マヨネーズは俺に任せろ!
なにしろたまらなく好きなもので
スティーブ・ジョブスは毎日イッセイミヤケの黒のニットを着ていたわけだけど、世の中には特定のアイテムが好きで好きでたまらない○○ラバーがいますよね。インスタグラムでも毎日のように二郎系ラーメンの写真をアップするジロリアンの皆さんや、ビールグラスをアップするビーラーがいますもんね。
自分も○○ラバーの気があるんじゃないかと思います。さすがに毎日とはいきませんが、喫茶店では必ずハムサンドを頼みます。中華料理店では必ずたまご炒飯を頼みます。イタリアンの店ではあればかならずカチョエぺぺ(黒胡椒とペコリーノチーズのシンプルなスパゲティ。イタリアのTKGですね)を頼みます。フレンチの店ではおなじくウフマヨを頼みます。だから、ちょっと○○ラバーの人たちの気持ちもわからなくはないんです。はい。
今日は、そんな○○ラバーのための企業のPR活動について話を進めたいと思います。
というのも、先週までフランスのカンヌで開催されていた2023年カンヌ・クリエイティビティ・フェスティバルに参加していて、○○ラバー向けのマニアックな仕事に出会ってしまったから。
ちなみに、日経新聞さんも受賞されています!おめでとうございます。
ポテトを食べる時はマヨネーズじゃないとダメ
きました、マヨネーズ! 偏愛ファンがわんさかいる食べ物の筆頭なんじゃないでしょうか? 今年のPR部門で銀賞を受賞したのがイギリスのトップマヨネーズメーカーヘルマンの仕事。マヨラーたちがずっと抱えていた悩みを解決したんです。その悩みとは?フレンチフライと大好きなマヨネーズを一緒に食べられないこと。イギリス最大のハンバーガーチェーンにはマヨネーズのディップがなかったそうなんです。つまりフレンチフライをオーダーしてもマヨが無い!僕はシンプルなソルト派なので、全く問題ないのですが、マヨ好きにとっては大問題なはず。そこで、彼らはオーダーの仕組みをハックする動画を公開し、広めました。それは、そのチェーンでマヨチキンバーガーをカスタマイズオーダーする方法。マヨチキンバーガーからバンスを抜いて、チキンを抜いて、その他の具材も抜いてオーダーすると、なんとマヨネーズだけのオーダーが可能に!5人のインフルエンサーがその方法をインストラクションしたのです。そして、そんなカスタマイズオーダーをした人にはその料金をマヨネーズ会社が負担するキャンペーンも実施したそうです。
マヨネーズ好きなら誰もが一度は思ったであろう悩みに応えたわけですね。いつでもどこでも好きなときにマヨネーズを食べられる世界を作りたいという、「マヨネーズは俺にまかせろ!」というスピリッツを貫いたことが評価されたようで、大仰な大義をイギリスっぽいユーモアを交えて展開しているところが笑えます。
ケチャップ好きだから気付く不条理って
この手の仕事の系譜は脈々とあるんですよね。2022年に同じくPRの銀賞を獲得したアメリカのハインツの仕事は、これまた超ケチャップ好きなら気づくかもしれない不条理を解決すべく、ある運動を起こしたんです。
その問題とは何か? アメリカのスーパーで一般的に売られるウインナーソーセージは10本入りなのに、ホットドックのバンズは8個のセットで売られていること。
いったいどういうこと?
そケチャップ好きなら、ホットドッグは大好物なはず。でも、こんふうにソーセージとバンズが売られていたら、BBQをやるとソーセージが2本余ってしまうんです。これはもったいない!
なんで、ケチャップ好きなら直面するこの課題が解決されないのか? もしかして、ウインナー業界と、パン業界はこの問題の存在自体に気付いていないのか? ケチャップ好き、ホットドッグ好きのことを考えずに商品パッケージを作っているのではないか?(そりゃそうだと思いますが・・・)
そこでアメリカを代表するケチャップメーカーハインツは、この問題を社会に訴えかけ、ソーセージと、バンズの数を合わせよう!という署名運動を開始したのです。アホすぎる・・・!
そして、その訴えを粋に感じたのか、あるソーセージメーカーさんとバンズメーカーさんたちがホットドッグ協定を結び販売数を合わせる契約書にサインしたんです。いやーこの二社、ケチャップ好きには愛されますよね。
こんなことが問題になってるんだよって世の中に訴えかけるだけでも、このケチャップブランド、ケチャップ好きのこと分かってるよなと多くの人に思われるはず。神は細部に宿ると言われますが、ケチャップの神様は微笑んでこの「ホットドッグ協定」を見守ったに違いないはず。
ベーグルに何はさむ?はiPhoneが教えてくれる
PRの仕事は「合意形成」の仕事と言われます。例えば、女性が子育てするのが当たり前だった社会から、男性も育児に参加する世の中が当たり前の世の中だと世の中の多くの人たちが合意するようになっていくとか。
朝はいそがしい時間だとみんなが思っていたけれど、「朝活」とか、学びの時間にもできるということを多くの人たちが合意していくとか。
ベーグルはどう食べるべきなのか?この重要な合意形成を成し遂げたのが、2019年のPRの銀賞受賞作の仕事です。アップルは辞書に絵文字を使っていますよね。iPhoneで「リンゴ」とテキスト入力すればリンゴの絵文字が出てきたり。そんなiOSの辞書ですが、2018年に大きな話題を巻き起こしたんです。当時の辞書で「ベーグル」とテキスト入力するとベーグルそのものの絵が出てきたんです。これ、まったく何の問題もないように思えるのですが、異議をとなえたのはクリームチーズを製造するメーカー・フィラデルフィア。アメリカ人にとってベーグルのイメージはすでにクリームチーズを塗ったものであって、ベーグルそのもののイメージではないと噛みついたんです。そして、iPhoneのベーグルの絵文字クリームチーズ付きのものに差し替えるべきだという署名運動を展開したわけです。
いま、お手持ちのiPhoneで是非「ベーグル」と入力してみてください。ほら、クリームチーズがたっぷり塗られたベーグルの絵文字が表示されるでしょ。それは、この署名運動の成果なんです。
「イクメン」や、「朝活」などの言葉は社会記号といわれ、これらの言葉が普及することで、あたらしい当たり前が世の中に普及していくというある種の証拠になるわけですが、絵文字という領域で社会記号をつくったのがこの仕事といえます。世界中のiPhoneユーザーがベーグルと入力するたびに、チーズをはさんだ絵を見続けることで、ベーグルにはチーズが世界の常識になるんですね。
カチョエぺぺ好きや、ウフマヨ好きのキャンペーンどなたか展開してください!