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映画「ソウルフル・ワールド」から見るアメリカ社会(マインドフルネス編)

注意:ネタバレあり

「ソウルフル・ワールド」という、昨年12月25日に「Disney+」で配信が始まった映画が話題になっています。ピクサー作品初の黒人主人公やジャズをテーマに扱ったことに加え、子供向けの映画にしては非常に精神的に深いテーマが扱われている点が注目されています。

「人生で最も大切なものは何か」という、怒涛の2020年を生き抜いた人々の心に刺さる題材によって、老若男女問わず楽しめる「マインドフルネス映画」と呼ばれているのはどういう意味なのか、米国での「マインドフルネス」や「セルフケア」のブームを紹介しながら解説します。

「マインドフルネス」とは何か?

「私たちは、今この瞬間を生きているようでいて、実は過去や未来のことを考えて、「心ここにあらず」の状態が多くの時間を占めています。特に、過去の失敗や未来の不安といったネガティブなことほど、考えを占める時間が長くなりがちです。つまり、自分で不安やストレスを増幅させてしまっているのです。こうした心ここにあらずの状態から抜けだし、心を"今"に向けた状態を「マインドフルネス」といいます。」

生産性や効率性ばかりを求められた現代人は生き急ぐことに疑念を抱かなくなり、さらに加速する資本主義社会によって「小さな幸せ」から充足感は得られなくなってしまった。そこでヒンドゥー教や仏教、ヨガや瞑想から着想を得た「マインドフルネス」が近年急速に注目されています。専門知識を必要とせず、「ただそこにいること」に目を向け集中することでセルフコントロールや広い意味での精神的な安定を得られるとして、マインドフルネス関連の様々なセミナー・本・アプリ・グッズが存在しています。

スタンフォード大学で教鞭をとるスティーブン・マーフィー・重松先生の講義は何度か受けたことがありますが、彼の著書はとてもおすすめです。

こちらの本でも、すぐに使えるハウツーが記述されていて、入門書としておすすめです。

「ご存知のとおりマインドフルネスとは、「いま、ここ」に生きることでネガティブ思考を手放し、ネガティブ感情を癒すスキル。仏教の枠組みのなかで、座禅や瞑想として伝えられてきたものですが、近年は心理療法や社員研修にも取り入れられるようになっています。マインドフルネスの上達に有効なのは、いうまでもなく毎日瞑想すること。ただし、そのために5分、15分、30分と時間をかけることはなかなか困難でもあります。ところが著者自身のノルマは、1日10秒だというのです。それは、「呼吸」「歩く」「聴く」など日常で行なっている行動に着目したものなのだそうです」

「ソウルフル・ワールド」に登場するマインドフルネス

映画「ソウルフル・ワールド」では、人生の目的を見失ってしまった主人公や何かに集中することで到達する「ゾーン」に没入した人々、人生の喜びを失ってしまった人々の魂、そして人間界での細やかな幸せに感動を重ねる22というキャラクターなどが登場します。

瞑想を実践することがストーリーの中で重要な役割を果たし、最終的に主人公に気づきを与えるのも「人生の中での小さな出来事や環境を感じること」でした。映画の至る部分で現代社会が抱える精神的な問題が提示され、それに救いを与えるマインドフルネスを実践することが、ストーリーの中での「解」なのです。

この映画から「人生の意味」を学ぶにおいて、注視すべきポイントを3つ挙げている記事を紹介します。

1. マインドフルネスを実践する

何かを達成することに夢中になりすぎて、私たちは自分自身をないがしろにして、「今」を生きていません。日常生活の喧騒から一歩引き、止まる時間をとって深呼吸をすることが重要です。今この瞬間を生きていることに感謝し、良い瞬間も悪い瞬間も、すべての機会を祝いましょう。

2. 狭い視野にとらわれない

ジョー・ガードナーはジャズに情熱を注いでいる。それは映画の最初の瞬間から明らかです。しかし、プロットが展開していくにつれて、彼が大切にしているのはジャズしかないことも明らかになります。何よりも情熱を追い求めることに夢中になるのは簡単だが、情熱を感じる一つのことだけに集中し続けるのは、残りの世界から孤立するきっかけとなり、それ以外のことが何も意味を持たないような状態になってしまう。つまり、情熱を追求するのは良いことですが、人生には他にもたくさんの素晴らしいものがあるということを忘れないでください。

3. 「人生のきらめき」を見つける

ジョーは、自分の情熱に従うことと、名声や富を得ることを同一視するという致命的な間違いを犯してしまった。ジョーは、好きなことをして生きる必要はないということに気づかなかったのだ。クリエイターである私たちは、情熱が私たちを動かし、経済的にも支えてくれることを望んでいるかもしれませんが、だからといってそれが私たちの全てでなければならないというわけではありません。

人生の意味とは、より大きく、より良い成果を得るためだけに常に努力するだけでは十分ではありません。今この瞬間に感謝することが大切であり、それこそが人生を真に生き甲斐のあるものにするのです。」


アメリカでの「セルフケア」ブーム

以前、こちらの記事で「メンタルヘルスが「Z世代」の最重要課題」ということについて書きました。

日本のメディアでも最近メンタルヘルスやマインドフルネス、セルフケアなどの単語を徐々に見かけるようになりましたが、本格的なトレンドは数年後にやってくると思います。コロナによるストレスや不安定な経済・政治、そして若者の絶望なども相まってこれらの必要性が高まっていることは確かです。アメリカでは2017年あたりから瞑想やマインドフルネスなどが急速に知られるようになり、現在では大学や企業でも必要なスキル・コンセプトとして一般的に取り入れられています。

米国のミレニアル・Z世代を始めとした、メンタルヘルスに対する悪い偏見やよりオープンに精神疾患について語れるカルチャーが生まれてきているのも、「セルフケア」ブームの一つの要因です。「我慢」「忍耐」といった有害なマスキュリニティに根付いた価値観の撤廃を求め、より自己と向き合い、他者に気軽に助けを求め、社会的・歴史的要因や環境の問題について学ぶという姿勢が若者の間で形成されるようになってきましたが、それは同時に「自分たちでなんとかしないと、大人たちは助けてくれない」と幼少期から感じてしまったことからも派生しています。

「マインドフルネスはもはや "ソフトスキル "ではなく、一般的なヘルスケアで不可欠なものと考えられています。研究者たちは、オピオイドの流行を食い止めるためにマインドフルネスに基づいた治療法を検討しています。マインドフルネスの主な3種類の中ではヨガが最も人気がありますが、瞑想は最も急速に成長しているトレンドとして認識されており、利用者は3倍以上の飛躍的な増加を見ています。2012年には4.1%が瞑想を利用していると報告していましたが、2017年には14.2%に増加しています。」

厳しいロックダウンにより自宅待機を余儀なくされた現在も多いアメリカでは、以前は外食・衣服・イベント・遊びに使っていたお金を「セルフケア」に使うようになった人が爆発的に増えました。ソーシャルディスタンスによって他者と接する機会も減り、環境問題や政治・人種問題も幾度も悲劇を迎え、失業・医療保険・家賃問題など様々な要因を加味し、2020年は国際的に「メンタルヘルスのクライシス」と呼ばれた。

「コロナウイルスの流行によってアメリカ人が自宅に閉じこもるようになり、多くの人がスキンケアの習慣に安らぎを見出している。水曜日に発表されたNPDのデータによると、1月と2月の米国のプレステージ美容商品の売上高は3%増となり、スキンケアがメイクやフレグランスを上回った。2月29日に終了する週のドルと店頭での美容売上高は4%増、スキンケアは13%増となった。」

こちらの記事では、今年至る所で見かけるようになるであろうウェルネスのトレンドをまとめています。全体的に一貫して言えるのが、「誰かのために」することではなく「自分のために」することにお金と時間をかけるということだ社会規範や誰かに決められた「トレンド」や「モテ」などの外的な要因ではなく、自分の精神的な健康と自分の幸せのために自分磨きをする、それこそが(ある意味資本主義的ではありながらも)現在のセルフケアの主流トレンドだと言えます。

「これまで以上に時間に余裕のある生活を送ることができるようになった2020年にはウェルネスが本格的に普及し、2021年に入ってもそのトレンドは継続し、心と体の健康への関心が高まっています。」

日本でも、世界的に注目されている瞑想アプリ「Calm」が昨年12月に上陸したとして話題になっていました。今後テクノロジーや美容に限らず、様々な分野で「メンタルヘルス」がキーワードになっていくでしょう。

Netflix作品との類似性

・「ミッドナイト・ゴスペル」

「ソウルを見たばっかりなんだけど涙が止まらないよ、ミッドナイト・ゴスペルの最終話が大好きなんだけどそれを連想させる」という英語のツイートを見かけましたが、「ソウルフル・ワールド」を見ている最中には自分も同じことがずっと脳内を巡っていました。「子供向けのミッドナイト・ゴスペルだ」という意見も見られて、まさにその通りだとも思いました。

ミッドナイト・ゴスペルとはNetflixで配信されている「見る幻覚剤」と呼ばれるほど「ヤバい」アニメシリーズなのですが、死生観やマインドフルネスなどについて専門家が語っているPodcastの音源に支離滅裂なアニメーションをつけた、非常にサイケデリックかつある意味グロテスクな作品です。

「ネットフリックスの新番組を見ていると、やたらとマリファナをはじめとする向精神性薬物にまつわるものが多い。米国での大麻の実質的解禁によって、あらためてサイケデリック文化が盛り上がりつつあるのを感じずにいられない。ネオ・ヒッピー時代の到来である。」

ミッドナイト・ゴスペルの最終話ではまさに前述したようなマインドフルが「生きる意味」へと繋がることを示すのですが、大きな人生の目標や何かに対する答えを探し求めるよりも「今ある自分」と向き合い、感じることを提示しているのは「ソウルフル・ワールド」で度々登場する場面と大きく一致します。どちらも見たことない方は、ぜひマインドフルネスについての本と一緒に鑑賞してみてください。

・「ヘッドスペースの瞑想ガイド」

さらに、Netflixで今年配信が開始された「ヘッドスペースの瞑想ガイド」も、手軽に瞑想について学んだり実践することを手伝ってくれます。Netflixのようなプラットフォームがメンタルヘルスの題材を重点的に扱っているのには、さらなるブームの前兆を感じます。

「「ヘッドスペースの瞑想ガイド」が年明けの1月1日より全世界に向けて配信されます。「ヘッドスペースの瞑想ガイド」では、瞑想の基礎について学び、日常生活において意識と集中力を高める瞑想の効果について探ります。各エピソードでは、ストレスの管理や感謝の表し方などのそれぞれ異なるメリットを取り上げ、アプローチやテクニックについて学んだ後で、実際に瞑想を体験します。」


バナーに使用したツイート:


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竹田ダニエル
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