ふたたびローカリゼーションを語ろう
ここ1-2年、ローカリゼーションを面白いと言う人が増えてきました。2011年に出した『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?』を今読んで、「ローカリゼーションから学ぶべきことは多い」と言ってくれるのです。
これは風向きが変わってきたなあ、と感じます。
本を出版した当時、その内容を深く理解してくださる方たちも多くいましたが、「ローカリゼーションって、正直言うと、つまらないよね。どこの市場でも同じ仕様で出せるのが優先順位として高く、どうしても無理な場合に対応するって感じだよね」とコメントする方も多かったのです。
そういう人たちはイノベーティブな均一商品で市場を席捲することがえらく、ローカリゼーションを小手先のテクニックと見なしていたのでしょう。ローカリゼーションに予算を使うのは敗北だとばかり、頭には「グローバル市場制覇」という文字がぴったりと貼りついていたのです。
そこでぼくは、スマホひとつとっても、ハードのプラットフォーム、アプリ、コンテンツと順を追ってローカル性が高くなる現実を見るよう話したものです。あるいはグローバル市場がフラットであるとは幻想であり、ローカルごとの文化を把握する大切さを強調しました。だいたい、グローバル市場に同じ商品を出し尽くせる企業など世界で一握りもないわけですから。
その際のキーワードは「コンテクスト」でした。商品はコンテクストによって受容度が違ってくるので、どこまでコンテクストを読み切れるか、またはどこまでコンテクストをデザインできるか、です。
しかし、「コンテクストって何ですか?文脈?分かったような、分からないような・・・しっくりこないなあ。そんなの把握できるものですか?」という反応が典型的でした。
もちろん、ことの重要性を理解し社内で動きまわってくれる人たちもいたわけですが、要は社内での壁がとても高かったというわけです。
ぼくがローカリゼーションにビジネスとして本格的に取り組むようになったのは2000年代の前半です。電子デバイスのユーザーインターフェース、特にカーナビの欧州市場向けローカリゼーションに関与したのが最初ですが、欧州人と日本人では地理把握の仕方が違うことをよく説明しました。その一例が、2008年に出版した『ヨーロッパの目 日本の目』に掲載した上の地図です。
この地図は欧州人の描く地図として必ずしも一般的ではないですが、これをみて欧州人が「変な地図を書くやつだなあ」とは言いません。しかし、日本の方はびっくりします。「こんな考え方をするんだ!」と。それで、こういう地理把握の差異を踏まえてカーナビのデザインを考えないと、ドライバーに余計なストレスがかかり事故の原因を作りますよ・・・と説いて回ったのです。
人間工学的なチェックだけでなく、認知科学の側面から異文化を理解しないといけない時代が到来しているにも関わらず、その点に気づいていない商品企画やクリエイティブ部門の人が多かった。これが2000年代前半のありようでした。その後のカーナビの世界の展開はみなさん、ご存知の通りです。
一方、ローカリゼーションがローカル文化の尊重などの流れから語られだしたのは、2000年後半からだと認識しています。特に2010年以降ではないでしょうか。正確なデータはありませんが、「グローバルが実はフラットではない」との認識が日本の一般のビジネスパーソンにも広まりはじめたのは、マルちゃんの本が出て数年経った頃だと考えています。
ぼくは当初、この地方経済圏や地方文化のテーマと自分が認識しているローカリゼーションは「別物」という意識がありました。地方独自の製品を海外市場に出す、というシーンでのローカリゼーションまでがぼくの守備範囲だと。だが、世界のどこでも地方文化の再評価というレベルと各国での内向的な政治の動きというレベルの二つがほぼ同時に加速化し、一挙にローカリゼーションが交差するポイントが多発してきます。
そして、もうひとつ。「問題はコンテクストだよね」との話題がこの何年かで定着してきます。今、「コンテクストって何?日本語じゃないとだめ」という人が圧倒的に減りました。言わば、データから導き出された数字だけでは「一人旅に出せない」との見方が強まったのでしょう。
2019年の今、以上のような経緯のもと、ぼくはミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』で提唱している意味のイノベーションのエバンジェリストをやりながら、ローカリゼーションと意味のイノベーションを統合して説明できるようにしたいと考えています。
*冒頭の写真は1971年、オリヴェロ・トスカーニが『ヴォーグ・ウオーモ』に掲載したものです。長髪の男女に同じスーツを着せ、前と後ろから撮影したのですが、これはファッションのユニセックス化のマニフェスト的存在です。
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