『診療中!こどもネタクリニック』から考える共創のありよう
ゴールデンウィークはどこに遊びに行こうかなと考えていた矢先に、子どもが運悪くコロナ陽性となってしまい、どこにも行けずに自宅療養している臼井です。
行きたかったのは、ミッドタウンで開催中のPLAY EARTH PARK。5名の建築家たちがデザインした遊具を見に行ってみたかったのですが、会期はまだ続くので、引き続き楽しみにします。
さて、自宅療養中、なんだかぼーっとしてしまい、Eテレを子どもたちとのんびり眺めていると、意外な発見がありました。今日はEテレのとある番組をヒントに考えた「共創」のありようについて書いていきます。
多様な価値観を持つ人との「共創」の重要性
複雑性を増す現代の社会においては、多様な価値観を持つ人同士の「共創」をいかにして実践するかが重要な課題になっています。特定の専門性を持つ人だけで商品やサービス、政策を決めてしまうのではなく、多様な声を交わらせ、共に作り出していくことが必要です。
経済産業省においても、官僚と美大生が共にアイディエーションを行うなど、民間企業だけでなく、国や地方自治体でもこの考え方は取り入れられています。
『診療中!こどもネタクリニック』
そんな「共創」のヒントとして、偶然見かけたのはこちらの番組でした。
おいでやすこが、ロッチといった人気の芸人が登場し、ネタを披露します。その披露されたネタに対して、子どもたちがフィードバックをします。
フィードバックの仕方として、まずはネタの感想を「おもしろさ」「キャラクター」「テクニック」「マネしてみたい」「もう一回みたい」という5項目のレーダーチャートで提示します。その隣に「よいところ」「わるいところ」を書き出します。
いいところのはずが、「わるいところ」として評価される?
この時、芸人たちが笑いの仕掛けとして考えてきたところを「わるいところ」に書き出し、そこを変えさせて行くところがこの番組の見どころの一つでしょう。おいでやすこがの小田さんに「声が大きすぎる」と書いたり、ロッチのネタに「ボケとツッコミを入れ替えた方がいい」と書いたり、驚きの指摘が入ってきます。
この「こどもドクター」からの辛辣で忖度のないフィードバックのクッションになるのがパンサー向井演じる助手とよゐこ濱口演じる先生。子どもたちの意見を回収し、まとめて、芸人に変更点として伝えます。
その後、子どもたちのフィードバックを受けて変更したネタを芸人たちが披露します。元々のネタが崩れて、子どもたちは大爆笑し、番組は終了します。
子どもの意見で崩れたネタが見どころ
ぼくがこの番組で面白いなぁと思ったのは、芸人たちが組み立ててきた笑いのロジックを子どもたちがフィードバックで崩し、できあがったネタが崩れきっているところです。
元ネタとこどもがフィードバックしたネタの両方を見るからこそ笑えるものが出来上がっています。
これはこれで、子どもと芸人の一つの「共創」であるとも言えそうです。しかし、子どもの意見だけが一方的に反映され、芸人たちのこだわってきた部分が削られているようにも思えます。
本当の共創は、お互いのこだわりをぶつけ合うところで生まれる
この番組では、子どもドクターという形で一方的にフィードバックするため、子どもと芸人の間に非対称性があります。対等ではないのです。
「共創」とは、こうした非対称性を可能な限りなくし、多様な価値観が可能な限り対等にぶつかり合うことで生み出されるものだとぼくは考えています。
このぶつかり合いを、あわよくば見てみたい、と番組を見ながら考えてしまいました。
子どもたちの思いつきの声に対して、芸人が自分達のネタに込めたこだわりを伝え、意見を戦わせてみてほしい。子どもたちと芸人が一緒になって納得解を探り合ってみると、どんなネタが出来上がるのでしょうか。見てみたいと思います。
ワークショップの4原則
ワークショップデザイン論によれば、ワークショップの4つの基礎原則として「民主性」「協同性」「非日常性」「実験性」があります。
民主性とは、特定の誰かの意見が力を持たないこと。協同性とは、協力しないと解けない課題に取り組むことです。
子どもと芸人が民主的、協同的にネタづくりをしたら、そのときには互いのこだわりがぶつかり合うはずです。そうなったときに、この番組はこどもからのフィードバックに終わらず、子どもと芸人が笑いを共創する番組へと変わっていくのではないでしょうか。
ワークショップの設計を生業としてきたぼくとしては、特別編としてガチ議論してみる、という展開を期待してしまいます。
余談ですが、巡り巡って、最初に書いたPLAY EARTH PARKもまだ未見ですが、それが子どもに"向けて"作られた遊具なのか、子どもと"共に"作ろうとしている遊具なのか、そこが見どころだとぼくは感じています。