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地方スーパーを題材に、パーパスとポジショニングの関係を考える


少し前、ある地方のスーパーマーケットで、(主に)マーケティング分野の支援をしていた時の話である。

そのチェーンは、

「地元のお客様に、そのチェーンならではの、高品質な商品をお届けするための目利きになる」(その通り書くと、どこのチェーンか特定できてしまうので、かなり意訳して記しています。これ以降も何箇所かで特定を避けるために事実とは異なる記述をしている部分がありますが、ご了解いただければと思います。)

といったようなことを「私たちの誓い」、今ふうにいうとパーパスとして掲げているが、ここ数年客数が落ち続けており、何かテコ入れが必要なように思われた。

そこで筆者は、そのチェーンの店舗数店と、競合店舗を案内してもらい、じっくりと観察してみた。

結果、そのチェーンのお店は、ツッコミどころがかなりあった。
例えば

・品切れが多い(その日の売り上げ機会損失になるだけではなく、機会損失ベースの売り上げを元に発注するので、だんだん発注量が先細りになる)
・言っているほど高品質な商品を品揃えしている感じがしない

などなど。
その中でも、最もまずく感じられたのは、価格がかなり高く感じられたことだ。
感覚的には、競合と比べて10−20%くらいは高く感じる。

しかし、印象だけで判断するのは危険である。
そこで、そのチェーンで営業企画を担当している方と一緒に、
・ユーザーへの聞き取り調査
・バスケットに上位頻出するアイテムの競合価格比較
を実施してみた。

すると、果たして上位品目の価格差は15%程度あり、かつ聞き取り調査の内容はかなり痛いものだった。いわく
・価格が高いから行かない
・XX(競合)と比べて高すぎる。私は行かない
などなど、顧客がこのチェーンを選ばない理由として、価格を挙げており、これが続けば客数・買い上げ点数の先細り傾向はさらに続くものと思われた。

そこで筆者は、今度は、商品部(品揃え・棚割り・価格を決める部署)と一緒に、値下げ実験プランを作り、役員会に提案してもらった。
仕入れ努力やコストダウンを実行しながら粗利率も下げて、価格を引き下げる&それをお客様にきちんと告知する(ことにより客数と買い上げ点数を伸ばす)計画である。

程なくして、商品部責任者は役員会でその提言をした。
が、否決された。

その理由は「そのように低い粗利率は容認できない」ということだった。

言うまでもなく、粗利は、売価ー商品原価のことであり、粗利率は、それが売価の何%か、ということである。
ここから販管費を引いたのが、小売の営業利益となる。

低い粗利=薄い儲けという感覚から、一見これは真っ当な否決理由のように思われるが、ことはそう簡単ではない。

これらの記事からもわかるように、価格の優位性は小売の競争において非常に大事な要素である。

店頭価格を十分魅力的な水準にしながら、粗利を高く設定できれば、その企業は売上も利益も享受できる。
だれだってわかる算数であるが、そのためにはメーカーから提供される原価が非常に低く抑えられる必要がある。

だが、販売実績もないのにいきなり大幅な原価交渉に応じてもらうことは困難であり、なので価格優位性を武器とするチェーンは大抵、

(1)そこで企業はまず販管費を抑えて価格を抑える
(2)価格の魅力を顧客に伝え、客数・買い上げ点数を増やし、売り上げを上げる
(3)売上増から上がった実績を背景に原価交渉をする

と言うサイクルを辿る

上のチェーン企業の場合、簡易的な調査ではあったが、実勢価格も、顧客の価格パーセプションも高止まりしている中、粗利率をキープしようと言うのは「価格を下げない」=「来店の最大ハードルを解決しない」と言う宣言にも等しい。

結局その時は、商品部の責任者とともに、会議の出席者一人ひとりと対話をもち、高い粗利率に拘泥することの危うさを説いた結果、当初の施策は晴れて予定通り実行される結果となった。

ところで。

なぜ、小売の専門家たるチェーンストアの幹部が、このように小売の機序を度外視した判断に至ってしまったのだろうか?

それは「地元のお客様に、そのチェーンならではの、高品質な商品をお届けするための目利きになる」と言う誓いにのみ忠実になり、スーパーマーケットとしてどうあるべきか、と言うことを長らく軽視してしまったからではないか、と考える。

もし、このチェーンが、スーパーマーケットでもディスカウントストアでもないこの世で唯一の存在となり、それらと比較されることなく顧客が訪れることを目指し、品揃えやサービスなどの顧客経験もそれをベースに圧倒的にオリジナルなものを設計する、と言うのであれば、価格では勝負せず「地元のお客様に、そのチェーンならではの、高品質な商品をお届けするための目利きになる」と言う誓いをとにかく追求する選択肢もあったのかもしれない。

しかし、このチェーンは、外観も、店舗経験もスーパーマーケットそのものである。チラシも発行している。
顧客は当然他のスーパーと比べるし、比べられるからには、スーパーマーケットとして備えているべき要素がないと、そもそも競争に参加することすらおぼつかない。

ポジショニングを言語化するためのツールとして、

・競合を決める
・Point of Parity(競合に負けてはいけない要素)を決める
・Point of Difference(競合に必ず勝つ差別性)を決める

と言う考え方があるが、そこそこ安い売価を実現することは、まさにスーパーマーケットのPoint of Parityの一つであり、このチェーンが不振だったのは、ここを軽視したのが主原因だった、と筆者は考える。

このチェーン企業の「誓い」=パーパスには、自社が属するカテゴリーであるスーパーマーケットしての必要条件=Point of Parityを満たす、と言う前提条件があった。One and onlyの企業・アイデアでない限りは、これはどんな場合にも共通する教訓になると思う。

読者の皆さんは、どうお考えだろうか?


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