平均給与が6年連続上昇?実感なき平均値の罠
国税庁が毎年発表している「民間給与実態調査」の2018年実績が公開されました。平均給与が6年連続で上昇したという部分が報道されたりしています。
ちなみに、441万円は男女合計で、男性は545万円、女性は293万円です。
平均年収は6年連続で上昇していて、労働環境や労務指導の改善が背景にあるとみられている。
などと報道されているのですが、果たしてそうでしょうか?
確かに6年連続で平均給与が上がっているのは事実ですが、長期推移で見れば、それでもまだ平成9年の実績である577万円(男)には届いていないのです。つまり、「20年前の給料よりまだ低い」と言えるわけです。
それでも、グラフの上昇カーブを見ると、景気が上向いてきたように見えてしまいますが、実際サラ―リマン個々人の皆さんは、「そんなに給料あがっているかな?」と実感が湧かないのではないでしょうか?
これは「平均の罠」です。
平均値というものは、極端に高い数字が少数でもあればそれに引っ張られてしまいますし、逆もそうです。
では、実際に年収階級別の分布(人数)がどう変化したかを見てみましょう。平均給与がもっとも高かった平成9年と平成30年とを比べてみます。
驚くべきことに、平均給与があがっている真の背景が浮かび上がりました。
平均給与があがっているとはいえ、20年前と比べて500万円以上の所得者は軒並み減少しています。むしろ、400万未満の低所得層の増加の方が凄まじい。
全体的に見れば、「これでどうして平均給与があがるのか?」と不思議に思うかもしれません。
それは、増減率の棒グラフで明らかなように、2000万円以上の高所得層が大きく増えているからです。2000-2500万層が人数比で55%増、2500万円以上層に至っては、130%増、つまり2.3倍になっているということです。
勿論、高所得層は絶対数は少ない。ですが、平均をあげているのはこうした高所得層の増加なのであって、皆の給料があがったわけではありません。
人数で言えば、2000万以上の高所得層が12万6千人増えて、同時に100万未満の低所得層が28万5千人も増えたということです。
要するに、民間給与所得者の所得格差が広がったことをわかりやすく表した図表となります。
100万未満の低所得層が増えているのは、高齢化に伴う65歳以上の非正規雇用者の増加が大きい要因です。それは人口構造上の問題であり、仕方ないにしろ、メイン現役層の30-50代の給料があがっていないどころか減っているということの方が問題です。
特に、未婚化問題で言えば、300万円の壁といわれるように、結婚適齢期人口の所得があまりあがっていないという事実は、ますますの未婚化に拍車がかかるのではないかと思います。
さらに、10年前の2008年と2018年の男性を比較しても、平均給与は約12万円増えていますが(10年で12万しか増えていないという見方もあるけど)、全員が一律増えたわけじゃなく、年収2500万円以上の人が約4万人も増えた半面、年収100万円未満は約15万人も増えています。但し、1997年と2018年の比較ほど、中間層がマイナスにはなっていない分だけ、直近10年の方がマシと言えるかもしれません。
「6年連続で平均給与があがった! 」と、そこだけ強調されると「なんか全体的に景気があがってる」と勘違いしがちです。しかし、そこには数字を見るリテラシーが必要です。じゃないと、ひとりひとりは決して裕福になっていないのに、数字で平均化するとみんなが裕福になっていると思わせられてしまいます。統計については、部分だけを切り取るのではなく、その詳細をまず見ることが大事です。
ちなみに、女性はこうです。
女性の方は、全体的に低所得~高所得層において人数は増えています。2500万円超で230%増(3.3倍)とはなっていますが、絶対数が少ない中の増加(4千人→1万3千人)なので、一概に男性とは比較できませんが、ひとりひとりが給料があがったという実感はあるのではないでしょうか。少なくとも男性よりは。