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武漢封鎖から早1年、コロナ対応の1年を振り返る〜当初から明らかだった課題に向き合わなかった日本政府〜

はじめに

事象の構造と文脈から少し先の未来をシンプルに読み解くことをテーマにnoteや日経COMEMOを書いてきた。特にテーマとして、2020年の世界を揺るがし今も私達の日常生活や経済活動に影響を与え続ける新型コロナウイルスについては、喫緊のテーマとして発生直後から、本当に世の中にあふれる情報から必要な情報を取り出し、構造的に分析し少し先に何が起きるのかの予測をすることが可能なのか自ら試してきた。事態の本格化から1年が経過しようとする今、改めて自分の投稿を振り返り検証したい。

改めて感じるのは、1年前から本質的な課題は変わらないが、政府はこれまで国民に自粛を要請するのみで、有事法制と緊急医療体制の拡充ついては政策を講じてこなかったのではないか、という事だ。

1月 - 中国/WHOの初動の遅れ

1年前の今日1/20、習近平がようやく「重要指示」を出し、新型コロナウイルスに本腰を入れ始めた。早速1/23に中国において武漢市が完全に都市封鎖された。

その当たりから、日本人も新型コロナウイルスの脅威を自分ごととして認識した様に思う。

1/28に政府は感染症法の指定感染症とする閣議決定を行い、感染患者の隔離を可能とする。

1/30から帰国便で日本人が帰国し「ホテル三日月」で2週間の隔離生活を送る。

2名が検査拒否し公共交通機関で勝手に自宅に帰った人がいたことを聞いて驚き、さらにその人達に検査を強制する法的根拠がないと聞き2度驚いた記憶がある。これは後に特措法の問題として明らかになるが、有事においても国家は国民に「お願い」しかできないことを認識した最初の出来事だった。

この1年、コロナ関連のニュースを見すぎたためか、遠い昔のことのようだ。

2021年1月の今、やはり独立調査パネルの調査によって、中国政府の初期対応の遅れが致命的な問題だったことが明らかになっている。

12/8に最初に原因不明の肺炎患者が発病が確認されてからWHOに1/3に報告を行うまでに1ヶ月もかけている。

WHOも1/14にようやく新型コロナを認定したが、その際にも人から人への感染は認めておらず、緊急事態宣言も中国政府に配慮したためか1/24には見送り(1/31にようやくWHOによる緊急事態宣言)。

1/26に武漢市長が既に感染源の武漢市から500万人以上が中国国内と世界各地に移動していると公表した。

世界中を巻き込む長いパンデミックの始まりだった。

2月 - ダイヤモンド・プリンセスからの贈り物とクラスター対策、長い自粛生活の始まり

私は、毎月武漢から日本に2万人以上の渡航者がいること(成田には9000人移動)帰国便の感染者陽性率から、既に感染者が日本に100人以上は入国しており水際対策は手遅れと推定。実際に、中国からの観光客の多い雪まつり後の札幌、大阪のライブハウス等クラスターが2月から発生し始めた。

但し医療崩壊が起きた武漢のような死亡率(2%)にはならず、死者数は私が心配したほどには2月には急増しなかった。

2/3にダイヤモンド・プリンセス号が入港し、大型船で内での集団感染が次々に発生し、国際社会でも対応を巡って注目を集めた。連日の報道で日本人の間で危機意識が一気に高まった。

国際法で公海上の船舶は船籍国が取り締まる「旗国主義」という考え方から本来、日本が感染防止の措置をとる義務はなかったが、人道的見地から感染防止の措置を行った。チャーター便での数百人規模の帰国者の対応で多忙を極めていたなかで(対応にあたった37歳の内閣官房職員が飛び降り自殺している)人権侵害だとか防疫ができてないとか世界から非難され、国内からは貴重な医療資源を海外国籍に人間に割くのか等、様々な国内外の批判があったが、実はあまり知られていない日本にとっての良い点がいくつかあった

ひとつは、国民の危機意識が一気に高まり、この2月からマスクの着用、手洗いの徹底とリモートワーク、イベント自粛が始まり、比較的早くに感染防止行動を国民が取るようになった

もう一つは、ダイヤモンド・プリンセス号の感染者を、集団収容し、徹底的に疫学調査を行ったことができたこと。一説には、自衛隊の優秀な感染症に詳しい医務官がプリンセス号の第一報を聞いた時、横浜港に入港させるように働きかけたと聞く。秘密主義中国からは、新型コロナの情報は得られない、そして欧米の感染拡大はまだというタイミングで、100名以上の患者で徹底した新型コロナ患者の症例研究を行うことができた。

今思えば幸運だったのが、ダイヤモンドプリンセス号で大量発生した患者をまとめて受入れたことで、その患者に対して徹底的に疫学的な様々な検査をし、ウイルスの性格を理解し対策に役に立てることができました。また、既存薬剤の投与効果の検証もできました。例えば、自衛隊病院では受け入れた104例について新型コロナウイルス感染症対応チームが徹底した研究を行いレポートをまとめています。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について」当院におけるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)104症例のまとめ - 自衛隊中央病院感染対処隊診療部
新型コロナウイルス感染症対応チーム一同
チーム長:自衛隊中央病院第2内科部長・感染症内科1等海佐 田村 格

例えば、無症状PCR陽性者が非常に多い、PCR検査よりもCTの方が感度が高く患者を発見できる、(そしてラッキーな事にCTは何故か日本には世界の何倍も存在する)、アビガン等重症化予防薬がいくつか存在する等貴重なデータと知見を取得でき、のちの厚労省のクラスター対策班の戦略に活かすことができた。

2月の自粛期間のなかで、では国民は具体的にどうしたら良いのかについて、自分自身疑問になった時に、高山先生のFacebook等の情報を元に「自宅待機病院にも行かない」ことが大切を書いた。

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「不特性多数の人が集まる狭い場所に行き、そこでものを触った手で顔を触らない」人 x 場所 x 物 で考えると良いと思います。
・人 ....リスク高 不特性多数→不特定少数→特定少数     リスク低
・場所....リスク高 閉鎖空間+長時間→閉鎖空間→通常空間/外 リスク低

映画やパチンコ、など、黙ってマスクして楽しんだりするものはリスク少ないとわかってきたが、飲食特にビュッフェスタイルが危ないことに変わりはない。

この時点で、感染症病床が日本においては圧倒的に少ないことが既に問題視され「医療崩壊」がすぐに訪れることが予見している

2/24までに計30人の感染が確認された道内にある国指定の感染症病床は24医療機関の計94床。(北海道新聞)

また、ここから半年以上ワイドショー中心に盛大に始まるPCR検査についても「ランダムなPCR検査には意味がない」ことも説明している。

要は感染ルートを追って、感染者を隔離するという水際作戦(船、帰国便)には意味があるが、その破綻が明確化し、次の市中感染フェーズに入った現時点においては、ランダムに検査をしても医学的にはあまり意味がない。(むしろ貴重な医療資源の無駄使い?)という判断のようです。

3月 - 欧州株と第1波到来、特措法附則一部改正

3月に入ると欧米で感染拡大がみられるようになり、専門家は年越しの可能性を含めた長期化を口にし始める。

実際年越しの今も世界中で感染が未だ拡大している。

3月、シアトルなどで数10人規模の感染が確認された段階だったが、皆保険がなくコロナはただの風邪だと言い続けて経済を優先してきたアメリカでは感染拡大が必至だろうと想定した。

トランプ政権の感染症研究所のファウチ所長は10ヶ月前の3/30に感染者数は100-200万、死者は10万〜20万人に達すると予言していた。

実際は今、感染者数は2400万人(!)死者は40万人を超えている。(2021/1/20現在)

日本においては比較的、厚労省のクラスター対策が奏功していたためか、2月3月上旬と感染者数、死者数が欧米のような伸びを見せず静かに推移したが、

新たにパンデミックエリアになった欧州からの数万人規模の帰国者による本格的な第1波が訪れる。3/18ようやく政府が欧州からの入国に対し水際対策強化を発表するが、時既に遅く、3月下旬以降感染拡大すると予測した。記事のなかで確率としての有名人の死も発生する事を予測したが、実際に志村けんさんが死亡し、国内に一気に緊張は高まり、120万人に下記の記事が読まれた。

4月 - ついに緊急事態宣言発出でも中身は自粛要請

そして実際に予想したタイミングの4月第2週に緊急事態宣言発出。

但し、欧米でのロックダウンを見ながら私も含めて日本人の多くが知らなかったのが日本においては「国家が緊急事態であるという宣言下」においてすらなんら法的強制力を持ったロックダウンなどの強い措置ができないということ。

この記事にて紹介した様にフランスは、パンデミックが確認された3/16から検討開始してわずか9日間の迅速対応で、2か月間の「公衆衛生に関する緊急事態」を発令した。なぜ日本はこのタイミングで柔軟な臨時法制を行わなえなかったのか。結局、3月16日の新型インフルエンザ特措法の附則の改訂だけしか行わなかったため、発生後1年経った今ようやく、先日の2021/1/18からの国会で特措法の議論をようやく始めている。

今でも飲食店への罰則規定はやりすぎたという人が半数以上という世論調査の結果が結果が今現在でているが、

有事において法的強制力を持たせるためには法制度罰則規定はやむを得ない。その規定がないと法的強制力がない。(それを実際にどこまで厳格運用するか、は別の話。)実際、フランスでもシンガポールでも、マスク着用、外出禁止や店舗閉鎖などに違反した個人や企業は罰金(マスク違反:初犯で300シンガポールドル=約24,000円)がある。シンガポールなどは在留外国人の国外退去も頻繁に起きている。

結果、緊急事態は1ヶ月などでは収束せず2ヶ月はかかった。ただ、この時期の日本人は「まだ見えないパンデミックへの不安」と、「初の緊急事態宣言という緊張感」、「頑張れば短期間で収束させられるという希望」をもとに、自粛要請に従い感染者は収束に向かった。

但し、①どこまで私権の制限に踏み込み強制力をもたせた特措法の改正を行うべきか、②医療崩壊を避けるために緊急医療体制をどのように整備するのか、についての本質的な議論や決断を避け、国民への自粛呼びかけのみで、緊急事態を乗り切ってしまった

この成功体験が現在につながる「後手後手の政府の対応」につながる。

7月 - 第2波到来とFactor Xの議論

感染拡大は一旦収束し、静かな6月を送ったが7月になると経済再開するなかで夏の第2波が訪れる。

そうした中、感染拡大が続く欧米と、拡大が収束している日本を含めたアジア人に100倍近い差があることの理由として、日本人には新型コロナに強いFactor Xが存在するのではないかという論が、経済優先派を中心に起きる。

私個人は当初から、ニューヨーク等の人種の坩堝での感染症例からアジア系に有意な死亡率の差などみられないことから、そのような都合の良い要因はなく、

台湾やニュージーランドと同じ単なる対応の初動の速さの違いではないか、と考えていた。先に触れたようにダイヤモンド・プリンセス号の存在や中国の地理的近さ等から日本は2月上旬から国民が自主的に自粛対応を始め、1ヶ月半対応が遅れ、結果ロックダウン等の強い対応が必要になった欧米との決定的な差を生んだと推定した。

1月初旬にもし第0号患者がほぼ同時期に欧米含む世界各国に発生してたとした場合、
・欧米の様に3月中旬までのこの80日程度積極的な対策を取らなかったか、
・台湾の様に12月31日には国民へ注意喚起、2月6日には中国全土からの入国を禁止までの迅速な対策を取ったか、これらの違いがアジアと欧米の100倍の差を生んだ可能性が数理モデル的にはありうる。
実行再生算数を2.5として100倍の差を生む世代数を計算すると、平均世代時間を4.8日とすると5世代たった24日の差で理論上100倍の差を生む

実際、自然免疫・交差免疫等で集団免疫ができているなどの様々な説が紹介されたが、1年経った現在に至っても有効なFacor Xなど見つかっていない

9月以降 - 菅政権発足、経済優先、噛み合わない官邸と東京都

第2波は夏に収束したが、そうしたなか安倍総理が突然辞任、菅政権が発足した。

当初、実力派の仕事師と見られていた菅新総理は、当然コロナ対策を最優先課題として行うと個人的には思っていた。この収束なくして、オリンピック開催も、衆議院選挙の勝利もありえないからだ。

そして政府官邸、分科会、巨大自治体東京都のコロナ対応における連携の悪さは春から見られていたが、菅総理になったことで、益々ギクシャクするのではと9月当時予想していた。

全く想定外だったのは、菅総理がコロナ対策を甘く見、コロナを放置、GoToなどの経済優先の政権運営に邁進したことだ。

秋冬に風邪が流行るのは誰もが知る毎年周知の事実だ。なので9月の時点で、高い支持率をもとに、抜本的なコロナ対策に乗り出すだろうと期待を含めて見守っていた。しかしながら無症状で感染力のある新型コロナが、旅行や飲食を通じて拡大するのは欧米のケースを見ても明らかだったにも関わらず、GoToキャンペーンを頑なに勧めた。10月のGoToキャンペーンに東京を含めたあたりで、国民の気持ちも緩み当然のように感染は拡大。

秋の第203回国会では、特措法の改正も、秋冬を乗り切るための緊急医療体制の拡充も議論されず、学術会議問題などの対応に終始。

11/25-12/15の勝負の3週間も掛け声に終わり(政府が同時に旅行に、食事に、イベントに行こうと税金投入して促進しているのだ)、一気に年末の感染拡大に至る。

この時点12月中旬に予測したとおりに、12/31に1300人の大台突破。今では東京都で2000人超えていても特に驚かないような日々になっている。

私はニューズウィーク誌で年末12/29に「世界で唯一国民のモラルだけで「戦争」を戦ってきた日本、ついに特措法改正、私権の制限、罰則規定に踏み込む政府」として、春から立法府での議論を放置してきた「特措法」「感染症法」改正の必要を訴えた

また翌12/30にはこれも春から続く「医療崩壊」がなぜ改善されず、国民生活の自粛要請が続くのかについての構造課題についても書いた。

病床が多いのに「医療崩壊」が続くのはコロナ専門病床と人員を確保することなく、一部の専門病院の献身的犠牲のだけに依存し続けたこと。

ようやく最近になって、医療従事者確保と民間病院にインセンティブを設計するようにとの提言を受け公邸で直接受けたようだが、

大木氏はコロナ治療にあたる医師や看護師の報酬を増額すれば医療提供体制を確保できると進言し、首相は「久しぶりに明るい話題を聞いた」と応じたという。

「久しぶりに明るい話題を聞いた」とずれたコメントを今ようやくしている総理に、医療崩壊が起きる構造や、医療資源の再配分の必要と実施にあたっての諸問題について厚労省から情報が正しく上がっているのか、不安になる。

なぜ、政府や国会議員は、危機に応じたプランBを想定できないのか

結局、noteや日経COMEMOで春から指摘してきた内容を振り返っても、

「戦後日本が圧政になると避けてきた私権の制限の問題に踏み込む特措法改正」

「コロナ対応病院が、緊急医療も行う一部に集中しすぐに医療崩壊が起きてしまう問題」

「緊急事態における地方自治体と国との役割分担と財源の問題」

が、日本のコロナ対応の本質課題だった。

本質課題を全く政府で議論し解決せずに国民への自粛要請に頼り、オリンピック開催準備が十分であるとのアピールとバラマキの経済支援対策のみに終止してきた。

医療従事者は治療で患者と向き合い、飲食店やリテールは時短営業の中でなんとか収入と雇用を確保しようとし、会社員は働き方を工夫し、受験生はマスクをしながら勉強し、保育園児ですら同じ方向を向いて黙って給食を食べている。

1/18ようやく国会が開かれ、本日1/20代表質問が始まった。

立憲などの野党が政権の「後手批判」を続けるのは、「第3波」の兆候が見え始めたころから訴えてきた「警鐘」が、政府・与党に無視され続けたことへの憤りがある。旅行需要喚起策「GoToトラベル」の中止や医療機関支援の強化などを再三訴え、昨年12月初旬には事業者支援を盛り込んだコロナ対策の特別措置法改正案を国会に提出。緊急事態宣言の再発令も提案していた。

なぜ、政府は、危機に応じたプランBを想定し、先手先手に想定できないのか。本質的課題に向き合わないのか。世論が騒いでからしか行動できないのか。この1年の政府の対応は何だったのか。

街は緊急事態宣言下にも関わらずマスクをつけた人々が外出し不要不急ではない大切な日常生活を送っている。政府が本来の仕事をせずに、国民の自粛にのみ頼ろうとするステージはとっくに終わっている。

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