チリで激化する暴動から学ぶべきこと
毎年冬が近づくと、国連気候変動枠組条約締約国会合(←長いですよね・・)の季節だな、と思います。いわゆる「COP」と呼ばれる会議で、気候変動問題に関する国際交渉の場です。この会議は、毎年開催することが条約で義務付けられています。(気候変動枠組み条約の和訳はこちら。第7条4項参照)
西欧でやった翌年はアフリカ、その次は東欧、南米、といった具合に、毎年開催場所を変えながら12月頃に2週間開催(これまでの開催実績などはこちら)されるのです。今年は南米のチリがホストして12月に開催される予定でした。
それが、昨晩突然、チリ政府がホスト役を果たすことができないと宣言したのです。日本時間の10月31日深夜2時ころに、国連の事務局からチリが今年のCOPをホストすることを断念したことを正式に知らせ、次のステップが決まり次第連絡する、というメールが届いていました。
場所を変更するとすれば国連気候変動枠組み条約事務局が置かれているドイツ・ボンになるでしょうが、予定されていた開催時期は既に1か月半後に迫っており、場所だけ変更して予定通り決行するというのも難しい話でしょう。とは言え、時期をずらす調整が難しいことも容易に想像がつきます。それに条約の条文を杓子定規に解釈すれば、1年に1回開催すべき会議を開かないというのは許されない、ということになります。
会議参加のために飛行機もホテルも抑え日程も空けていた立場からすれば、早く方針を示してほしいと望むばかりですが、ただ、毎年数万という参加者を集めて、延々と本質的とは言い難い議論に莫大な労力と時間が割かれているのも確かです。これを機に、できるだけ文書でのステートメント提出を徹底したり、Skype会議を導入するなど、「温暖化問題を議論しに集まるために、多くの温室効果ガスをまき散らす」といった皮肉な状況を解消するようにしてほしいと思います。
さらに、もともとは非常に治安も良く安定した政治状況であるとされていたチリがなぜCOP開催を断念するまでの状況になったか、ということも改めて認識する必要があると思います。
今回のチリの暴動の直接的な原因は、首都サンチアゴの地下鉄運賃引き上げだと報じられています(チリの暴動を伝えるAFP通信の記事はこちら)。ただ、背景の一つとして見逃せないのが、電力価格の上昇であり、その電力価格上昇をもたらしている原因の一つが再エネ導入や炭素税などのコスト負担がある、ということを指摘している方もおられます。(「イエローベストと同じように高価な温暖化対策がチリ暴動を引き起こした」という米国の研究者の記事を含めて、本件を網羅的に書かれた東京大学公共政策大学院有馬教授の論考はこちら)
エネルギーという究極の生活必需品のコストが上昇すれば、特に低所得世帯の生活を直撃します。再エネ導入にかかるコストや炭素税についての負担の在り方をもう少し丁寧にすれば避けられたのかもしれません。
それに、温室効果ガスという、環境に負荷をかける物質を排出するのであればそれ相応のコストを負担する(いわゆる外部不経済の内部化)、というのは当然といえば当然です。
ただ、あまりに過度な負担を求めても、政策の持続可能性が維持できなくなります。昨年フランスでイエローベスト運動が過激化した際に、ちょうど同じ時期にポーランドで開催されていた国連気候変動枠組み条約締約国会合(COP24)を皮肉って、「世界のエリートたちは50年後100年後の地球の話をするが、我々は来週のガソリン代の支払いを心配する」と言われたように、「地球の危機なんだからコストは度外視すべき」では、持続可能な活動になりづらい訳です。
気候変動問題に対する待ったなしの取り組みを求めて抗議活動をしている若者たちにとってみれば、会議開催すらできないというのは怒りを通り越してあきれるといった事態であろうかと思います。でも、なぜそうなったのかという背景も見てみる必要があるでしょう。
そして、来年の東京オリンピックにおけるマラソンと競歩の開催場所はどうなるんでしょうねぇ。。
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