日銀短観(9月調査)に思うこと~業況よりも気になる業績そして投資計画~
業況よりも業績が心配
東京証券取引所のシステム障害並びに終日取引停止に隠れてしまいましたが、10月1日には日銀短観(9月調査)が発表されました。目線が逸れてしまった感じもあるので、ちょっと本欄で詳しく見てみようと思います。短観と言えば、メディアのヘッドラインになるのは大企業・製造業の業況判断DIです。今回はこれが2017年12月以来、11四半期ぶりの改善を示したことが大きく取り上げられており、前向きな報道が目立つ印象です:
しかし、企業業績関連の計数を見ると印象も異なってきます。例えば売上高(全規模・全産業、以下同)を見てみますと、前年度比▲6.6%と6月調査から3%ほど下方修正されています。経常利益の場合はさらに大きな変化となっており、同▲28.5%と6月調査からの修正率が1割を超えています。過去3か月で業況は改善しているとしても、企業部門が想定外の減収減益環境に未だ置かれていることは留意すべきかと思います。
そもそも業況判断DIが改善しているとは言っても、それは「方向」の話であり、「水準」は未だ壊滅的なものです。例えば大企業・製造業の業況判断DIは今期▲27ですが、これはリーマンショック直後の「悲観の極み」であった2009年9月(▲33)と大して変わらないものです。2020年12月に向けては▲17まで+10ポイントの改善が見込まれていますが、これも2010年3月調査(▲14)まで遡る必要があります。業況判断DIがプラス圏に復帰するにはまだ相当の時間が必要でしょう:
こうした業況判断の「水準」の低さと企業業績の低迷は整合的なものであり、「方向」に着目した報道のヘッドラインだけを読んで楽観視してはなりません。
心配な設備投資計画:9月調査の下方修正は稀
また、設備投資計画も注目です。過去のnoteではコロナショックを受けて家計・企業といった民間部門が消費・投資を控えるようになり、貯蓄過剰状態が進行、これが世界経済の低体温(具体的には低成長・低物価・低金利)を定着させるのではないかとの問題意識を論じたことがあります。それはすなわち「世界経済の日本化」として読み解かれるものです:
短観の設備投資計画はそうした問題意識の先行きを推し量る上で重要な情報と言えるものです。図は2008年度と2009年度、そして2019年度と今年度の設備投資計画についてその推移を見たものです:
2008年9月のリーマンショック発生を受けた設備投資計画の下方修正はじわじわと当期(2008年度)計画に影響を与え、前年度比▲3%の計画が同▲7%という仕上がりに着地しました。2020年度は3月時点で既にコロナショックの機運が蔓延しており、前回6月調査は既に「悲観の極み」を経験した後での計画となるため、今後、「想定外に伴う下方修正」は2008年度に経験したものよりは穏当なもので済む可能性はあります。しかし、年度当初となる3月調査では同+4.3%だったものが、9月調査では同+3.5%と下方修正されています(ちなみに6月の同+6.5%と比較しても下方修正)。
短観の設備投資計画は3月調査の段階では翌年度計画が固まっていないことから控えめな見通しが設定される傾向にあります。その後、中小企業の計画が具現化されるなどに伴って9月調査は上方修正されてくることが多いのです。図に示すように、2004年度以降、9月調査と3月調査を比較して9月調査の方が弱い設備投資計画だったことは今年度を除けばリーマンショック翌年となる2009年度の1回しかありません:
前掲図からも分かるように、その2009年度の設備投資計画は3月調査から前年度割れとなり、減少幅が時と共に拡がっていった経緯があります。不安な思いを抱かせる歴史です。それほどリーマンショックの傷痕が予測不能で読めないものだったということですが、今回はどうでしょうか。それはこれから到来する秋冬の新型コロナウイルスの感染拡大状況次第としか言いようがありませんが、東京五輪の開催可否すら分からない状態も加味すれば、先行きに横たわる不透明感は当時の比ではないような気もします。
少なくとも、これまで本邦企業の設備投資を駆動していたのは人手不足などに伴う省力化投資という側面がありました。しかし、現在の雇用情勢を踏まえれば当面は不要になってくる公算が大きいのではないでしょうか。実際、製造業における生産・営業用設備判断は大幅な過剰に振れたままです。
こうした企業部門を取り巻く状況は程度の差こそ、世界全体に共通して言える話でしょう。結局は前述した世界経済の低体温(具体的には低成長・低物価・低金利)化に繋がってくると心配してしまいます。目先の材料から見通しを修正するのではなく、貯蓄・投資(IS)バランスなど、巨視的な視点からマクロ経済の展開を読む努力が今は必要とされているのではないかと思います。