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今さら聞けない?ESG格付けの基礎と最新トレンド(前編)

みなさんこんにちは、シェルパの中久保です。この春からESG格付けに対応することになった、というサステナビリティ担当者の方もいらっしゃると思います。そこで今回から2回に渡って「ESG格付け」について紹介したいと思います。既にESG格付けに詳しい方も、後半に最新のトレンドを記載しましたのでお読み頂ければ嬉しいです。


ESG格付けとは

ESG格付けはESG評価とも呼ばれますが、簡単に言えばESGに関するリスクや管理能力などの観点から企業を格付けするものです。点数やランキングになっている場合もありますが、広くESGに関する様々な情報が提供されており(GHG排出量データなど)、これらをまとめて「ESG格付け/評価」と呼ぶことも多いと思います。具体的には以下のようなものがあります(参考:日本証券取引所グループ、ESG評価機関等の紹介

  • CDP

  • S&P Corporate Sustainability Assessment (CSA) 

  • MSCI ESG Ratings

  • Sustainalytics ESG Risk Ratings 

  • FTSE Russell ESG Ratings 

信用格付けとの違い

通常格付けといえば、S&PやMoody'sが出しているAAAなどの信用格付けを想起される方が多いかもしれません。信用格付けはみなさんご存知の通り、国や企業が発行する債権の信用力などを総合的に分析した結果です。

一般的に「ESG格付け」と呼ばれているものは、この信用格付けとは異なるためご注意ください。もちろんESGの要素が企業の信用力に関係する場合もありますが、「ESG格付け」はそれとは異なる枠組みで、企業のESGに関わるリスクや管理状況を評価することが一般的です。

したがって、信用格付けのように厳しい規制が適用されてこなかったという経緯がありましたが、昨今のESG格付けの影響力等に鑑み、金融庁がESG格付け機関に求められる事項を整理して行動規範を発表しています(ESG評価・データ提供機関に係る行動規範)。

ESG格付けはどのように利用されるのか

それでは、投資家はESG格付けをどのように利用するのでしょうか。下記の日経記事で分かりやすい図を用いて説明されていましたので、ご紹介します。

日本経済新聞「ESG評価機関、企業を翻弄 開示手法問われる」より

この図を簡単に説明すると、ESG格付けによって得られた情報を自らの投資判断に組み込む投資家が存在するということです。その態様は様々ですが、例えば以下のような代表的な使い方があります。

  • ESG格付け情報を投資手法に組み込む:いわゆるESGインテグレーションと呼ばれるESG投資手法の一環として、ESG格付け機関から得られた情報を使います。その程度や場面は様々ですが、投資家が投資対象を絞る際に1つのファクターとして使うイメージです。ここでは従来から用いられている財務情報も同時に考慮されます。

  • エンゲージメントの材料とする:エンゲージメントとは投資家と企業の建設的な対話です。投資家はこの対話によって企業のESG経営を促すことが可能です。このエンゲージメントにおける話の題材として、ESG格付け機関から得られた情報を利用することができます。

  • インデックス(指数)を利用した運用の元データになっている:インデックスとは市場動向を示す指数で、TOPIXなどが有名です。様々なロジックによって指数に組み入れられる構成銘柄が決定されます。この指数には、ESGに関連したものが存在し、例えばFTSE Blossom Japan Indexがあります。これは上記で紹介したFTSE Russell ESG Ratingsの評価が優れた日本企業で構成された指数です。投資家はこのようなESG指数をベンチマークとして、自らの投資先であるポートフォリオを組成し、指数に連動して運用を実施することができます。

世界最大級の機関投資家、GPIFによるESG指数採用

ESG評価に関連して、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のESG指数採用を紹介したいと思います。GPIFは日本の公的年金の運用を担っている組織で、世界最大級の機関投資家です。GPIFは総額200兆円を超える運用プロセス全体を通じ、ESGを考慮した投資を推進していますが、その一環として2017年度からESG指数に基づいた株式投資を実施しています。

具体的には以下の図のようなESG指数を選定しています。これらに連動する運用資産額は12.5兆円となっているため、その影響力は多大です(2023年3月末時点の情報ですので、アップデートがある点にご注意ください)。

上述のMSCI ESG RatingsやFTSE Russell ESG Ratingsなどは、これら指数の元となるESG格付けです。GPIFのESG指数選定は、こうしたESG格付けに企業が力を入れている重要な理由の1つとなっています。

GPIFウェブページ GPIFが採用するESG指数一覧 より

最新のトレンド

ESG格付けの影響が増大 ー GPIFによる指数見直し

2024年3月4日、GPIFが「ESG株式パッシブ運用の一部指数の見直しについて」という発表を行いました。見直された指数は「MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ」ですが、中でも注目すべきは「同業種内でESG評価が高い順に並べて時価総額50%を満たす銘柄まで組み入れていた銘柄選定基準を、業種内でESG評価が高い上位50%の銘柄に変更」という点です(それに伴い、ベンチマークを「MSCI日本株 ESGセレクト・リーダーズ指数」に変更)。

つまり、今まではセクターごとにESGランキング順で親指数(MSCI JapanIMI)の総額50%カバーをしていたので、時価総額が大きい企業が多く選定されていました。しかし今後は、セクターごとに銘柄数で、ESG評価ランキングの上位半分が対象銘柄となります。

この変更によって選定企業数が増えるとともに、ESG評価が高ければ、時価総額の小さな会社でも指数に選定されやすくなると考えられます。GPIFはこの点について「GPIFとしては、ESG投資は長期投資が前提であり、ESG以外の要因によって投資パフォーマンスが大きく左右されることは望ましくないと考えており、今回の見直しもその考えに基づいたものです」と説明しています。

次回後編で取り上げるトレンド

次回後編では引き続きESG格付の最新トレンドを紹介したいと思います。

ESG格付け機関によるモデルを活用したスコアの推定や、公開情報の要求(取り組みを行なっているだけではなく、それを開示することが評価アップに求められる)といったトレンドついて探っていきたいと思いますので、引き続きお読み頂ければ幸いです。

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