次期ECB総裁人事を早くも展望

気が早い話ですが、2019年10月に任期満了を迎えるドラギECB総裁の後任人事を巡る報道が散見され始めています。なお、総裁は2019年10月ですが、副総裁は2018年5月に任期満了ですので、まずは年末年始にかけて副総裁人事から現実的な動きが出始めることになります。まだ流動的な部分は多いですが、現状では次期ECB総裁はドイツ、副総裁はスペインという予想が基本線となりましょう。

メルケル独首相やショイブレ独首相が強く希望しているという報道にもあるように、今度こそドイツという思いは相当強いでしょう。オランダ(ウィム・ドイセンベルク)、フランス(ジャン=クロード・トリシェ)、イタリア(マリオ・ドラギ)と引き継がれてきた経緯を踏まえれば、今回はドイツ(バイトマン氏)となるのが最も無難です。今や、(やや基盤は弱体化したものの)先進国中最強との形容も付されるメルケル独首相が後押ししているのであれば、尚のことです。さらに、バイトマン総裁の任期が2019年4月、ドラギECB総裁の任期が2019年10月であるため、タイミングとしても頃合いでしょう。現時点では、紆余曲折はありながらも、今度こそドイツと考えたいところです。

次期ECB総裁候補に関し、バイトマン総裁以外ではマクロン大統領の後押しでビルロワドガロー仏中銀総裁の名も取り沙汰されますが、そうなるとメルケル首相とマクロン大統領の代理戦争という様相を呈します。両者のポリティカルキャピタルの差に鑑みれば、勝負は見えているように思えます(そもそもフランスはトリシェ元ECB総裁の記憶がまだ新しい中で政治的に難しいでしょう)。その他候補としては、前回の2011年にはリーカネン・フィンランド中央銀行総裁やメルシュECB理事の名が取り沙汰されていました。だが、メルシュ理事はともかく、フィンランドもまた、タカ派主張を好む加盟国の1つです。フィンランドが容認されるならばドイツで良いという話になるように思えます。

バイトマン総裁がECB総裁に就任すれば、ほぼ間違いなくECBのタカ派化が市場で騒がれ、欧州金利は上昇、これに伴いユーロも買われる可能性が高いです。しかし、これは安直な反応です。政策理事会はあくまで多数決(役員会6票、各国中銀15票で計21票)であり、賛否同数の場合にのみ、ECB総裁がキャスティングボートを握ることになっています。総裁がドイツ人になったからといって、それだけで政策運営がタカ派化することは考えにくいです。もちろん、総裁の地位にあるものが「最もタカ派で若い(バイトマン総裁はまだ40代である)」という構図が南欧を筆頭とする緩和志向の強い加盟国の敵対心を煽ってしまうのではないかという一抹の不安はあります。しかし、ドイツですら安定的に+2%を超えてこない物価環境を踏まえれば、細かな政策修正で摩擦があったとしても、政策理事会の分裂までを懸念する必要は無いと思います。

一方、副総裁に関しては、早ければ今年12月、遅くとも2018年1月のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)およびEU経済・財務相理事会(ECOFIN)で後任人事の勧告が行われるでしょう。これを受けて欧州理事会(欧州委員会委員長+各国首脳、いわゆるEUサミット)が特定多数決(QMV)で決定することになります(こうした決定過程は総裁、副総裁、理事全て同じです)。副総裁人事に関しては、国籍バランスを考えれば、現状、ECB役員会に席を持たないスペインの出身者になる可能性が大きいと見られます。今年3月時点でも、デギンドス・スペイン経済相が2018年にスペインが役員会メンバーを送り込むことを確信していると述べていました。実際にデギンドス経済相になるのか、リンデ・スペイン中銀総裁になるのかは定かではありませんが、「大国にもかかわらず唯一役員会にポストを持たない」という状況は公平性の観点から相応に不味い状況と見られ、副総裁はスペインという線は硬いように思います。

なお、仮にバイトマン総裁が次期ECB総裁になった場合、現在、役員会にいるドイツ人メンバーであるラウテンシュレーガーは任期途中辞任となるでしょう。役員会に関しては、特定国が2つ以上のポストを占めるという状況が暗に忌避される慣習があります。直近の例では、ドラギ総裁就任時、イタリア人のスマギ理事が任期途中で辞任を迫られるということがありました。

https://jp.reuters.com/article/ecb-next-president-idJPKCN1C001N

https://jp.reuters.com/article/ecb-next-president-idJPKCN1C001N

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