ユーロ高は解せない
拡大資産購入プログラム(APP)縮小に関する決定が10月会合で行われることも、ユーロ高に対するけん制が見られることも、全てが市場予想通りでした。 APP縮小に関して、今回の会合で詳細な決定まで期待する向きもあったようですが、前回7月会合で議論すらされていなかったものが、一足飛びに今回議論着手となり、決定まで至るということはないでしょう。ECBの意思決定プロセスは専門委員会、WGを通じて行われる比較的迂遠なものであり、夏休みもあったことを踏まえれば、今回は「着手」までであり、「決定」は10月となります。なお、会見をつぶさに呼んでいけば分かることですが、その10月も状況次第では「延期(postpone)」はあり得るとされています。
ECBから供給された情報の ほとんどは想定の範囲内ですが、ユーロの反応だけは解せません。声明文もドラギ総裁の会見も、かなりはっきりとユーロ高に対する懸念が表明されており、 真っ当に考えれば、この状態からユーロ買いを進めるのは相当勇気が必要かと思います。今会合では声明文でも「the recent volatility in the exchange rate represents a source of uncertainty which requires monitoring with regard to its possible implications for the medium-term outlook for price stability」との文言が挿入されており、ユーロ高が看過できない論点として浮上していることは間違いありません。なお、この声明文に関し、懸念されているのは「ボラティリティ」であって「ユーロ高」ではないのでユーロ買いを招いたという解説を見ましたが、最近の相場つきを見ればそのような解釈は詭弁と言わざるを得ません。
同じく、「具体的な水準への言及がなかったからユーロ買いが進んだ」という解説も見ますが、ECB総裁が為替の水準に言及するはずもなく、当たり前でしょう。敢えて波風が立たない「ボラティリティ」という表現を使ったのであり、本音としてユーロ高が気に食わないという事実は疑いの余地がないでしょう。ドラギ総裁は会見の中で「最近のユーロ高を受けて、ユーロ圏の金融環境は明確に引き締まった」とはっきり述べており、これを嫌気しているのはほぼ確実と思われます。私自身、ドラギ総裁就任以来、お客様向けレポートで会見分析を提供させて頂いておりますが、これほど露骨にユーロ高をけん制したシーンは私の記憶にはありません。
なお、インフレ率見通しは強烈なユーロ高の割には下方修正幅が限定的だった印象を受けました。それだけ個人消費を中心とする堅調な内需を評価したのかもしれませんが、穿った見方をすれば、これからAPP縮小を決断しようとしている以上、物価見通しの露骨な下方修正が難しかったのではないかという可能性も頭をよぎります。
いずれにせよ、6 月末以降の金融市場では、総じてECBの正常化プロセスへの期待が強まりすぎている印象が強いです。声明文でも指摘されているように、利上げに着手できるのは APPが縮小され、廃止まで至った後です。それは最速でも恐らく2019年以降でしょう。ECBがユーロ高を嫌気していることを考慮しても、過去数カ月の ユーロ買いは過剰といわざるを得ないと思います。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO20912790Y7A900C1FF1000/
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