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トヨタ自動車「ウーブン・シティ」という用語に込められた重要なメッセージとは

トヨタ自動車が富士山麓につくる実証都市「ウーブン・シティ」がついに着工になりました。このプロジェクトは、日本の自動車産業の未来を考えるうえでも非常に重要なプロジェクトになりそうです。

ウーブンというのは聞き慣れない英単語ですが、weave(編む、織る)の過去分詞ですね。直訳すれば「編まれる都市」。記事では「網の目のように道が走る都市と、トヨタのルーツとなる自動織機に由来」と説明されています。

この「網の目」のイメージにトヨタはどこまでの射程を含めているのかはわかりませんが、単に「網の目のように道が走る」だけではない、さらに含みのあるビジョンが込められていると私は感じています。

テック雑誌「Wired」の創刊編集長だったケヴィン・ケリーは、『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』(邦訳はNHK出版、2016年)という刺激的な本で、こう書いています。

「あなたが家に停めてある固体の車は、ウーバーやリフトといったサービスのおかげで、個人向けオンデマンド運輸サービスへと姿を変えている。われわれはいま、フローの時代に入っているのだ」

固体(ハードウェア)である自動車を販売するというビジネスが、ライドシェアや自動運転と融合していけば、公共交通機関的な運輸サービスへと変化していくという指摘です。

ドライバーが不要の自動運転レベル5が実用化されれば、公道を走る自動車の動きはクラウドからのコントロールと、クルマそれぞれのコミュニケーションによって最適化され、渋滞や事故は一気に減るのは間違いありません。

スウェーデンでは、道路にワイヤレス充電を敷設する実証実験がすでに行われており、時速約20kmで走行するEVトラックを充電することに成功しています。この技術も実用化されれば、もはや給油や給電のためにクルマを停止させる必要さえなくなります。無人の完全自動運転車がみずからを充電させながら都市を走りまくり、必要な場所で人を乗せ、目的地で降ろし、近くでまた別の人を乗せ…という無限運転を繰り返していくことになるでしょう。駐車するのは近所にニーズが見当たらないときか、メンテナンスのときのみ。

こういうシステムが実現してくると、人間が運転するクルマが道路に紛れ込んでくるのは、事故や渋滞のリスクを高める不要なノイズでしかありません。将来的には人の運転はサーキットのような専用道路での趣味的な遊びになり、クルマの私有という概念も薄れていくことになるでしょう。

このような交通システムで必要になってくるのは、クルマの運行をどう全体最適化するか。「巡回セールスマン問題」という有名な数学の課題があります。立ち寄り先が複数あった場合に、それぞれの地点に一度ずつ立ち寄って出発地に戻ってくる最短のルートを計算するというものです。

立ち寄り先が増えれば増えるほどルートの組み合わせは急増し、20か所を超えるとルート数は兆の単位、30か所になれば京×京ほどの数になるそうです。人間の手では計算不能で、単純計算させるだけならスーパーコンピューターの手にも余るでしょう。しかしこの巡回セールスマン問題は、深層学習のアプローチによる解法がすでに提示されています。

東京のような大都市では、いまどこかに向かおうとしている人たちがつねに何十万人、何百万人と存在します。自動車も400万台以上存在しています。しかしマイカーの稼働率はわずか1割程度と言われ、大半のクルマは駐車場でただ眠っているだけ。これらが将来、そのまま完全自動のEVに置き換えられるとすれば、人の移動はずっと楽になるでしょう。そしてそのときに必要になってくるのは、何百万人もの人の求めに応じて、何百万台ものクルマを自在に動かしていくシステムであり、まさに巡回セールスマン問題をリアルタイムで解いていくような高性能なシステムなのです。

言い換えれば、このようなシステムを作りえた企業こそが未来の自動車産業(という呼び名さえ変わっているかもしれませんが)の盟主となることでしょう。そのシステムのなかでは、自動車という固体はもはや端末でしかありません。システムの本質は端末ではなく、無数の端末とクラウドやエッジのコンピューターが織りなす、大きな網の目のようなネットワークそのものなのです。

そう考えれば、トヨタのウーブン・シティ(編まれた都市)ということばの持つ意味が実に大きなものであるということがおわかりいただけるのではないかと思います。


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