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ネットの普及は、私たちを攻撃的にしてしまったのではないか?

世界と比較すれば、日本の殺人率はとても低いものです。しかし、日本での殺人事件の過半数は親族間で起きています。そのうち一番多いのが夫婦間の殺人です。全殺人事件の2割は夫婦の間で起きています。

…と聞くと、「ああ、夫のDVの果てに命まで奪われてしまう妻が多いのだな」と思われるかもしれません。しかし、近年夫婦間殺人の被害者は夫の比率が上昇し、かつての3割程度からほぼ半々り比率にまで接近してきています。夫婦間における暴行罪や傷害罪は圧倒的に女性被害率が高いのに対して、殺人だけが男女ほぼ同数なのです。

そんなことについて書いた記事がこちらです。ぜひお読みください。

記事の中でも触れた事件のように、妻が夫の就寝中に殺害するという事件の背景には、日常的な夫によるDVなどがあったのかもしれません。肉体的に弱い妻が、追い詰められて、夫の寝こみを襲ったというケースもあるでしょう。夫婦間殺人の全事件の動機などがわかる裁判資料を見たわけではないので、その因果までは不明ですが、はっきりわかるのは、20年前の2000年頃までは、夫の暴行・傷害と夫の殺人加害率が強い正の相関があったのにも関わらず、近年は、殺人だけが夫被害率が上昇している点です。

そこには、夫婦間に介在するなんらかの要因があったとみるべきでしょう。

記事の中では、2000年と2018年とで、裁判沙汰になる離婚理由について比較しています。それによれば、下のグラフのように、夫側の離婚理由で、身体的暴力と精神的虐待が増えている点がわかります。

こうした状況が、夫婦の被害率の拮抗に何らかの影響はないとは言い切れません。

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もちろん、家裁沙汰になるような離婚なんてそう多くないだろうと思われるかもしれませんが、年間6万件あります。離婚全体の3割を占めています。家裁にまでいかないまでも、同様の理由で離婚している夫婦もいるでしょうし、離婚にいかないままこういう問題を抱えている夫婦も多いでしょう。

こうした夫婦間の問題というのはなかなか統計として表には出ないものです。

そんな中、内閣府の実施した「夫婦間の暴力に関する調査」から非常に興味深い結果がありました。詳しくは、元記事の方を読んでいただきたいのですが、結論から言うと、妻から夫への肉体的暴力の割合は、近年20-30代の若年層においては、男女が逆転しているということです。つまり、若い夫婦においては、妻より夫の方がDV被害を受けているのです。

DV被害=女性とは限らない。厳密にいえば、40代以上は確かに妻の方のDV被害が多い。40代が20代で結婚したとすれば、それは20年前です。夫の殺人被害率が低かったのは20年前。そして20年後の現在は、夫が殺される率が増え、同時に20-30代の若い夫婦の夫が肉体的暴力を受けている割合が増えた。この20年間の変化は、直接の因果ではないにしろ、興味深いものがある。

この20年間に一体何があったのか?

ちなみに、全国287カ所にある配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は年間10万件を超えるし、警察への相談も2018年には約7万7000件まで増えています。合わせて、配偶者暴力防止法(DV防止法)に基づく保護命令件数は1591件(2019年)。そうした相談や懲役刑まである保護命令も出されているのに、夫婦間殺人はここ20年間ずっと150件以上で推移しているのです。

実は、何かあったとしても、女性の4割、男性の7割がどこにも、誰にも相談していないこともわかっています。証拠はないですが、発生している殺人事件の多くは、この相談されない水面下での事案が多いのではないだろうか。


2020年10月、内閣府に「男女間暴力対策課」が新設されました。

加藤勝信官房長官は記者会見で「DVや性暴力は性別を問わず人権を著しく踏みにじる決して許されない行為だ」と語っているが、まさにその通りで、「性別を問わず許されない行為」ということはもう一度全員が肝に銘じることだろう。

男であろうと女であろうと、子どもであろうと、老人であろうと、暴力は許されない。ここでいう暴力とは、肉体的に危害を与えるものだけに限らない。精神的虐待や心理的攻撃などもそれにあたる。言葉による誹謗中傷もまた暴力です。

2000年以降…偶然かもしれないが、インターネットが普及しはじめた以降、僕はどうもすべての人々が、攻撃的になってやいないかと思うのです。

腕力や筋力や武器に頼らなくても人が殺せてしまう。それがネットの中にある現実。殺人事件という最悪な事態にならなければいいという問題ではなく、日常の中の私たちひとりひとりの行動は「誰かに対する暴力になってやしないか?」と、そう自己に向き合う姿勢が必要だろう。

ちなみに、この東洋経済の記事に対して、こんなツイートをする方(女性)がいました。

何このクソ記事。殺害した妻が夫から暴力を受けていた統計データもないくせに妄想じゃん。

夫から暴力を受けていたら殺害していいんでしょうか?そういう思考がそもそも攻撃的だといいたいわけです。これ自体、暴力を容認しているということに気づいてくないのでしょうか?そもそもクソとはなんなんでしょうか?これは立派な罵詈雑言です。これも暴力なのですよ。

多分、この方は、女性の加害者が増えているという事実が不快で許せないのでしょう。女性は常に被害者であると思いたいのでしょう。女性とか男性とか関係ありません。

特に、ツイッター界隈では、毎日飽きもせず「男vs女」「フェミニストvsオタク」のような不毛な言い争いが続いています。不毛だというのは、どちらも自分の正義を信じて疑わないので、議論しても無意味だからです。単純にゃ相手をどう言い負かすかの争いでしかない。

相手を言い負かして、マウントを取る。これもまた、ネットの中における殺人であり、さらし首と同じです。

それ、人間としてどうなのだろうか?

相手の首を断ち切るまで執着しなければいけない人生って幸せなのか?断ち切るべきは、相手の首ではなく、その相手との関係性の方です。

そうではないのですか?

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。