サイエンスにも「コミュニケーション力」が必要
桝太一さんの退職で有名になった「サイエンス・コミュニケーション」
皆さんは、「サイエンス・コミュニケーション」という言葉をご存知でしょうか?文字通り、「科学」を「伝え・対話」する仕事です。
最近、日本テレビのアナウンサーだった、桝太一さんの退社の記事で、「サイエンス・コミュニケーション」という言葉が登場し、そこで初めて触れた方も多いのではないでしょうか?
この様に、既知のように説明している私も、そんなにこの言葉との付き合いは長くありません。大学・大学院で数学を学び、その後企業の研究室で研究してた頃には、「サイエンス・コミュニケーション」という言葉には、まだ出会っていませんでした。
私が知るようになったのは、日本未来科学館の多くの「科学コミュニケーター」にお会いしてからです。さまざまな「科学」を、相手の知識や語彙に合わせて説明する仕事を、未来科学館では「科学コミュニケーター」が行っています。まさに、サイエンス・コミュニケーションの一つの現場です。
さらに、古沢輝由先生に、北海道大学 大学院教育推進機構 オープンエデュケーションセンター内の科学技術コミュニケーション教育研究部門 CoSTEP(Communication in Science & Technology Education & Research Program; コーステップ)で、お会いした時に、古澤先生自身が、サイエンス・コミュニケーションの肩書きを使っているのを知り、サイエンス・コミュケーションと言葉が、より短になり、自分ごととして考える様になりました。
<イグ・ノーベルについて解説している古澤先生の記事>
サイエンスは、科学者のテーマであるが、人類のためのものである
さて、私は、桝太一さんも取り組まれ始めた、サイエンス・コミュニケーションいついては、ますますその活動の重要性があるのではないかと、考えています。
科学者には、いろいろな研究への取り組み熱意や、背景があります。そのモチベーション・ドライバーは、各自の自由であって良いでしょう。それは、日本国憲法第23条でも、「学問の自由」として、保障されていることでもあります。
ところで、この研究によって生まれた科学的発見は、人類の共有物となることがあります。その昔、「万有引力の法則」を理解する時には、多くの人を巻き込んだ論争になりました。この論争の様に、時間をかけて、社会的な理解を促すことができれば良いのでしょうが、現代では時間的な制約、さらに必要な知識量の増加から、科学の発見について、一人一人が考えることが難しくなっています。
また、研究者の方も、その科学技術の良い部分を念頭に置いたり、その科学技術の使われ方も「性善説」に立って、考えていることが多いのではないでしょうか?
科学の研究は、学問の自由で、研究者が自由に行えますが、その成果は人類の生活に影響を与える。これが、サイエンス・コミュニケーションが必要背景だと、私は考えています。
この一つの例が、「原子力発電」という科学です。化石燃料に依存しない発電で、2酸化炭素を排出しない発電です。しかし、「放射線」という見えないものを相手にすることや、発電終了後の「発電所」の片づけ方などの問題があります。そして、科学者でない人も、「原子力発電」を活用するのか、活用しないのかは議論して良く、そのためにも、科学で理解できていること、理解できていないことを、サイエンス・コミュニケーターの力を借りて、私たちは知って、考えるべきなのでしょう。
そして、この様に私たちの生活と科学のつながりが、とても高くなっているのが、今の時代の特徴なのかもしれません。
2つの領域を接続する界面活性剤のようなサイエンス・コミュニケーション
さて、こう考えると、「サイエンス・コミュニケーション」は、「科学」と「生活・日常」を繋ぐ、「界面活性剤」のような、「通訳者」の様な取り組みになるのでしょう。
科学者は、科学の専門用語を使って、自分の取り組んでいる科学の説明は行えます。しかし、科学の専門用語を封印して、大まかに行っている科学の説明をすることは得意ではありません。
私は、日曜日にNHKの「数学者は宇宙をつなげるか? abc予想証明をめぐる数奇な物語」という番組を見ました。1時間で、とても難しい話を、まず内容を簡単にして、そして数学の話と、数学者の取り組み・活動という両方に光を当てながら構成する番組は、純粋な科学者には構成できないストーリーです。この番組にも、サイエンス・コミュニケーションの仕事は生かされていたのではないかと想像しながら、最後まで楽しく見ることができました。
サイエンス・コミュニケーションという取り組みは、普段のビジネスでも多く存在
この様に、2つの領域にまたがる話というのは、ビジネスでも存在します。その仕事の「経験者」と「未経験者」。仕事の取り組みについても、「合理性重視」と「働きやすさ重視」など、さまざまな立場や、考え方が存在します。ビジネスの現場では、どちらを選ぶかではなく、それぞれの良いところを組み合わせて、Bestな方法を取りたいことが多いでしょう。
そう考えると、ビジネスの現場も、「サイエンス・コミュニケーション」的な「界面活性剤的会話」や「通訳者」の存在は重要なのでしょう。
さて、最後にサイエンス・コミュニケーションについては、アメリカのホワイト・ハウスの取り組みを紹介したいと思います。アメリカのホワイト・ハウスには、PCAST(President’s Council of Advisors on Science and Technology・大統領科学技術諮問委員会)という存在があります。
日本には、日本学術会議がありますが、このPCASTは、科学研究者、科学事業を行っている企業の方など、科学に関する多岐にわたる方がメンバーとして参加しています。これからは、「科学」と「生活」の関係性は高くなり、、さらには「科学」と「政治」の関係性も高くなるでしょう。
政治側の「サイエンス・コミュニケーター組織」というのを、きちんと議論することも必要なっているのかもしれません。