パーパスは取り繕うものではなく、もともと会社の中にあるもの。パーパスを掲げる本当の狙い。
皆さん、こんにちは。今回は「パーパス」について書かせていただきます。
「会社は何のために社会に存在しているか」。この問いかけに即答できる人はどのくらいいるのでしょうか。
これだけ「パーパス」という言葉が注目される今、会社だけでなく、個人単位でも、「自分は何のために存在するのか」ということに向き合い始めた人も多くいるのではないかと思います。
面接や面談を通して社外の人や学生さんと話す中でも、
・社会課題を解決して世の中の役に立ちたい
・他者にとって価値のあることをしたい
・自分の存在意義を実感したい
という言葉を今まで以上に聞くようになったことは、昨今のパーパスブームとは無関係ではないはずです。
■パーパスの明文化は何につながるのか。
パーパスとは、会社の存在意義のことを指し、ミッション、ビジョン、バリューの上位概念です。
ビジョン、ミッション、バリューは未来に向けて実現すべき姿であるのに対し、パーパスは現在の自分たちが何のために存在しているかを示すものであるという点が大きな違いです。
パーパスを制定するメリットは、以下の通りです。
・ステークホルダー(従業員/消費者/株主)からの支持を得られる
・社員のエンゲージメント向上につながる
・会社の価値観に合った人を採用できる
・組織の一体感や、新しいアイディアの創出につながる
パーパスがあると、企業は社会のために何をすればいいかが具体化します。企業活動の軸となるものができると、組織に属する人たちの目線や足並みが揃い、同じ方向を向きやすくなります。さらに、一人ひとりの行動と組織の目線が結びつけば、市場での高い評価につながります。
しかし、記事には
我々一人ひとりは、何のために働いているか自覚しているだろうか。「御社の存在意義を言えますか?」。取材班は東京・有楽町を歩く会社員100人にアンケートした。勤務先が明文化したパーパスやビジョンを「言える」と答えたのは63人と過半に達した。
「理念に共感したからこそ入社を決めた」。環境サービスで働く50代の男性は数年前の転職時を振り返る。一方、生命保険会社に勤める20代の男性は完璧に覚えているのに「具体的に目指す姿が分からず全く共感していない」と退職を決めた。
とありました。
パーパスやビジョンがある企業は多く存在し、それが“浸透”している状態であったとしても、その先には、社員の“共感”を得る必要があり、さらには“行動”を伴わせなければいけないものであって、「パーパスを制定すれば終わり」というわけにはいかないことが分かります。
つまり、企業理念に共感をしてもらえれば従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上、新たな人材の採用などにつながる一方で、それが浸透していたとしても具体的なイメージが沸かない、自分がどう動けばいいか分からないという場合は、せっかくパーパスを制定しても期待した効果は得られないのです。
社員一人ひとりが、自分の仕事と会社のパーパスとを照らし合わせた時に、社会に対してどんな役割を担っているのかをそれぞれで解釈し、語れるようになってこそ、パーパスを定めた意味が初めて生まれてくるのではないかと思います。
■サイバーエージェントのパーパス制定の背景
当社でも最近、パーパスを新たに発表しました。
パーパス制定に至った経緯は、以下3点です。
① ESG投資やSDGsなど企業の社会貢献に対する世の中の注目の高まりを受けたため。
② 当社の事業領域の拡大に伴い、会社の社会に対する貢献を明文化する必要性があったため。
③ 「自分の仕事が社会のどんな役に立っているのか」を理解した上で働きたいという社員の声が大きくなってきたため。
今回、これまでやってきた私たちの志や、社会での役割を改めて明文化するに至りましたが、社員がやることや目指すこと自体はこれまでもこれからも変わらないものだと思っています。パーパスは上辺だけを取り繕ってキレイな言葉を並べるものではなく、もともと会社の中にあって大事にしていたことを改めて形にするものだからです。
多様な事業に関わる全社員が、同じ長期視点を持って価値を創出していくためには、「会社として何を目指しているのか」の共通認識が必要でした。
会社の規模も大きくなりあらゆる分野で多角的に事業を展開している私たちが、世の中が大きく変化している中、改めて共通の軸や目線を持つにはちょうど良いタイミングだった、ということになります。
■会社も個人も「存在意義」を探している
会社がパーパスを求めるように、個人にもそれぞれのパーパスがあり、自分自身で納得ができる存在意義を作りたい、定義したいという人が増えている印象です。
理想を言えば、会社が掲げるパーパスと、個人のパーパスとが重なり合う状態で、日々の仕事に向き合えることがベストではないかと思います。その重なり合いが大きければ大きいほど、個人が充実感や幸福感を持ちながら仕事に向き合えるため、組織の生産性はぐいぐいと上がっていくのです。
ただし、必ずしも会社と個人のパーパスを一致させる必要はありません。むしろ、個人のパーパスは第三者から押し付けられるものではないので、完全に一致させることは不可能です。
ある程度のズレがあった方が健全で、かつ多様な価値観や考えがある方が組織の競争力が高まるはずです。
企業においてパーパスが重要な役割を果たすように、個人もパーパスを持ち、何に向かっていくかが明確になると、日々の生活にポジティブな変化がもたらされます。個人の存在意義を考えること自体が、社会に対する自らの立ち位置を考えることになるからです。
企業がすべきは、個人が自分のパーパスを考える過程において、一人ひとりの個性を大事に、自分らしさを失わずに、組織全体の目指すべき姿に向かって進める環境を整えていくことです。
全社員の理想を叶えることはできなくても、それぞれのタレントを活かせるような新たなキャリアの選択肢を提示したり、個人の意思を尊重できるような部署に配置転換したりなど、「何のために社会に存在しているのか」「自分の仕事を通して社会に何ができるのか」という問いに対して、少なくとも自信や誇りを持って自分なりの答えに近づけるような社員を増やす努力をしていかなければいけません。
個人の想いや理想を組織の力に変えていける企業こそ、厳しく変化の激しい時代でも生き残っていけるのではないでしょうか。
■パーパス制定は収益につながるのか。
引用した記事には、
米スターバックスやIBMなどが加盟する団体は、消費者100万人の評価を基にした4000社超のパーパスの点数と、収益との関係を分析した。「高パーパス企業」は投下資本利益率が13.2%で「低パーパス」の2倍近かった。
とあります。さらに、
・高パーパス企業は低パーパス企業と比べて投下資本利益率、市場評価、株主総利回り率の全てが高い
・従業員にとって、自社のパーパスが明確な会社ほど、総資産利益率(ROA)が高い
とあり、パーパスを実現するのは、他でもない“社員”であって、一人ひとりが会社のパーパスを自分事として捉える必要があることは明確です。
パーパス制定の最大の効用は、「企業の持続的成長」です。
企業は利益を追求するだけでなく、社会的課題にフォーカスしながら実業務に結びつけていくことで、従業員や消費者、そして株主からの信頼や共感を得ることができます。それが結果的に会社のブランド力や収益の向上につながっていくのではないかと思います。
パーパスを制定したからといって、すぐに会社の収益につながるわけではありません。
大事なことは、パーパスを軸に中長期的な目線で「経済活動」と「社会課題解決のための動き」を共存させ、戦略的に各企業が事業機会を創出しながら成長し続けていくことではないでしょうか。
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