マーケティングだけ勉強しても、マーケティングできるようにはならない〜その(1)〜
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マーケティングだけ勉強しても、マーケティングできるようにはならない〜その(1)〜

筆者は1992年に社会人になってから、ずっとマーケティング業務に携わってきています。
ので、その立場から例えば、マーケティングの核にあるのは人間理解であると発信したり

マーケティングと人事の融合(=マーケティングの本質が人間理解に基づく認知変容や態度変容の設計なのであれば、人事は社内に向けてマーケティングを実施することに等しい)にかかる発信をしたりしています。

なのですが、ある程度記事を書き溜めてきた今、このような整理の仕方では、どんな全体構造の中で人間理解・マーケティング・マーケティング以外の業務(この場合人事)が関連していると、筆者が考えているのか、いまひとつ分かりにくいのではないか、と思い始めました。

そこで大体全5−6回くらいの想定で、この全体像をNoteで説明しようと考えました。本記事はその第一回という訳です。

こちらのスライドは、筆者が考えるマーケティングという仕事の全体構造です。

マーケティングに限らない、仕事一般を進めるためのOSとして、事象を関係性で捉える世界観などのいわゆる教養要素があり、その上にマーケティングのOSとして人間の認知や意思決定を理解する要素があり、その上に製品開発・ブランド構築・顧客との関係強化などのマーケティングそのものがあり、その上に応用編としてその他業務への応用がある、という四階層の構成になっています。

本記事では、手始めに「仕事のOS」階層の「メンタルモデルを操る」について説明しようと思います。

まず初めに、思考実験として、まだ動物の分類という考え方がなかった昔にタイプスリップしたとしましょう。
あなたの周りを注意深く観察してみると、よく似た動物が複数いることに気づきます。
その動物は、毛むくじゃらで、4本足で、耳が三角形をしており、長いヒゲを蓄え、みょうにすばしこく、ニャーと鳴くという共通点があります。
体毛の色や模様は個体により差がありますが、上の共通点を持って、これらの動物は同じ仲間なのではないか、という考えに、あなたは至ります。
そして、この仲間にネコという名前をつけます。
このときの「共通性を持った仲間」はカテゴリーという概念であり、この「カテゴリ」と「名前」と「その意味」のセットがメンタルモデルである、と筆者は考えます。

あなたが、あなたの周りにいる動物に共通性を見出したことにより、カテゴリ概念が芽生え、それにネコという名前を与えたことにより、新しいメンタルモデルが一つ誕生した訳ですね。

さてメンタルモデルは一度生まれると進化します。
例えば、あなたの夢に出てくる三角の耳でニャーとなくものは、あなたの夢の産物なので、生き物ではありません。ので、元来のメンタルモデルには当てはまらない訳ですが、あなたは夢の産物とネコの共通性に着目し、ネコのカテゴリを拡張します。つまりこの時ネコという言葉の使用において、生物であるという条件は必須でなくなる訳です。

更にネコの気まぐれな性格に着目し、人は「椎名林檎は(気まぐれそうなの)ネコみたいな女性だ」というような話法を使ったりします。この時ネコの言葉の使用において、毛むくじゃらであったり三角耳であったりすることも必須ではなくなり、ネコのメンタルモデルは更に拡張します。

一方、元来の動物のネコについて、遺伝子でネコか否かが判別できるようになります。そうするとスフィンクスなど一見普通のネコとはだいぶかけ離れたルックスの無毛の動物も、実はネコだったということが判明したりします。
これにより、ネコのメンタルモデルは更に複雑に拡張します。

もはやこうなると、ネコという言葉が使われる際に必ず共通する、必須要素のようなものはなく、ネコのメンタルモデルは、ネコという言葉に付随するたくさんのイメージや意味がネットワーク上に緩やかに繋がっているようなものになります。

異なる複数のメンタルモデルに、共通のイメージや意味がある場合があります。例えばビールには「止渇」「気分を切り替える」「酔っぱらう」「盛り上がる」などの意味がありますが、「止渇」は例えば果物と、「気分の切り替え」は例えば(部品の)スイッチと、「酔っぱらう」は他の酒類と、「盛り上がる」は例えば祭りやイベントと共通する意味ですよね。このように「あるメンタルモデルが他のどんなメンタルモデルと似ているか」と考えることは「どのような競合とビジネスをするのか」や「どのような切り口で差別性を構築するのか」といった問いに答えるのに役立ちます。
また顧客の意見を聞いているときに、顧客がブランドや製品・サービスを、他のどんなものと似ていると感じているかを探っていくことは、彼女・彼が自社製品のどのような点に着目しているかを探ることができ、インサイトを言語化するための補助線になるばかりでなく、無理矢理な言語化によるミスリードを回避する方法にもなると思います。

また、ヤングの名著「アイデアの作り方」では、すべてのアイデアは既存のアイデアの組み合わせである、と喝破されていますが、これは言い換えると、すべてのアイデアは既存のメンタルモデルの組み合わせである、ということになります。
例えば「ネコ」と「カフェ」という2つのメンタルモデルを合成して、「猫カフェ」という新しいメンタルモデルを作ることができます。
「猫カフェ」という名前は大きく(1)となりのトトロに出てくる「猫バス」のように猫のシェイプをしているカフェ(2)猫が飼われており、その猫たちと遊べるカフェ(3)猫を連れて行けるカフェなどの意味を持ち得、それぞれの意味によって準備・提供すべきサービスはずいぶん異なって来ますが、現存の猫カフェは(2)の意味とともに、飲み物を楽しむというよりはネコと戯れる場所になっています。
製品開発にしろ、コミュニケーション開発にしろ「コンセプトを創る」ことが出発点になる訳ですが、そのコンセプト創りはメンタルモデルの足し算と考えれば、技術的に、効率よく行うことができるのではないか、と考えます。

以上、本稿ではマーケティングの全体構造の第一回として、仕事のOSのうち「メンタルモデルを操る」について説明してみました。いかがでしたでしょうか?

最後に少しだけ。

アカデミアやマーケターの間で、マーケティングの定義が論争になることがあります。また、マーケター同士で話をする中で、同じマーケティングという言葉がかなり違う意味を指していて驚くことも、珍しいことではありません。
それを憂う向きもあるのですが、私は他の言葉と同様に、マーケティングのメンタルモデル(の意味)も進化すると考えており、いろいろな解釈が併存することはマーケティングが進化する余地が大きいことの証左であると好ましく思っています。

読者の皆さんは、いかがお考えでしょうか?

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富永朋信(プロフェッショナルマーケター・「幸せをつかむ戦略」著者)
9つの事業会社でマーケティングやってきました。うち、西友、ドミノ・ピザなど4社でCMO。現在は株式会社Preferred Networksの執行役員CMO、イトーヨーカ堂・セルム顧問、日経XTrendアドバイザリーボード、厚生労働省年金局広報検討委員、内閣政府広報アドバイザー等。