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新型コロナ自宅療養者の管理体制構築に開業医はもっと積極的に協力すべき

 政府は新型コロナウイルスの入院対象を重症者や重症化リスクがある人を中心に絞る方針を示しました。それでは中等症者は入院ができないのでしょうか?自宅療養している軽症者の症状が悪化した場合はどうしたら良いのでしょうか?

グローバルヘルスケアクリニック(東京・千代田)の水野泰孝院長は「自宅療養中に症状が悪化する可能性もあり、地域の医師会が保健所と協力して患者の健康管理にあたる必要がある」と指摘する。「地域の医師会に号令をかける意味でも、日本医師会が積極的な支援策を打ち出すべきだ」と語った。

 8/3に日本経済新聞から取材を受け、この記事に対するコメントをさせていただきました。私は新型コロナが日本で確認された昨年1月から積極的に患者さんの診療を行ってきました。実際に私のところでPCR検査が検査会社に依頼可能になったのは昨年の連休明けでしたので、それまでは保健所にお願いしないとどんなに疑わしい患者であっても、自身で管理をしなければなりませんでした。今年になってから感染症の専門ではない医師でもある程度は容易にPCR検査ができるようになりましたが、検査が陽性になっても詳細な説明が受けられておらず、不安になった患者さんが私のところに相談してくる事例は絶えません。また現在のように保健所業務が逼迫した状況では、患者さんから保健所に連絡しても電話が通じない事態も日常的であると伺います。新型コロナと診断された患者さんの症状に応じて必要であれば入院の措置をとることができるのであれば、24時間体制での感染管理や必要に応じて医師や看護師からの説明が受けられ、万が一経過中に症状が悪化した場合でもすぐに対応が可能ですので、患者さんにとってはいくらかの安心感も生まれるのではないでしょうか。

 しかし、今回の方針には大きな疑問を持たざるを得ません。そもそも「軽症」「中等症」「重症」の分類ですが、我々医療者が考えるものと皆様が考えるものとでかなりの乖離があるのではないかと考えています。

「軽症」=「かぜ症状・微熱・寝ていればよくなる」等、中等症=「高熱が続く・せき込んで苦しい時がある・だるくてしんどい」等、重症=「酸素投与が必要・入院が必要」等と思われている方、いませんでしょうか? 

実際には「軽症」=「酸素吸入を必要としない」ということで「高熱が数日続く・辛くて受診も困難・息苦しい・咳がひどくて眠れない」等でも軽症者です。特に「高熱で咳がひどくて眠れない」ような患者さんはおそらく肺炎になっている可能性があり入院が必要です。でも軽症者なのです。

 外来を受診する新型コロナ疑いの患者さんは皆さん自力で来られます(自力でなければ救急車で救急病院に運ばれます)。すわなちどんなに高熱が続いてもほぼ全員が軽症者なわけです。診察して検査が陽性であり呼吸器症状があれば精査をするためにも入院の適応とすべきなのですが、今はこれがきわめて難しいのです。このような状況で自宅療養となった患者さんが経過中に症状が悪化する事例は少なくありません。

 私の職場がある千代田区は自宅療養の患者さんの診療体制強化のために医師会や医療機関と連携し、保健所が診療が必要と判断した患者に電話やオンラインでの診療、往診にあたる方針を打ち出しました。

区医師会の19診療所が当番制で診療にあたる。保健所が健康観察している患者が体調悪化や不安の訴えた場合、診療所に連絡して診療してもらう。診療結果に応じて酸素濃縮機を処方したり、外来診療をする区内の東京逓信病院と三楽病院に救急搬送したりする。これまでは、健康観察で診療が必要と判断されても、一部の医療機関が個別に対応するにとどまっていた。

 上述のとおり私のところは新型コロナが区内で初めて確認(当院です)
されてから既に1年半以上も個別に対応している
のです。正直なところ「いまさら感」は否めませんが、やはり地域の医療体制を維持するためには「市区町村」「保健所」「医師会」の3本柱が一体となって自宅療養者の管理体制を構築しなければなりませんし、その中心となるのは患者さんを診療する「医師会」にほかなりません。

 本件はマスコミでも取り上げられたようで先進的なようにも感じられますが、区医師会は「千代田区医師会」と「神田医師会」の2つがあり、会員は合わせて400名近くいるにもかかわらず、手上げをしたのは「区医師会の19診療所」のみであるのは尽力している側からすれば「たったそれだけなの?」というのが正直な感想です。

 上記の引用に関し、本来ならば「診療所が健康観察している患者が体調悪化や不安の訴えた場合、保健所に連絡して入院診療をする区内の東京逓信病院と三楽病院に救急搬送したりする」ではないでしょうか?保健所と診療所の立ち位置が逆ではないですか?以上を踏まえて最後にもう一度。

グローバルヘルスケアクリニック(東京・千代田)の水野泰孝院長は「自宅療養中に症状が悪化する可能性もあり、地域の医師会が保健所と協力して患者の健康管理にあたる必要がある」と指摘する。「地域の医師会に号令をかける意味でも、日本医師会が積極的な支援策を打ち出すべきだ」と語った。

#日経COMEMO #NIKKEI

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