見出し画像

アート思考度がわかる? 「着想」入門ドリル

お疲れさまです。uni'que若宮です。

今日はちょっといつもと趣向を変えてお送りします。ドリル形式で3問ほど簡単な問題を出しますので、できればお手元に紙とペンをご用意いただいてから読み進めてください。

2枚のカード

1問目です。まず、下の図をご覧ください。

【問題1】
テーブルの上に青と白の2枚のカードがあります。青、白のカードはそれぞれどんな形をしているでしょうか?

それほど難しい問題ではないと思いますので白いカードと青いカードの形をそれぞれ想像して紙に描いてみてください。そして描いたら、スクロールをして解答に進んでください。




(解答はこちら)




【解答例】

さて、あなたはどんなカードの形を描いたでしょうか?

ちなみに、企業の研修やワークショップなどでこの問題を試すと、一番多いのは①で、ほぼ9割くらいの人が答えます。

ここには”2つの思い込み”が影響しています。

1つ目は、(1)カードはおそらく何か規則性のある形である、という思い込みです。
このような「重なり」問題は脳科学的にも研究がされていたりしますが、人はこのように一部を隠されている(と思われる)図形を目にすると、他に見えている部分の特徴から規則性を見出し、そこから類推して対称性のある図形を想像してしまいがちです。(他の3つの角が角丸なので同じような角丸だろう、と)

もう1つの思い込みは、(2)青色のカードが上に乗っている、という思い込みです。
一方の図形が濃い遮蔽的な色をしていて、かつ対称性がより強い形(この場合は真円)をみると、我々はなんとなくそちらの図形は遮蔽されていず、もう一方の図形の「上に乗って」遮蔽している、と決めつけてしまいます。

しかし、実際にはこの2つのカードは上下に重なっていないかもしれません
③のように同一平面上でパズルのように組み合わされているだけの可能性もありますし、それどころか、④のように白色のカードの方が上で、青色の一部が下に隠れていた、というケースだってありえます。

ここで問題1の図に戻ってみましょう。それをみながら、①だけではなく、②、③、④のようなパターンなのだ、と想像してみることはできますか?

最初に図を見た時にはおそらくあまり疑問も持たず「直感的に」2枚のカードの存在を受け入れ、それらの形や上下関係について悩んでしまうようなことはなかったでしょう。

しかしたとえば②のように、白のカードが隠されているとしてもそこにはどんな形だってありうるのです。もしかしたらその角だけぱっつりと直角かもしれないし、まったく異なる図形の部分かもしれません。舌を出したアインシュタインが隠れている可能性だってあるでしょう。
それどころか、③、④のように上下の位置についても色々な可能性があるわけで、白のカードはもしかしたら青のカードより10mも上方にあって、大きさも全然ちがうかもしれません。このように想像力を働かせると実は無限のパターンがこの図からでもありうるのですが、通常そのような想像力はほとんど封印されているのです。

2点を結ぶ線

次の問題はこちらです。ここにAとBの2つの点があります。

【問題2】
点A, Bをむすぶ最も”短い”線を引きなさい

点Aから線を引いてみたら、先に進んでください。


これは簡単に解くことができたでしょうか?

多くの人が正解したであろうとおり、点Aと点Bを直線で結んだものがもっとも短い線ということになります。(1問目がちょっと意地悪な問題だったので、色々考えすぎた方もいるかもしれませんね)

では、第3問です。と、いっても図は先ほどと一緒。

【問題3】
点A, Bをむすぶ最も”長い”線を引きなさい

変わったのはたった一言、"短い"→"長い"という部分だけです。簡単ですね

点Aから点Bへ向かう線はどんな線の引き方になるか、ちょっと考えてみてください。



実は、この問題は解くことができません

なぜなら、最も”長い”という条件には限りがないからです。

点Aと点Bを結ぶ長い線の引き方にはあらゆる可能性があります。もし、一意にこれの解答を決めようとすれば、「ただし、線は同じ箇所を通ってはならない」とか、「紙をはみ出さずに」とか「ペンのインクが10mlだとして」あるいは「5分以内で描ける線では」などのように、なにか追加の限定条件が必要になります。

不良設定問題と無限定環境

このように、一意には解けない問題を「不良設定問題ill-posed problem」と呼びます。要は、条件が不十分なので解が定まらず、無限に解が存在してしまうのです。

いやいや、そんなのずるい、わざわざありえない問題つくるからじゃん、と思わるかもしれませんが、問題1の「重なり」による遮蔽問題や立体視の問題など、不良設定問題は人間の知覚においても常に発生しているのです。

人工知能の抱えている問題のほとんどはこの不良設定問題である。たとえば画像理解において二次元画像から三次元物体の情報を復元することを考えれば、復元の仕方は無限にあり、そのままでは一意に復元できない。

いま、AIの研究や脳科学ではこういう不良設定問題を人間の脳がどのように解決しているのか、ということが研究されていたりします。その解決は、何か制約条件を付与することです。↑の解説ではヒューリスティクスが挙げられています。

[ヒューリスティクス]
常に成り立つとは限らないが多くの場合に有効となる経験的知識のこと。発見的知識とか発見的手法と訳される。たとえば「夕焼けの翌日は晴れる」とか「頭痛がしてせきが出れば風邪をひいている」とかの知識は典型的なヒューリスティックスである。

実はこれは「論理的」な条件や厳密な意味での「因果」ではありません。「たまたま」の連想にすぎないのです。サイコロの出た目の統計をいくら取ろうと、次の目を当てることができないように、厳密にいうとわかりません。

さらに自然や人間の問題を使う場合には事態は複雑です。なぜなら観察の主体も対象も変化していってしまうからです。これを無限定環境と言います。ちょうざっくりいうと「どんなことになるか分かんない環境」ということです。

ヒューリスティクスという「前もこうだったんで」という判断は、変化しない環境であればある程度正答率も高いかもしれませんが「正解」ではなく、かつ環境が変化する中ではむしろミスリードになってしまうことがあります。

「つくりだす」ことの怖さと楽しさ

今回のドリルで、みなさんに改めて考えて頂きたかったことは以下の2つです。

(1)世の中のことは実は不良設定問題であり、そこには無限の可能性がある。
(2)その上で、何らかの解をえるためには、新しい制約を創り出す必要がある。

アート思考において、まず大事なのは「なんとなくこう、とか前もこうだった、という常識」の枠組みを取っ払うことです。

そうして事象と立ち会ってみると、問題3で「最も”長い”線」を書こうとして戸惑ったように、実はそこには「正解」はなく、ただ無限の可能性があることに気づきます。
とはいえ本当に「無限」の可能性を感じるのは、それほど簡単ではありません。たとえば実はこの問題、"短い"以外の形容詞ならほとんどが不良設定問題となります。そういう意味では問題文は"美しい"線とか"かっこいい"線でもよかったわけですが、そうしなかったのにはわけがあります。

たとえば"美しい"とか"かっこいい"と問題を出すと、前者は緩やかな曲線を描く人が増え、後者はシャキッとした直線を描く人が増えます。これらも不良設定問題ではありますが、可能性がすでに既存の価値観の中に閉じてしまうのです。問題1で①の回答が多くなるように、刷り込みに引っ張られてしまいます。

なので今回はあえて意味性の最も薄い問いの出し方をしました。もっとも"長い"線と言われると、イメージが結べず、点Aからどっちに描き出したらいいか、そこで止まってしまう人もいます。それもそのはず、解けない問題なのです。

アーティストは自分の作品をつくろうとした時、しばしばこのような無限の可能性の怖さに立ち会います。

そしてその上で、次のステップにすすむのです。

それは、無限の可能性を前にして、「自ら制約を新しくつくりだす」ということです。先程述べたように、不良設定問題はそのままで解くことは出来ませんが、われわれ人間はなんらかそこに自ら制約をつけてそれを「良設定問題」化し、日々を生きています。問題1のような対称性の類推やヒューリスティクスがそれです。しかし、一方でそれは「常識」に囚われたり思考停止によって自由な発想ができない壁にもなります。

アーティストは、既存の枠組みを一度外し、不良設定問題たる「なまの世界」と向き合い、その上で自ら制約をつくり出すことでユニークな作品を生み出します

それと同じく、まずは既存の制約を外して無限の可能性に立ち合い、その混沌の中に想像力の羽ばたかせつつ、自ら制約をつくる(理由を説明できないような「偏愛」や「違和感」がその導きの糸になります)ことによって新しい着想を生むのがアート思考なモードなのです。

今回のドリルを解いてみていかがでしたか?

問題1で色々なパターンを想像できたひとや問題3のような答えのない問題にも自分なりに答えることが出来た人は、アート思考度が高いと言えます。そうではない人は少し思考が凝り固まって「常識」に囚われているようです。想像力をもう少し解放してみてはいかがでしょうか?

ーーー

今回はあくまでアート思考の「着想」の入口を感じていただくためのドリルでしたが、より詳しく知りたい方は、いま東京都のStartup Hub Tokyo主催で「起業したいひとのためのアートシンキング」という連続イベントの講師をしていますので、より詳しく知りたい方はそちらもどうぞ。

次回は11/3。講義のあとで注目のアート起業家、アート作品の共同保有プラットフォーム・ANDART(アンドアート)の松園詩織さんもゲストに迎え、ユニークな事業アイディアの着想についてクロストークも予定しています↓


https://startup-station.jp/eventseminar/TAA0103?event_id=E000100376

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?