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2013年から始まった資本市場改革の影響を検証する 〜なぜ新しい株価指数を作ることが経営者の行動を変えるのか?〜

 世界では、資本市場をより良く変えていこうと、様々な制度変更が行われつつあります。特に、変化が著しいのがESG投資の枠組みです。SDGsという持続可能な社会を作るための目標が掲げられたことで、その目標を達成するための手段であるESG投資の重要性が注目されています。ESG投資とは、ざっくり言うと環境・社会・ガバナンスに配慮した社会に優しい企業に投資をしていきましょうというものです。下記の記事にある通り、ローマ教皇も後押しするなど、ESG投資周りの制度設計の議論が活発になっています。

しかし、こちらの記事にもある通り、「それ、本当にESG投資?顧客から手数料を取るためだけに、社会に優しいを売りにした金融商品じゃない?大丈夫?」なんて出来事が起きつつあります。ESG投資ムーブメントが、株主、そして社会のあらゆるステークホルダーにポジティブな影響を生み出すツールになるために、効果検証をすることが必須です。同時に、過去を振り返ることも重要です。今回は、2013年に行われた資本市場改革の効果検証研究を紹介し、ESG投資をブームで終わらせないためには何が必要かを考えます。また、ビジネスでも応用できる効果検証メソッドをお伝えします。

2013年から行われた資本市場改革とは?

 日本の上場企業の収益性や資本効率の低さ、特にROEの低さが、世界からも問題視されていました。ROEが低いということは、株主利益に資すらない経営をしている可能性があり、投資家から魅力的な投資先と認めてもらえない可能性が出てきます(もちろんROE至上主義は企業経営の体力を削ぎかねないので、ROEだけが向上したらよいものではありません)。そのため、2013年から行われた安倍晋三前首相の「アベノミクス」政策で、資本市場改革という名の、上場企業のROE向上策が打ち出されました。その流れから、上場企業の行動変容を促すために実行された施策が、高収益な上場企業で構成された株価指数の組成であり、JPX日経400という指数が2014年に創られました。

なぜ株価指数を作ると、上場企業の行動変容が促されるのか?

 しかし、なぜ新しい株価指数を作ることが上場企業の行動変容に繋がるのでしょうか?考えられる主要な経路は2つあります。一つ目は、株価指数に連動する運用が世界中の機関投資家の手で行われおり、メジャーな株価指数に組み込まれた企業は世界中の機関投資家が株を購入してくれます。つまり、株への買い需要が高まり、株価が安定する可能性があるのです。二つ目は、下記の論文が占めている「指数に組み込まれなかったことの恥」を回避したいという動機付けです。

『Akash Chattop, Matthew D.Shaffer and Charles C.Y.Wang, "Governance through shame and aspiration: Index creation and corporate behavior", Journal of Financial Economics, Volume 135, Issue 3, March 2020, Pages 704-724』


 JPX日経400は、東証に上場している企業の中で、収益性、資本効率、そしてコーポレート・ガバナンスの観点から最も優れたパフォーマンスを示す、大規模で流動性の高い日本企業400社を組み込んだ指数とされています。つまり、この指数に組み込まれない上場大企業は、「JPX日経400に組み込まれないということは、優良企業と認定されていない見なされるかもしれない!資本効率を上げるために行動しなくては!」と考えて、恥を回避するために行動変容が促される可能性があるのです。 

 上述の学術研究では、JPX日経400が組成されたことで、上場企業の行動変容が促されたかを、DIDという方法で検証しています。まず、JPX日経400に組み込まれた企業の特性を分析します。その特性により、JPX日経400に組み込まれても不思議ではなかった上場企業を抽出します。前者をトリートメント群、後者をコントロール群と呼びます。JPX日経400の組成前後で、この二つの群を比較して明確な行動変容が起きていたのかを検証しています。その結果、JPX日経400の存在により、上場企業の中で、ROEを競い合うように向上させていたことが確認されました。つまり、上場企業の行動変容に成功していたのです!しかし、本末転倒なことに、ROEを短期的に向上させるために研究開発費(R&D)など、中長期でROEを上げるために必要な経費を削ってROEを向上させる企業が多かったようです。

 こうした、過去の資本市場改革の回顧を、今のESG投資ムーブメントに活かすには何が必要か…。やはり、形式的な物ばかりがフォーカスされると、一時的でも上場企業の行動が短期目線に陥りかねないことがあるでしょう。今、ESGスコアリングのための格付け会社が乱立している状況であり、ESG投資のための情報開示の義務化が議論されています。一時的には、ESGスコア狙いの企業行動や、ESGと謡うなんちゃって金融商品も増える可能性があります。投資家としても、ビジネスパーソンとしても、一時的なムーブメントに左右されないために、各上場企業に対しての情報精査が必要になりそうです。


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崔真淑(さいますみ)

*画像が、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)より抜粋。無断転載はお控えください♪


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