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巨大資本が有利なAI市場にスタートアップが勝つ【第24回日経フォーラム 世界経営者会議_DeepL CEO ヤロスワフ・クテロフスキー氏】

ありがたいことに、今年も日本経済新聞が主催する『第24回日経フォーラム世界経営者会議』をオンライン視聴させていただく機会を得ることができた。世界に名だたるグローバル企業の経営者による講演は、非常に聞きごたえがあり、どれも素晴らしいものだった。その中でも、『第24回世界経営者会議』を視聴して、特に気になったスピーチを5つ選び、考察をしていきたい。
第4回目は、登場以来、機械翻訳の業界に大きなインパクトを与え続けているDeepL CEOのヤロスワフ・クテロフスキー氏による「AI翻訳で日本のビジネスに変革を」だ。

巨大資本が有利なAI市場にスタートアップが勝つ

今や、Deeplを手放すことはできないと考える日本人ビジネスパーソンは多いのではなかろうか。かくいう私も、論文執筆や英語資料の作成で、Deeplは手放せないツールとなっている。機械学習を活用したAI翻訳で急成長を遂げるDeepLは、登場以来、急速に全世界に普及し、外国語によるコミュニケーションの壁を壊し続けている。
DeepLは、ポーランド人のITエンジニア、ヤロスワフ・クテロフスキー氏によってドイツのケルンで2017年に発表され、2020年に日本語に対応してからは日本でも爆発的に利用者を増やしている。もともとは、元Googleのエンジニアであるゲレオン・フラウリンが2008年に創業したLinguee社の1チームであり、2017年のDeepLリリースに伴い、社名をLingueeからDeepL GmbHへ変更している。

一般的に、AI事業は資本力のある巨大企業が有利で、スタートアップ企業にとっては不利だと言われる。しかし、同社は徹底した効率化とリソースの選択と集中によって、巨大資本よりも優れたAI翻訳を提供している。

英語苦手な日本市場が世界のAI翻訳の主戦場となる?

クテロフスキ―氏によると、同社にとってドイツに次いで2番目に利用者が多い市場が日本だという。2020年のリリース以来、急激な成長をみせている。同氏は、その原因を ①日本はグローバル企業が多くあるため外国語翻訳のニーズがある、②AIのような先端技術への心理的抵抗感が低い のではないかと分析している。

後者の心理的抵抗感はDXで多大なる遅れをみせる我が国の現状をみると違和感を持つが、前者のほうは大いに理解できる。日経新聞が定点観測として発表している世界シェア56品目では、米国と中国に次いで、日本企業が多くのシェアを有している。先進国の中、世界市場で戦っている企業の中で日本企業は有数の存在感を発揮している。

反面、日本人の外国語能力の低さは世界的に有名だ。グローバル企業が多く、外国人とのやり取りも多い日本で、つたない英語話者を援けるAI翻訳は渡りに船だ。
さて、日本の特殊性がスタートアップの立ち上げ時に有利に働いたという事例は過去にも多くある。例えば、ロボット掃除機のアイロボット社は日本の消費者は要求水準が高いことを活用して、ロボット掃除機の品質向上のための意見を吸い上げるテストマーケティング・センターとしての位置づけをしていたことがある。また、世界的なクラフトビール・ブームを作り上げたイギリスのユニコーン企業であるブリュードッグは、東京の新しもの好きなバーに商品を卸すことができたのが立ち上げ時の厳しい時を乗り切るのに大きかったと語る。
要求水準が高く、なおかつ、グローバル企業の多さに反して外国語が苦手だという日本市場は、AI翻訳を開発する企業にとって、重要なテストマーケティングの場となるのだ。

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