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本当は、パパだって子育てしたいんだ……!!

まだ娘が生まれる前、妻の妊娠中の話。

私が住んでいる東京のある地域では、「ハローベビー教室」という自治体主催のイベントがあります。初めて子育てをする妊娠中のママとパパを対象としたもので、赤ちゃんのお風呂の入れ方やら抱っこの仕方やらを、助産師さんたちが教えてくれます。

いいイベントですが、イケてない点がひとつ。平日の昼間開催だったのです。これでは、産休中のママや自由業のパパは参加できても、平日勤めのパパの参加は困難です。幸い、私は子育てに理解ある職場に務めているので、有休を取って参加することにしましたが、普通の会社じゃなかなかそうはいきません。”ママパパ対象”ってなってるけど、どーせ参加者はほとんどママなんだろうな……。

ところが、当日、ビックリです。参加した12組のうち、11組までが両親そろっての参加だったのです。どのパパも真剣に助産師さんの話に聞き入り、熱心にメモを取っています。なんだこれ、めちゃくちゃ頼もしいじゃん。

世間では「日本人男性は、家事も育児もやらなくてダメダメ」なんて言われているけれど、それはもう昭和平成の昔話になったのでは? 令和の日本人男性はむしろ、他の先進国のパパたちに引けを取らないくらい、家事育児を普通にこなしているのでは? イベントに参加して、そう感じました。

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ところが! データでみると、日本人男性は他の先進国の男性と比較し、突出して家事育児をやっていません。6歳児未満のいる家庭のパパの平均的な家事育児時間は1日あたり1時間7分。これに対し、トップのスウェーデンのパパは3時間21分で、その差は実に2時間以上です。

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参照元:OECD「iLibrary」

また、総務省「社会生活基本調査」によれば、子どものいる世帯の家事時間は妻が夫の2.8~3.6倍、育児時間は2.1~2.7倍となっています。

こうして、日本男児は、世間から散々怒られてきました。「これだから日本の男どもは! もっと他の先進国の男性を見習わんかい💢」と。悲しいですが、こんな数字を出されたら認めざるを得ません。事実、今の日本社会は、女性に家事育児の負担が偏り過ぎています。

日本のパパは働いてばかりで家事育児にコミットせず、それがママを、とりわけ、産後のママを追い詰めています。

出産した女性の10%〜15%が発症するといわれる「産後うつ」。発症リスクがピークに達するは産褥期(出産後、体が妊娠前の状態に戻るまでの期間)です。

国立成育医療研究センターの調査で、2015~2016年に妊娠中や産後1年未満に死亡した妊産婦357例を調べたところ、死因の第1位は「自殺」で102例、うち、産後1年未満の自殺が92例ありました。

この産後うつの原因のひとつとして指摘されるのが、「パートナーや家族からのサポートの不足」です。人生の伴侶たるママの危機に、いったいパパは何をやっているのか……!?

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でも、これはいったいどういうわけなのだろう。

簡単ではなかったろうに、有給を取得してまで「ハローベビー教室」に前のめりに参加していたパパたちは、家に帰った瞬間に関白亭主に豹変してママに家事育児の負担を押し付けているのだろうか。なんだかそれはちょっと想像しづらい……。現実でみた光景とデータが示すギャップに、モヤモヤしていました。

そこで、私は思いました。ひょっとして、日本の男たちは「家事育児を“しない”」のではなく「家事育児が“したくてもできない”」のではないか……? 

「何をふざけたことを……!!」というママたちの声が聞こえます😨 でも、根拠はちゃんとあるんです! (いや、もちろん、できるのにやらない夫も大勢いるとは思いますけど)

実は、日本人男性は、働きすぎているために家事育児をする時間がないのです。日本人男性の有償労働時間は、先進国の中でぶっちぎりトップの452分となっており、スウェーデン人男性との差は139分! つまり2時間19分! まさに、先ほどみた日本人男性とスウェーデン人男性との家事育児の差そのものです。

図1ー6:OECD「Blancinng paid work, unpaid work and leisure」(2020)

参照元:OECD「Blancinng paid work, unpaid work and leisure」(2020)

家事育児等を含む無償労働(お金が支払われない労働のこと。典型的なのは家事労働)も含めた総労働時間では、スウェーデン、カナダも日本並みに長いのですが、日本は有償労働の男女差が180分と大きく開いているのが特徴です。これは 未だ日本人女性の就業者に占める非正規雇用者の割合が56%と多いことが影響しています。

しかし、このような状況の中でも、日本のパパたちは健気に変わろうとしているのです!実際、2008年の頃と比較すると、就労時間にまったく変化がないにも関わらず、家事育児をする時間が増えています! 微妙にだけど……!!

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参照元:総務省「社会生活基本調査」

このデータが、今の日本の実情をよく表している気がします。日本のパパたちは、救いようのないダメダメな存在では断じてないのです。むしろ、今の現実の中で、少しでも家事育児にコミットしようという前のめりな姿勢を見出すことができます。目を凝らせば……!!

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就労時間は、先進国の男性の中で他の追随を許さないぶっちぎり状態の日本。変化の兆候は、ほとんどみられません。しかし、昨今は「パパだって家事も育児もやって当たり前!」と言われます。そして、それはその通り。だからこそ、パパたちも必死に頑張っているのです。だいたい、そんなこと言われなくても、俺たちだって子育てしたいんじゃ!

(そしてママたちも、家事育児の量はほとんど変わっていないのに、「ママだってバリバリ働くべき!」と言われている……)

でも、この頑張りに歪みが生じてきています。パパの“産後”うつが、広がっているのです。イギリスなどの学術誌によると、急激な生活リズムの変化や仕事と育児のプレッシャーにより、子どもの誕生後1年以内に10〜11人に1人の父親が“産後”うつになるリスクがあります。産後うつは、もはやママだけのものではありません。

男性は、子どもが産まれたら周囲から大抵、こう言われます。「本当におめでとう! いよいよパパだね! これから、もっと頑張って働かないと!」 実際、私も同僚にこう声かけした記憶が何度もあります。

もちろん、この祝いの言葉に悪意なんか1ミリだってありません。実際のところ、育児にはお金が必要です。パパが、頑張って働かないといけないのです。家族を、子どもを、守らないといけないのです。

だから、多くのパパは子どもが産まれても、仕事のペースを落としません。子どもの保育園のお迎えがあっても、夜泣きがどんなに酷くても、家事育児の分量が増えても、職場で弱音は吐かないし、ふるまいは決して変えません、いや、変えることができません。だって、そんなことしたら、昇進の妨げになってしまうかもしれない。それは、「男らしくない」と思われてしまうかもしれない……。

こういう旧態依然とした「男らしさ」というステレオタイプが、パパやその家族だけでなく、日本社会そのものを蝕んでいます。この点は、下記の記事にまとめているのでぜひご笑覧ください。

パパだろうがママだろうが、普通の人間です。子どもが産まれたら、その分だけ1日の時間が伸びるわけではありません。私は、娘を育てながら働いている今、はっきり断言できます。子どもができたなら、そして、家事育児にコミットしたなら、これまでと同じペースで働くなんて、絶対にムリです。如何に仕事の質を高めるかが勝負。今、こんな当たり前のことが社会で共有されていない気がします。

「いや! 私は家事育児もやってるけど、仕事のペースも全く落とさずにバッチリできましたよ!」というスーパーマンやスーパーウーマンの成功譚が巷で溢れかえっていますよね。いやー、それはそれは、スバラシイ。でも、すみません。私は、普通の人間の話をしているのです。超人の成功事例は、超人とだけ共有していただきたい。

うちの娘は、夜泣きは酷いし、しょっちゅう熱を出すし、思い通りに仕事でパフォーマンスを出せない日があります。正直、「ツライ!」と思うことが度々あります。私も従来の「男らしさ」から完全に自由になれていないのかもしれません。それでも今、幸にして心身ともに健康でいられるのは、職場のみんなのおかげです。

私は、月に何度もこんな類のメッセージを同僚に出しています。「本当にごめんなさい……。娘が熱を出してしまって、保育園に迎えに行かないといけなくて。次の会議、欠席させてください」 

私の仲間は決まってこういう返信をくれます。「了解。謝ることないよ! しっかり議事録取っておくからね。後で共有するから、安心して行ってきて」

子育ては、男女関係なくコミットして当たり前、キツいことがあって当たり前、だから、仕事もこれまで通りできなくなって当たり前! この認識を共有してくれている仲間たちの、なんと有難いことか。

これからの時代、「男らしくあれ! 歯を食いしばって仕事も家事も育児も頑張れ!」という無責任な叱咤激励より、ダメな時は「もうダメです……!!」と、弱さを伝え合える関係性が大切なんじゃないかと思います。

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今、政府は積極的に「すべての女性が輝く社会づくり」を喧伝しています。間違いなく、これは重要なことです。でも、女性は、とりわけママは、すでに仕事と家事育児で手一杯です。

これ以上、ママに仕事を頑張ってもらうなら、パパに家事育児にコミットしてもらう他ありません。でもこれまで見た通り、今の状況は、パパもキャパオーバーなんです。

だから、政府の皆さま、並びに、企業経営者各位に、全力でこれを伝えたい。まず「すべての男性が安心して家事育児できる社会づくり」に本気でコミットしてくれませんか、と。



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