恒例“イタリア国債リスク増大”劇場の幕開け

同じ轍を踏む―イタリアは財政赤字に関する欧州の取決めを何度も破り、その度にEUからダメだしを食らってきた。同じことを繰り返すわけだから、普通は“だめ”なのだが、しかし、それをきっかけにイタリア国債は売られ、価格が安くなる。そのたびに投資家にとっては投資機会を作ってくれるとなれば、それはそれで有難い“イタリア国債リスク増大”劇場の幕開けなのである。

先ごろの欧州議会選挙の結果がイタリアの国内政治に迅速かつ大幅に影響を及ぼしている。いまや反EUの旗手の感がある「同盟」のサルヴィーニ党首が、欧州議会選挙における隆盛に力を得て国内で繰り上げ総選挙を企図し、その選挙キャンペーンの一環としてEUの財政赤字ルールに対する反抗をアピールする可能性が大きくなっている。

6月5日に欧州委員会は、イタリアがEU財政規律に違反しているという報告書に基づき、「過剰財政赤字是正手続き(EDP)を開始すべき」という結論に達した。昨年11月には、イタリア政府が提出した赤字削減計画を受けて手続き開始は見送られたが、今回の報告書によるとイタリアはその計画を遵守していない。財政計画を是正しない場合の制裁金は対GDP比で0.2%、最大で0.5%となる(もっとも、この適用を受けたEU加盟国はかつてない)。

だが、EDPの手続きは相当な時間を要することもあり、この制裁金という威嚇手段はさほど効果を持たないだろう。というのも、むしろサルヴィーニ氏としては「この財政赤字是正手続きそのものを改革すべき」という主張を、次回総選挙キャンペーンを意識した政策綱領として持ち上げるだろうからだ。むしろEUを刺激するような発言さえ同氏から出る可能性がある。

一方で欧州議会選挙を終えたEUでは、11月に委員長が交代する欧州委員会を始め、主要機関の要職人事を準備する時期にあるため動きが取りにくく、型通りの「ルール違反はいけない」という主張を繰り返すしかない、という面もある。規則上の予定としては、6月5日の報告書提出後2週間以内に「経済金融委員会」が意見書を作成して欧州委員会に提出する。欧州委員会が過剰赤字を認識すると、今度はEU理事会が対象国に勧告を行う。この勧告に従っているかを判断する上で、3-6カ月の猶予期間が与えられる。

経済金融委員会は、各国政府の行政担当、中銀およびECB、欧州委員会などのスタッフから構成される。EU主要機関の要職人事が確定していない中で、イタリア政府のルール順守違反に対して強硬な姿勢で臨むことができるだろうか。むしろ、政治的な配慮が働くとするなら、イタリアで繰り上げ総選挙が行われ、新政権がキャンペーン中よりマイルドな対EU姿勢を採用するまで待つという戦略を採用する可能性さえある。

以上からすると、この赤字是正問題が何らかの解決を見るには数カ月を要し、その間は不透明感が存続するということになる。2018年後半から200-300bpを中心レンジとしてきたイタリア10年債の対ドイツ国債スプレッドはレンジ上限を試してもおかしくないということになる。

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