円の実力に対する誤解
円140円台、24年ぶり安値 衰える景気浮揚力: 日本経済新聞 (nikkei.com)
ドル円レートが24年ぶりの低水準と騒がれています。実際、プラザ合意のあった1985年9月と比較すると、円の実質実効レートは3割以上減価しています。そこで、プラザ合意のあった1985年9月から足元までにどれだけ円の実質実効レートに変化があったかを名目実効レートとインフレ率格差に分けて計算すると、名目レートは+77%以上増価しているのに対し、インフレ率格差は▲6割程度減価していることになります。つまり、長期的な円の国際的な購買力の低下は名目レートのドル高・円安ではなくインフレ率格差が主因であり、短期的な名目レートの動きのみで判断すると、あたかも通貨のみが減価しているとミスリードしてしまうことにもなりかねないでしょう。
事実、実質実効為替レートがピークだった1995年頃から円安基調に転じた時期は、日本経済がデフレによる長期低迷に入った時期と重なります。そして、これ以降に社会に出たロストジェネレーションを中心に日本人は将来に対する成長期待が持てていません。つまり、このデフレマインドが海外とのインフレ格差を作り出したといえるでしょう。
一方、かつて元米財務長官のローレンス・サマーズ氏は、過剰貯蓄や投資不足によって均衡金利が極端に低下し、金融政策のみでは機能不全に陥る「長期停滞論」を打ち出しており、この典型が日本です。そして、これを脱却するには財政出動や減税により需要不足を解消し、デフレマインドの解消につなげるしかないと海外の主流派経済学者達は指摘しています。ただ、財政健全化を重視する日本政府がそうした動きに出る気配はないのが現状です。
特に日本は、これまで政府債務残高の抑制に努めてきました。事実、2001年を基準とすると、日本の政府債務残高はコロナショック後の2021年でも1.8倍となり、英米の5倍以上に比べ、はるかに増加ペースは緩やかなものにとどまります。これはプライマリーバランスの黒字化を最優先課題として掲げた結果、本来行われるべきはずの財政出動や減税がなされなかったと解すべきでしょう。そして、その帰結が低いインフレ期待と、それに伴う実質実効為替レートの低下といえるでしょう。
しかし海外を見ればわかる通り、政府が財政を拡張すべき分野は多いはずです。例えば人的投資や経済安全保障・環境対策等は、長期間にわたる安定的な支出計画が必要な分野といえるでしょう。米国をはじめとした主要国はこうした分野を成長分野と位置づけ積極的に投資を行っています。こうしたことからすれば、日本もこうした方策をより強化すべきでしょう。
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