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トヨタと終身雇用。企業は社員利益と株主利益どちらを重視するべき?

 みなさま、こんにちは!エコノミストの崔真淑(さいますみ)です。おかげさまで、新刊「30年分の経済ニュースが1時間で学べる」に励ましのお言葉を沢山頂いてます。これも皆様のおかげです。本当にありがたいです。今回は、先日のトヨタの終身雇用に関する経済ニュースを軸にしつつ、新刊にも盛り込んだ「会社は誰のモノか」議論について考えていきます!

*トヨタの終身雇用に関する経済ニュースとは?

 ご存知の方も多いとは思いますが、「トヨタ」の豊田章男社長が終身雇用について言及しました。1990年代に国内自動車販売はピークを打ち、自動車に関する税金も重い日本。その中で、終身雇用ありきを前提にするのは厳しいことが出てくる可能性を示唆されたようです。また、ここでいう終身雇用とは、年功序列も難しいということを指摘していると思います。これにより、任期付き雇用が増えるんか…。非常に気になります。

 周辺やネットの声を聞くと、「社員あっての企業。そう言及する経営者は少なくない!」「会社は社員のモノじゃないのか?」「急にこんな発言なんて…」「俺も住宅ローン払うインセンティブなくなったとか言いたいよ」…いろんな意見を聞きます。では、企業は「株主利益」「社員利益」どちらに重きをおくべきなのでしょうか?

*会社は誰のもの?

 企業は「株主利益」「社員利益」どちらに重きをおくべきなのかを考えるために、会社とは誰のモノかを考えてみます。新刊の第50番目の経済ニュースでも言及しましたが、私の意見は下記です。「会社は株主のモノ」という言葉も流行りましたが、これは半分間違っており、半分正しいというのが私の意見です。というのも、株主だから会社の不動産や所有物を勝手に使っていいわけではありません。一方で、株主は会社の残余請求権(配当や清算時の最終利益の請求権)があります。そして、会社は社会の中で経営をしています。半分は社員や社会全てのもの。そして半分は株主のものというのが、肌感覚としてしっくりくるかと見ています。詳細は、下記の新刊抜粋をご覧ください。でも、この考えは会社をガバナンスするという視点だと少し違ってきます。

(出所:崔真淑著「30年分の経済ニュースを1時間で学べる」より)

*会社をガバナンス(経営者の暴走を監視する仕組み)においては、会社は誰の利益を大切にすべき?

 なぜ、会社をガバナンスするという視点だと、会社のが念頭に置くべき利害関係者が違ってくるのでしょうか?Tirole(2005)では、数理モデルを用いて、ある思考実験を紹介しています。経営者に企業価値を毀損させるような経営者をさせないためには、会社は株主利益に重きを置いた方がよいと言っています。つまり、株主利益を毀損しないようにガバナンスをすべきといっています。社会全体や社員の利益じゃなくて…なぜでしょうか?

 ノーベル経済学受賞者でもあるTirole氏は、ガバナンスについては「社員や社会全体の利益を軸にするステークホルダー論」「株主利益を軸にするシェアホルダー論」を提示して、セカンドべストとして後者がガバナンスに有効なことを指摘しています。というのも、前者の利益を毀損させて増やしたとするにしても利益を計ることが非常にむずかしく、何に立脚すべきかが曖昧になるからと。例えば、米国A社は社員の多様性促進や寄付などにも積極的で有名です。でも、租税回避という脱税を行いました。この場合、米国A社の社会全体にもたらした利益ってどう計るべきでしょうか?また、株主よりも、社会全体の利益を優先すると言及する会社に出資する人は多くないかもしれません。

 一方で。株主利益の毀損とは、計測しやすいです。もちろん、株主利益ばかりを追求しては、巡り巡って社会にも株主にも不利益があるでしょうが…ですから、セカンドベストとしてガバナンスには株主利益を軸にするのは良いのでは?ということなんですね。株主が経営者に物言うのは、悪いことばかりではないようです。

(出所:崔真淑著「30年分の経済ニュースを1時間で学べる」より)


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崔真淑(さいますみ)


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