アメリカの産業政策変更がスタートアップに大きな影響を与える可能性について
歴史的なアメリカの産業政策転換
アメリカの産業政策が大企業の活動を抑制する方向に大きく転換するという。M&Aをはじめ様々な手法でアメリカの大企業が独占や寡占の傾向を強めることに対し、政府の規制が入ることになりそうだ。
記事でいう大企業には、もちろんGAFAM(Facebook はMetaと社名を変更したが、ここでは便宜上GAFAMとしておく)のようなアメリカの IT 系大手企業も含まれ、各社の動きも大きく制約を受けることになりそうだ。
もともと、米IT大手の独占・寡占の傾向はアメリカに限らず世界中で問題視され、例えばヨーロッパでGDPR が制定されたのも、こうしたGAFAMによるデータ独占への強い懸念が背景の一つにあったと考えるべきだろう。
こうした懸念が今回、アメリカ以外の国だけでなくアメリカ国内でも問題にされ、バイデン政権が企業活動について牽制球を投げる形の政策を決定したということだろう。これは単にバイデン政権・民主党の意向だけではなく、記事によれば共和党の基本的な同意もあるとのことだ。仮に次の大統領選でバイデン政権が交代になったとしても、この大きな流れは変わらないという理解なのだろう。
この政策が実施された時に、いくつかスタートアップの活動において気にしておかなければいけないことがある。特に、大企業によるM&Aという出口(EXIT)戦略と、オープンイノベーションの2点だ。
M&Aという出口(EXIT)戦略が取りにくくなる?
一つ目は、スタートアップが最終的に大企業に M & A されることによってエグジットするという道が難しくなる可能性がある。スタートアップの中には当初から大企業に買収されることを想定して活動を行っているところもある。こうしたスタートアップの場合、今回のアメリカの産業政策の変更は出口戦略にも影響を及ぼす可能性があるだろう。
大企業の寡占的な傾向を問題視する傾向は、アメリカに限らず世界中で起きていることを考えると、アメリカの産業政策の変更が他国の政策にも影響を及ぼす可能性はある。そうなるとアメリカ以外の大企業の M & A によってエグジットするという出口戦略もまた、描くことが難しくなる可能性があるのではないか。
大企業とのオープンイノベーションへの影響は?
仮にM&Aによる出口戦略がふさがれたとしても、アメリカの場合にはVCをはじめとした投資家側に大きな資金があり、大企業の資金を頼らなくてもエグジットしていくことが他国に比べれば容易と考えられる。いわゆるユニコーンと呼ばれるようなスタートアップに関しては、大企業の M & A を期待せずともエグジットすることが可能だろう。
一方で、アメリカ以外の国では、アメリカに比べればスタートアップに対して投じる十分な資金を VC などが保有しているとは言い難い。そうなると必然的に大企業のもつ資金によってエグジットすること、また大企業と組むことによってオープンイノベーションを推進し事業を成長させていくことが現実解となる。
ところが、記事にもある通り協業すら認められないといった状況が起きた場合、いわゆるオープンイノベーションによる事業成長というシナリオが描きにくくなる。つまり単に資金調達の面だけでなく、スタートアップ自身の事業によって利益を得る面でも大企業の力を借りにくくなることにならないかという懸念がある。
今後の動向を見守っていく必要
いずれにしてもまだ具体的な施策の実施による事例が出てくる前ではあるので状況を注視していきたいが、この産業政策の変更がスタートアップにとっても少なからぬ影響を与える可能性があること、特に出口戦略やオープンイノベーションの点で大きな軌道修正をスタートアップ側が迫られる可能性については、注意深く状況を見守っていきたい。