場価値を意識することが求められ、シニア人材を特別なものと考えるのではなく、それまでのキャリアと地続きで考えることになる。
自分の市場価値を自らデザインするのではなく、会社から業務にアサインされることで市場価値を作るような受け身の姿勢では、どうしても年齢で価値が低減したり、雇用を保証し続けることができないと判断せざるを得ない。自分のキャリアは自分で作り上げ、自らの市場価値を高め続けることが重要になる。
アメリカには定年がないというが、同様にイギリスやカナダなどのアングロサクソン系の国では定年制を認めていない傾向にある。これは個人主義が強く、自分のキャリアの責任は自分で持つものだという考え方が強い文化的背景がある。アメリカほど強い個人主義ではなくても、日本も似たような意思決定を下すことになるだろう。
そうなったとき、働くひとびとは自分の市場価値を考えながら、人生の節目節目でキャリアデザインをすることになる。そうすると、シニアというのはいくつもある人生の節目の1つでしかなくなる。
定年後のことを考えて、シニア人材はキャリアの準備をしなくてはならないという言説を多くの場で見聞きする。シニア人材向けのリスキリングやアンラーニングの研修やセミナーは日本全国で盛んだ。しかし、そもそも、若い時から自らのキャリアを自律的にデザインしてきたならば、シニアだからと特別な準備は必要がない。今はそうではない人が多数のため、対処療法的な手段が必要なこともわかるが、大切なことは年齢に関係なく、自律的にキャリアをデザインできる能力と考え方、働く環境を整えることが肝要だと言えよう。
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