着実に忍び寄る英国スタグフレーションリスク
3月の消費者物価指数は2月の前年同月比+6.2%から予想以上に大きく上昇し、同+7%となった。加えて、月次GDPが予想外に低調、労働市場統計も強弱入り混じった内容であったことから、英国経済はスタグフレーションに近い状況に陥るリスクがある。こうした環境はBoEの政策運営が難しくなることを意味しているが、短期的には引き続き、景気に対する懸念よりも、インフレ懸念が重視される可能性が高く、5月の金融政策委員会会合で追加利上げが行われる可能性が一段と高くなっている。
インフレ率はコンセンサス予想を30bp上回る上昇となっただけでなく、今回も上昇は広範囲に拡がった。3月に総合インフレ率の上昇に対する寄与が最も大きくなったのは輸送料金(ロシア・ウクライナ紛争後の燃料費の高騰を反映)と外食及び宿泊費などである。
国立統計局(ONS)はロックダウンの影響により、2021年2月と3月の一部のデータは補足されたものであることを認めている。そのため、宿泊費など一部の項目の上昇はある程度、割り引いて考える必要がある。だが、上昇が幅広い項目に拡がっていることと物価水準の動きからすると、基調的な物価圧力の高まりは続いていると見るべきであろう。特にコア財価格はパンデミック前からのトレンドを上回るペースでの上昇が続いており、依然として減速の兆しがみられない。3月のサービス物価も同様だ。
今後についても、インフレに一層の上昇余地があると考えている。4月にはガス電力市場監督局(OFGEM)の規制するエネルギー価格の上限水準が54%引き上げられる影響で、CPIインフレ率が9%近くに押し上げられるとみられることがある。また、食料品価格の上昇も一段と加速する見込みであり、ここでもロシア・ウクライナ侵攻が上昇圧力となっている。これは短期的にインフレ期待の上昇圧力を一段と強めるものになる可能性が高い。さらに、こうした強いインフレ圧力は景気に対しネガティブに働く。実際、労働市場統計では(賞与を除く)実質所得が前年比1%の低下となっていることが示されており、その後もインフレの上昇が続いているため、向こう数ヶ月間で実質所得はさらに低下する可能性が高いのである。
そのため、BoEは経済成長とインフレのバランスを取る難しい政策運営を迫られている。当面の間はインフレ懸念への対応が優先されると考えており、足元のインフレ統計はMPCが5月に再利上げを行うと確信するものになっている。その一方で、市場に織り込まれている今年の合計利上げ幅が過大との見方にも変わりはなく、実質賃金の低下を背景に需要の後退が進むことになれば、今年の後半には景気に対する懸念が最大の懸念材料になりかねない。