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絶望の世界に生きるZ世代の「ご褒美文化」

いまZ世代の間でキーワードになっている”treat culture”、訳すなら「ご褒美文化」。 「崩壊していく世界で生きていくには、毎日ちょっとしたご褒美を自分に与えてあげないとやっていけない」というもの。コーヒーや文房具など、ちょっとした買いものをためらわない。

これの面白いのは、アメリカの物価(特にこういうTikTokを投稿している人が住む都市部)はバカ高く、例えばサンフランシスコやLAだったらコーヒー一杯1000円近くするし、ランチも1500円以下でできることなんて少ない。それでもコツコツした節約とか気にせず、「欲しいから買う」という勢いを感じる。

共通しているのが、一部Z世代に人気の「生産性ハック」系TikTokの影響力だ。寝る・仕事する・運動する時間等を手帳に書き込んだり、モチベが上がる可愛い文房具を買い揃えたり。仕事や勉強を「映える」ように仕立てることで「ゲーム化」しているが、実際は資本主義の権化だ。

「Z世代のハッスル崇拝者たちがそうするのは、それがアメリカ文化(一生懸命働けば報われる)という考え方に適合しているから。たとえ親よりも裕福でなくなる可能性が高い未来が待っていたとしても。一生懸命働けば、貧困、教育の不公平、住宅危機など、今の時代の制度的な問題は”個人の問題”になる」

「アメリカの倫理観は、自己価値、価値、生産性を結びつける。これらの動画にはその要素があります。なぜなら”常にもっとうまくやれる”ということを思い出させてくれるから。 プライベートとプロフェッショナルが融合する。目標は常に努力することであり、自己管理も目的のための手段であるようだ。」

この「自分磨き」をすることで「人生がなんとかうまく行っている」と感じたい精神は「自己ブランディン」ともいえる。 「TikTokで2022年に向けて自分を「リブランディング」することが流行っている。新年の決意の概念を飛び越えて、まったく別の人間に変身することだ」

「このトレンドの参加者は、この種の美的自己改善コンテンツによく見られるように、ほとんど若い女性ばかりだ。彼らは、夜明け前に起き、ヨガをし、泡風呂に入り、日記を書くことで、2022年の自分を「ソフトローンチ」する。」 「生活改善」と「疲れる生産性」は紙一重だ。

インスタを開けば、美貌やダイエットを「コンテンツ」として職業にしているインフルエンサーが。Twitterを開けば「丁寧な生活」をしている人がバズっている。自分をコンテンツ化することで「儲ける」ことに繋がる社会では、自分こそが最大のポテンシャルを持った「プロダクト」なのだ。

「自分を厳しく磨き上げる」トレンドと「(頑張っていようが、頑張っていなかろうが)自分を甘やかす」トレンドが同時に存在していることもとても面白い。違うように見えて、かなり重なっている部分もあると思うし、何よりも「金を使うことで人生の問題を解決」しようとする精神は一緒。

日本では「節約術」こそが「自分磨きハック」として社会的文化として根付いている。「節約」することこそが最大の「生産性」とも感じられる。一方でアメリカでは節約文化が薄く、むしろ消費を通してしかアイデンティティ形成できないような社会だ。将来のための貯蓄など考えている人は少ない。

ミレニアル世代がもっと若い頃にこういう贅沢をすると、「そういう浪費をするから家が変えないんだ」と上の世代に揶揄された。一方でZ世代は当然家など買えるはずもないし、いつ世界が終わってもおかしくないと諦めているので、欲しい時に欲しいものを買うという刹那性が強いように感じるのだ。


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