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「マイクロアグレッション」とは何か?

「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」という言葉は、一般に次第に認知されるようになってきました。

日本労働組合連合会の説明では、以下のように書かれています。

アンコンシャス・バイアスは、「無意識の思い込み、偏見」と訳され、誰かと話すときや接するときに、これまでに経験したことや、見聞きしたことに照らし合わせて、「この人は○○だからこうだろう」「ふつう○○だからこうだろう」というように、あらゆるものを「自分なりに解釈する」という脳の機能によって引き起こされるものです。

人種や国籍や出身地、ジェンダーや性的指向のほかに、学歴や外見、結婚など、さまざまなカテゴリーでの「無意識の偏見」が語られています。企業・組織においては、たとえば、外国人労働者への「無意識の偏見」を取り除くことが課題とされています。

「無意識の偏見」の曖昧さ

ぼくは、この無意識の偏見は人間の学習の課題であるととらえ、リサーチを続けています。

しかし、さまざまな書籍や文献をリサーチしていても、「無意識の偏見がいったいなぜ問題なのか」という問いに対して、わかりやすく語られた資料が少ないと感じていました。

「マイクロアグレッション」とは何か

その時であった本が『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション 人種、ジェンダー、性的指向に向けられる無意識の差別』です。

本書では「マイクロアグレッション」を以下のように紹介されています。

ありふれた日常の中にある、ちょっとした言葉や行動や状況であり、意図の有無にかかわらず、特定の人や集団を標的とし、人種、ジェンダー、性的指向、宗教を軽視したり侮辱したりするような、敵意ある否定的な表現のことである(Sue,Capodilupo,et al.,2007)

マイクロアグレッションの例

本書に登場する事例を紹介します。

2008年のアメリカ大統領選挙で、共和党のジョン・マケイン上院議員が、とある政治集会でサポーターから以下のような発言を受けました。

「私はオバマを信用しません。彼はアラブ人だから」

それに対してマケインはこのように言いました。

「いやいや奥さん、彼はれっきとしたアメリカの男ですよ。ただ私とはいくつかの点について意見がちがうだけの、ちゃんとした市民です。彼はアラブ人なんかじゃないですよ!」

さて、この発言の何が問題でしょうか。

一見、マケインが善意に基づいて、政敵であるオバマをかばったシーンに見えます。しかし、この発言にマイクロアグレッションが隠れています。

1つは、アラブ人があることが何か悪いことや間違ったことのようにかたられていること。

2つめに、「れっきとしたアメリカ人」という言葉から、中東やムスリムの人々が「れっきとしていない」というメタメッセージを放つことになること。

こうした言葉が、攻撃の対象となった人々に有害な影響をもたらしていることを、本書は指摘しています。それを受ける人々の精神的健康を害し、うつ病や否定的な感情を増大させ、幸福感を低下させるといいます。

観察可能な事象から定義、認識、分析されるマイクロアグレッション

ほかにも、いくつものマイクロアグレッションの事例が掲載されています。

「私はレイシストじゃないよ、黒人の友達がいるからね」
黒人に向かって「どうしてそんなに君は元気なんだい?」「落ち着きなよ」と言う
女性に年齢を尋ね、31歳だと聞くや否や女性の薬指をチラッと見る

いかがでしょうか。上記のような振る舞いが、なぜ「マイクロアグレッション」なのか、より深く理解したくなります。

「無意識の偏見」は個人の価値観への言及になりますが、「マイクロアグレッション」という概念の重要性は、個人や集団の観察可能な行動・言動・環境のなかに見出されるという点です。

何がマイクロアグレッションなのか、それによって何が問題なのか、私たちには何ができるのか。本書は豊かな知見に溢れた良書です。

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